7月21日に閣議決定された「骨太の方針2026」に対し、金融市場では財政規律への懸念から円安と国債価格の下落が進み、「骨太ショック」とも呼ばれる事態になりました。同時に決定された「日本成長戦略」は、17分野に370兆円超の官民投資を掲げる壮大な構想ですが、そこには根本的な問題が潜んでいます。メルマガ『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』では、『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野晃一郎さんが、「選択と集中」なき総花的な成長戦略の欠陥と、実効性を高めるための処方箋を提示します。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです
市場はなぜ「骨太の方針2026」に失望したのか?
今回は、日刊ゲンダイに連載中の『デジタル後進国のグランドデザイン』に先週寄稿したものに少し加筆してお届けします。
X上のリンクは以下になります。
【デジタル後進国のグランドデザイン/辻野晃一郎】市場はなぜ「骨太の方針2026」に失望したのか https://t.co/3dpAot3cvo
— 日刊ゲンダイDIGITAL (@nikkan_gendai) July 31, 2026
https://x.com/nikkan_gendai/status/2083120486775451955
7月21日、政府はいわゆる「骨太の方針2026」を閣議決定しました。これに先立って公表された原案や政府の積極財政路線に対し、金融市場では財政規律への懸念が強まり、円安と国債価格の下落(長期金利の上昇)が進みました。こうした市場の動きは「骨太ショック」とも呼ばれています。
骨太方針と同時に決定された「日本成長戦略」では、17の戦略分野、62の製品・技術に対して、2040年度までに累計370兆円超の官民投資を行い、名目GDP1100兆円を目指すという壮大な構想が掲げられました。しかし、その成長戦略には根本的な問題があります。
最大の問題は、「選択と集中」が見えない総花的な内容になっていることです。AI・半導体、量子、バイオ、防衛、宇宙、GXなど、いずれも重要な分野ですが、政府の政策資源や支援策が薄く広く分散すれば、民間投資を十分に引き出せない恐れがあります。人口減少が進み、財政余力も限られる日本にとって、17分野を並列的に支援するだけでは、世界トップレベルの産業を育成するのは難しいでしょう。戦略とは、「何をやるか」と同時に「何をやらないか」を決めることでもあります。
かつて、日本が半導体で世界を席巻したのも、自動車産業が世界市場を制したのも、重点分野に人材・資金・政策を集中させた結果でした。今回策定されたロードマップは、成長戦略というより、各省庁からの要望をすべて積み上げた網羅的な産業政策ポートフォリオ集とでもいうべきものです。政府がそのような政策集をまとめたこと自体は評価すべきですが、勝負は、今後この中から本当に勝ち筋を作り上げていくことができるかどうかにかかっています。
第2の問題は、370兆円という「投資額」の提示そのものが目的化しているように見えることです。持続的な経済成長を生み出すには、投資額だけではなく、イノベーションを促し、生産性を高める仕組みが不可欠です。しかし、その前提となる競争政策や労働移動政策、それらの政策を推進する規制改革や制度改革、人材改革や企業改革については、十分な踏み込みが見られません。また、370兆円というと一見途方もなく大きな投資額に感じますが、米国でのAI投資は今や企業1社で100兆円とか200兆円という規模感ですから、そういうものと比べると、17もの広範な分野での370兆円の投資額が、必ずしも十分な規模なのかどうかはわかりません。
そして第3に、市場が最も警戒しているのは財政規律です。政府は債務残高対GDP比の安定的な低下を掲げていますが、積極的な成長投資と財政健全化をどう両立させるのか、その具体的な道筋は不透明です。そのため市場では、成長戦略への期待よりも「財源なき放漫財政」による財政悪化への懸念が一気に高まりました。
実効性を高めるには、早急に戦略分野を3~5分野程度に絞り込むことです。例えば、AIロボティクス、次世代半導体、エネルギー・電池、医療・介護テクノロジー、防災テクノロジーなどへ政策資源を集中投下すべきです。また、補助金中心ではなく、規制改革や税制改革によって企業が自ら投資したくなる環境を整えることが重要です。
その上で、3年または5年ごとにKPIを設定し、成果が出なければ支援を見直す「出口戦略」も必要です。失敗を認めて資源を再配分する仕組みがなければ、過去の産業政策の失敗を繰り返すだけです。
成長戦略の成否を決めるのは、投資額の規模だけではありません。「選択と集中」を徹底し、限られた資源を世界で戦える分野へ集中的に投入できるかどうかにかかっています。
(本記事は『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中 』2026年8月7日号の一部抜粋です。このほか「今週のメインコラム」や「読者の質問に答えます!」、「スタッフ“イギー”のつぶやき」など、レギュラーコーナーも充実。この機会にぜひご登録をご検討ください)
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