中国の不気味な沈黙。「人民元切り下げ」の見返りに求めるものは何か

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ロシア、中国、北朝鮮…。毎日洗脳のように繰り返し報道されている「脅威」が全て仕組まれたものだったとしたら? メルマガ『グローバル時代、こんな見方も…』の中で著者のスティーブ・オーさんは、最近のG7、マーケット、中国政府、日本政府などの動きを多角的に検証し、政府が表向きには「国民のため」といいながら、実際は武器商人や輸出企業の下支えをしていると指摘しています。

中国版プラザ合意、G7の本音は自国マーケットの救済にあり

今月26、27日に上海で開催されるG20中銀総裁・財務相会議に先立ち、米大手金融機関のストラテジストらが「中国版プラザ合意」の必要性を指摘しているとロイターが報じている(文末リンク)。

プラザ合意と言えば、1985年のニューヨーク・プラザホテルで首脳国が取り決めた「ドル安誘導」のことである。「中国版プラザ合意」という指摘には、各国が協調して人民元を切り下げることで同国経済を支えたい意図が伺える。これは、今の中国経済がそれだけグローバルに浸透していることの裏付けでもあるが、当の中国が人民元の協調切下げをどれだけ「望んでいるか」との見方もできる。確かに、経済面で中国が得るものは少なくないかもしれないが、後述するがそればかりが望みとは言えそうもない。

これまでにも述べてきたように、G7各国は株価頼みの経済政策を続けており、株価と国力がまるで同意義のような状態に陥ってしまっている。中国版プラザ合意が言われる背景には、中国経済の停滞にまつわる憶測がマーケットを震撼させる大材料となっており、それを市場から取り除きたい狙いがある。しかし、中国景気の減速はデータと共にもう何年も前から言われ続けていて、今になってわかったことではない。つまり、マーケットが揺れている理由はもっと別のところにある

上の記事には興味深い指摘がある。人民元の協調切下げが必要な理由として、中国からの「資金逃避を鎮静化」を挙げながらも、その前段で「(世界の)金融市場の信頼感の喪失が危機を招くかもしれない」と案じている。ここはまさに本音と建前である。考えるべきは、マーケットの安定を至上命題としているのは米国を始めとするG7各国であって、中国経済の牽引役はマーケットではないという点である。

また、この提案では、現在の中国と1985年当時の米国を置き換えて見ているわけであるだが、当時の米国は既にいわゆる「双子の赤字」を抱える純債務国であったのに対し、今の中国は米国の、そして世界最大の債権国である。当時の米国と今の中国では財務環境は大分異なる。

各国協調による人民元の切下げを必要とするほど、中国の経済や財政が自力再生不能な状態にあるわけではないのに、「中国救済」の名目で事実上のG7マーケット救済が合意に至ることは考え難い。仮にそのような合意があるとすれば、後述するがそれはG7各国と中国とで相応の取引があったときに限られるのではないか。

ちなみに、プラザ合意による米ドル協調切下げ以降、急激なドル安・円高が進み、日本ではそれがバブル経済の入口であったとされている。前にも増して、「株価」への飽くなき欲望がG7諸国を支配している今、「元安その他通貨高」で当時の日本のようなバブル国が現れるかもしれない。米ドルに対して日本円なら、人民元に対する「台湾ドル」というウルトラCがないとも言えない。

金融危機以降の「米中連携」

昨年6月、それまで投機的に釣り上げられていた中国の株式市場が突如、不自然な大暴落を演じ、その後逮捕者も出た。この「異変」を日米では「中国発の混乱」としているが、上で述べた通り中国景気の減速はデータと共に何年も前から言われ続けている。

事実、その上海市場下落開始以降も、日米を始めG7各国の株式市場は高値近辺で推移している。瞬時に連鎖反応を示す株式市場において2秒の時差はあっても、2ヶ月の時差など到底考えられない。よって昨年夏の暴落は「中国発でないことが明白である。

昨年8月から始まるG7各国のマーケットの乱高下は、日本市場で最初に見られた。8月11日、日経平均は19年振りの「高値更新」が試される水準を維持して始まりながら、昼休み前に下降し始め、結局その日は大幅安で引けている。この日、中国当局は新たな人民元取引ルールへの移行を表明し、それに伴い対ドル中心レートが1.8%程度切り下がったのである。

ここ数年の、各国中銀のアクション(QEないしQQE)開始以降で見ると、ドルは円に対して20%程度下落した後、バトンタッチで日銀がアクションを起こし円は対ドルで30%程度下落し、ユーロもECBのアクション後に対ドルで6%程度下がっている。日本円は、日限がアクションに及ぶ数ヵ月前の政権交代以降、「先行」して20%程度下落した後に30%程度の追加下落となった。

しかし、金融危機以降で見ても中国は一貫して人民元の上昇を受容し、現在でも対ドルで4%程度の上昇」を保っている。昨年夏の新ルールで生じた2%に満たない切下がりに対し、今も日本を中心に批判報道が続いているが、それは金融危機以降12%程度切り上げた後の下落に過ぎない。

少なくとも金融危機以降、昨年8月の人民元新ルール発表に至るまでは(それに至る理由発生までは)、米中当局は次のように連携して通貨政策を執っていた可能性がある。

  1. 米国は金融危機後、危機克服を目指して真っ先にドルを切り下げた(中国のドル下落容認
  2. 米国はそこで得た体力をもって、ここのところのドル上昇を受容している(米国のドル上昇受容
  3. 中国は、ドル上昇開始後もドルペッグを継続し、全世界の通貨に対する人民元上昇をもって世界経済を支えた(中国の人民元上昇受容
  4. 膨大な量のマネタリーベース拡大で、急激に低下するドルの信認を人民元によるドルペッグで支え、これが結果的に後のドル独歩高も和らいだ(中国のドル信認下支え・ドル独歩高緩和
  5. 危機発生直後、中国は超巨額景気刺激策を世界に向けて発し、恐怖が席巻する世界の金融市場の底割れを回避した(中国の世界経済下支え

金融危機以前、人民銀行は人民元を通貨バスケットへ連動させる準備を公にしていたことが知られている。しかし、先進諸国が金融危機に陥ったことで方向転換し、ドルペッグを継続して米ドルの信認を下支えし世界の金融システムが大混乱に陥る事態を防いだと見ることができる。

ここで見えてくるものは、「米中当局の連携」であり、大国を自負する両国は目立たないところで通貨政策を共にし、世界経済を下支えようとしたのである。よって、今回のG20に向けて一部提案のあった人民元の協調介入は、この延長上にあると見ることもできる。もちろん、だからと言って米中が全面的に協力関係にあるわけではない。両国内の勢力間の力関係によりその時々で見え方は変わってくる。そして、それは昨年、またはそれ以前のどこかの時点で転機が訪れた可能性がある。

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