戦後の少女文化を語るうえで欠かすことのできない伝説の雑誌『それいゆ』が、創刊80周年を迎えた。その節目に、創刊者・中原淳一のモノクロ線画を集めた作品集『「それいゆ」創刊80周年 Blanc et Noir 中原淳一イラストレーションズ』が玄光社から刊行された。収録作品の半数以上が単行本初掲載という、ファン待望にして資料的価値もきわめて高い1冊である。

『「それいゆ」創刊80周年 Blanc et Noir 中原淳一イラストレーションズ』 玄光社・刊 定価:3,960円(税込)
焼け跡の日本に「美しく生きる」希望を灯した雑誌『それいゆ』
『それいゆ』は、画家・ファッションデザイナーの中原淳一が1946年に創刊した女性誌である。誌名はフランス語で「ひまわり(太陽)」を意味する。戦後間もない、まだ物資も乏しく、装いどころか日々の暮らしにも事欠く時代に、この雑誌は若い女性たちへ「美しく生きる」ためのさまざまな提案を届け続けた。着るもの、住まい、立ち居振る舞い——貧しさの中でも工夫と心がけ次第で美しくあれる。その誌面はまさに、誌名の通り希望の光を当てる太陽のような存在だった。

『「それいゆ」創刊80周年 Blanc et Noir 中原淳一イラストレーションズ』より
驚くべきは、表紙から挿画までを中原自身が描いていたことだ。その内容は服飾ファッション、ヘアスタイル、インテリア、小物の作り方手順、小説の挿絵にまで及び、実に多岐にわたる。カラーページが貴重だった時代ゆえ、その大半はモノクロの線画だが、ペンによる線描には、のちの少女漫画にも通じる流麗で繊細な味わいがある。

『「それいゆ」創刊80周年 Blanc et Noir 中原淳一イラストレーションズ』より
大きな瞳の少女像で知られる中原の美意識の核心が、色彩を排した「白と黒」の世界にこそ凝縮されていると言ってもいい。本書のタイトル「Blanc et Noir(ブラン・エ・ノワール)」は、フランス語で「白と黒」。まさにこの線画の魅力に正面から光を当てた作品集である。
数千点におよぶ「未掲載」の挿画から厳選
中原の没後、その仕事を紹介する関連書籍は数多く刊行されてきた。しかし、それでもなお、一度も書籍に掲載されたことのない挿画が数千点も存在していたという。

『「それいゆ」創刊80周年 Blanc et Noir 中原淳一イラストレーションズ』 より
本書は、創刊80周年を迎えた『それいゆ』を中心に、主に雑誌のために描かれた挿画の「原画」から厳選して構成された作品集で、収録作品の半数以上が単行本初掲載。長年のファンであっても初めて目にする図版に、次々と出会えるはずだ。

『「それいゆ」創刊80周年 Blanc et Noir 中原淳一イラストレーションズ』より

『「それいゆ」創刊80周年 Blanc et Noir 中原淳一イラストレーションズ』より

『「それいゆ」創刊80周年 Blanc et Noir 中原淳一イラストレーションズ』より
物語の挿絵から未公開ラフスケッチまで
編集方針もユニークだ。経年変化による傷みや汚れをあえて修整せず、原画の風合いとしてそのまま掲載。80年という歳月を生き延びてきた紙の質感ごと味わえる誌面になっている。また、当時は色指定によってカラー化されて雑誌に載った挿画も、本書では描かれたままのモノクロの状態で見ることができる。印刷物では失われていた、ペン先の息づかいまで感じ取れる構成だ。
内容は「物語の挿絵」「ファッション・イラストレーション」「インテリア/生活の知恵」「初期の習作」「未公開ラフスケッチ」ほかで構成。完成された挿画だけでなく、初期の習作や未公開のラフスケッチまで収められており、中原淳一という稀代のイラストレーターの筆の軌跡をたどることができる。本書の企画・編集は、手塚治虫の復刻本を数多く手掛けてきたアンソロジストの濱田髙志である。

『「それいゆ」創刊80周年 Blanc et Noir 中原淳一イラストレーションズ』より

『「それいゆ」創刊80周年 Blanc et Noir 中原淳一イラストレーションズ』 より
中原の描く少女たちに憧れてきたファンはもちろん、イラストレーションや少女漫画の源流に関心のある人、戦後の生活文化やファッション史を知りたい人にとっても、第一級の資料となる1冊。A4判・176ページの堂々たる造本で、じっくりと線の世界に浸ってほしい。(MAG2 NEWS編集部・田端)
『「それいゆ」創刊80周年 Blanc et Noir 中原淳一イラストレーションズ』

『「それいゆ」創刊80周年 Blanc et Noir 中原淳一イラストレーションズ』 玄光社・刊 定価:3,960円(税込)
著者:中原淳一
発行:玄光社
発売日:2026年9月4日
判型・ページ数:A4・176ページ
定価:3,960円(税込)
※電子書籍版もあり
image by: 産業経済新聞社(Sankei Shinbun Co., Ltd.), Public domain, via Wikimedia Commons









