北朝鮮の制裁に踏み切れない中国を見切りはじめた韓国

2016.02.09
by ニュースフィア
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北朝鮮は7日、人工衛星の打ち上げを行い、事実上の長距離弾道ミサイルの発射実験を行った。北朝鮮が弾道ミサイル技術を利用したロケットを発射することは国連安保理決議によって禁止されており、各国は強く抗議している。日本やアメリカは独自制裁を準備すると同時に、厳しい制裁を課す国連安保理決議の採択を求めている。一方、中国は強力な制裁を課すことには依然として消極的だ。韓国はこのところ親中の姿勢をあらわにしていたが、中国に失望し、姿勢を急速に改めている。しかし中国には厳しい制裁を課したくない理由があるようだ。

北朝鮮が敵対的になることを警戒する中国

中国国民からも、自国政府の北朝鮮への対応を疑問視する声が上がっているようだ。中国外務省は北朝鮮のミサイル発射について遺憾の意を表明したが、中国のソーシャルメディア「ウェイボー」のあるユーザーは、「外務省(の対応)が『遺憾』だ」、と投稿したとインターナショナル・ニューヨーク・タイムズ紙(INYT)は伝える。ウェイボーの別のユーザーは「必死に考えたけれど、ならず者政権を守るために世界中皆の感情を害さなければならない理由が全くわからない」と投稿したが、中国政府にはやむを得ない理由があるようだ。

中国は、金書記への不満にも、首脳間の関係が冷ややかなのにもかかわらず、おそらく金書記の振る舞いに我慢し続けるだろう、と中国人民大学の国際関係学の時殷弘(Shi Yinhong)教授はINYTに語っている。中国が恐れているのは、厳しい制裁を課すことによって、扱いにくい同盟国の北朝鮮を、厄介な敵国に変えてしまうことなのだという。

中国は最低限の安定性を維持できればいい

ガーディアン紙の社説は、中国が北朝鮮の体制維持を優先させていることに注目している。中国はずっと前、核の危機がこれほど強くなかった頃に、北朝鮮政府をもっと協調的な姿勢に追い込むための行動を起こせていただろう。だが中国がそうしなかったのは、朝鮮半島が韓国のもとで再統一されるという昔からの懸念があるためだ、との旨を同紙は語っている。もしそうなれば中国は、アメリカの同盟国であり米軍も多数駐留する韓国と、国境を接することになる。

アメリカと中国との間で、北朝鮮の核・ミサイル問題に対する意識に温度差がある。そのことが制裁への姿勢の違いを生み出している。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)の社説は、今回の発射実験は、北朝鮮がアメリカを核弾頭搭載の大陸間弾道ミサイルで攻撃する能力に近づいたことを意味するが、中国はあまりそのことを心配していないようだ、と語っている。

時教授はINYTで、「アメリカの主要な関心は(北朝鮮の)核兵器を削減することにあり、中国の主要な関心は、最低限の安定性を維持することと、北朝鮮を友邦に保っておくことにある」と語っている。「アメリカと中国の全般的な関係は良好からはほど遠く、北朝鮮をめぐる、中国との現実的な交渉材料はアメリカにはないと思う」と語っている。

またガーディアン紙に掲載された、元デイリーNK記者のクリストファー・グリーン氏のオピニオン記事では、「朝鮮問題」は南シナ海での中国の利益とつながっている、とされている。アメリカは(中国と拮抗させるために)地域の小さな国々の勢力を補強することを戦略目標にしている、と同氏は語る。詳しい説明はされていないが、おそらく、アメリカを北朝鮮問題に関わらせておくことで、南シナ海でそういった活動をする余裕を失わせるということだろうか。

またグリーン氏は、中国が北朝鮮への制裁について慎重である理由の1つとして、中国の国境地方には多数の朝鮮族(韓国・朝鮮系中国人)が暮らしていることを挙げている。制裁により、国境地方の住民間に不和が広がることを中国政府は恐れている、というのだ。

中国に見切りをつけた韓国

韓国は北朝鮮のロケット発射の数時間後、アメリカのミサイル防衛システムTHAAD(最終段階高高度地域防衛)の国内配備に向けアメリカと正式協議に入ると発表した。これは中国にとって望ましくない展開だった。INYTは発表について、確実に中国を不快にする動きであると語っている。

朝鮮半島にTHAADを配備する可能性があることについて、中国は強く反対しているとWSJの記事は伝えている。中国政府は米韓のより緊密な協力を警戒しており、THAADの導入は中韓関係を損ないかねないと韓国政府に警告しているそうだ。

アメリカが中国の国防を妨げるため、あるいは中国をけん制する手段として使用するシステムだと中国は主張し、配備に強硬に反対している、とINYTは伝える。ロイターによると、THAADのレーダーが自国領内に及ぶ可能性があることに中国は警戒感を持っているらしい。

韓国はこれまで、最大の貿易相手国である中国を怒らせることを懸念して、THAAD配備の可能性を公式に議論することは差し控えていた、とロイターは語る。韓国政府はアメリカとの間で協議などはしていないという姿勢を貫いてきた。ブルームバーグは、韓国は何年もの間、THAAD配備の考えをはぐらかし続けてきた、と語る。その主な理由は、隣国の中国をイライラさせる危険があることだと語る。

しかし韓国の朴槿恵大統領は先月13日、THAAD配備について「わが国の安全保障、国益に基づき検討する」と発言した。WSJによると、先月6日の北朝鮮の核実験後、米韓間でTHAADをめぐる非公式協議が増えていたとのことだ。

1月の核実験以後、韓国では中国に対する失望が高まっているようだ。近年、韓国は、北朝鮮の核の野望を弱めるのを中国が手伝うと期待して、中国とのより緊密な関係を積極的に求めてきたが、1月の核実験以後、その雰囲気が変化した、とINYTは語る。

「朴大統領は中国の戦勝70周年記念軍事パレードのために北京に行ったことで、政治資源を大量に消費したが、見返りとして何も得なかった、あるいはきっぱりとした拒絶を受け取った」とパシフィックフォーラムCSISのラルフ・コッサ理事長はブルームバーグに語る。「中国に韓国への『支持』を多少なりと期待することは世間知らずだったが、将来の北朝鮮の挑発に対して中国が客観的に対応するだろうとの期待はあった」と語っている。

だが、中国が自国よりも韓国を重視しだしたことに北朝鮮が不満を感じていて、そのせいで中国は北朝鮮の手綱を失った、とも言われている。中国人民大学の国際関係学の成曉河(Cheng Xiaohe)教授は、1月の核実験、そして今回のロケット発射は、北朝鮮と韓国の両方と良好な関係を維持するという中国の目標は、極度に難しい綱渡りだということを示した、とINYTで語っている。

(田所秀徳)

 

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記事提供:ニュースフィア

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