就任後初の衆院予算委員会で、高市早苗首相が口にした「台湾有事は存立危機事態になりうる」との答弁。この一言が日中関係に深刻な影を落としています。なぜ高市氏の発言は、ここまで外交的リスクを伴う「大惨事」に発展したのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野孟さんが、首相が前提とした「海上封鎖」というシナリオの不自然さや、安倍政権が残した「存立危機事態」概念そのものの「無理筋ぶり」を検証。その上で、台湾情勢を巡る国際法上の位置づけや米中の力学、さらに日本が本来取るべき外交姿勢について考察しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:日中関係を暗転させた高市首相の「存立危機事態」の一知半解/安倍の悪しき遺産を弄ぶと命を縮めますよ!
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
日中関係を暗転させた高市首相の「存立危機事態」の一知半解/安倍の悪しき遺産を弄ぶと命を縮めますよ!
高市早苗首相が11月7日の衆院予算委員会の初舞台で、立憲民主党の岡田克也元外相の巧みな挑発に乗せられて、台湾危機についての一知半解的な知ったかぶりを口にしたため、たちまち日中関係を暗転させるほどの外交的大惨事に発展した。
ご本人にしてみれば、「この程度のことを言って何が悪いのか」くらいに思っているかもしれないが、台湾問題は中国にとって最も微妙かつ繊細な問題であり、それに言及する場合には最大級の慎重さと思慮深さを以てしなければならないというのは外交に携わる者の常識であって、それに照らして言えば彼女の発言は余りに不用意でがさつなものだった。
すでに報道されていることではあるが、まずは彼女が日に何を言ったのか、もう一度確かめよう(日付毎日、朝日による、( )は引用者が挿入)。
高市と岡田とのやりとり
岡田 総理は1年前の総裁選で、中国による台湾の海上封鎖が発生した場合を問われ、存立危機事態になるかもしれないと発言した。
首相 (1)実際に発生した事態の個別具体的な状況に即して、全ての情報を総合して判断しなければならない。
(2)例えば海上封鎖を解くために米軍が来援をする、それを防ぐために〔中国側から〕何らかの他の武力行使が行われるといった事態も想定される。
(3)単に民間の船を並べて通りにくくするといったことは存立危機事態には当たらないと思うが、戦争という状況の中での海上封鎖であり、ドローンも飛び、いろんな状況が起きた場合、別の見方ができる。
岡田 自民党副総裁の麻生さんが中国が台湾に侵攻した場合、存立危機事態と日本政府が判断する可能性が極めて高いという言い方をしている。
首相 (4)台湾を完全に支配下に置くためにどういう手段を使うか。単なるシーレーンの封鎖かもしれないし、武力行使かもしれないし、偽情報、サイバープロパガンダかもしれない。
(5)それが戦艦を使い武力の行使を伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になりうるケースだ。
岡田 どういう意味か。武力攻撃が誰に発生することを言っているのか。
首相 (6)条文通りだ。
岡田 近隣で有事が発生した場合に、政府として最もやらなければいけないのは、在留邦人を安全なところに移動させることだ。自らが「存立危機事態」だと言って武力行使したら〔邦人避難が〕困難になってしまう可能性が高い。軽々に武力行使と言うべきではない。
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