中国の不気味な沈黙。「人民元切り下げ」の見返りに求めるものは何か

 

異例な事象の連続

昨年、年初に行われたAIIBの調印式において、既にそれ以前に加盟表明を済ませて調印式に出席したいくつかの国々が、式典の場で調印を「延期」するという異例の事態が起こった。またそれに遡り、中国が発足を予定していた国際金融取引システムCIPSが延期を余儀なくされている。新システムを設計していたIT技術者グループの飛行機事故が言われている。

昨年6月まで、勢いよく買い上げられてきた上海市場は突如暴落し、その2ヶ月後に人民元の新政策が発表され、直後に為替市場では「全通貨」に大異変が起こった。本来であれば、人民元が切り下がったことで、その対になる米ドルに資金が向かうはずであるが、その時点で米ドルは円、ユーロ、スイスフランなどに対して大幅に下落し、さらに昨年末に利上げをしたにもかかわらず今も下落が止まらない。また為替に留まらず、株式やコモディティ市場でも混乱が続き、G7各国では政治的にも揺れが目立ち始めている。

昨年8月以降、新たな人民元政策に対してIMFや欧州などが「透明性が増した」と歓迎するなか、日米当局による中国批判を続けているのも異例である。新政策は「脱ドルペッグ」と、ドルを含む「通貨バスッケトへの連動」が基本となっていて、それは前述の「ドルの信認が大きく低下することを意味している。

中国やその他の新興国に限らず、サウジなども米債売りを始めていると言われているが、これを単に「自国通貨防衛のドル売り」と見るか「信認低下への警戒」と見るかは、ここ数年で明らかになる結果を見てみないとわからない。しかしながら、中国はドル債を売る一方で金の保有量を増やしている。この事実は大きな注目に値するが、私の知る限りこれは日本国内で報じられていない。

そして今年、日本国内でも不穏な動きがあった。「中国封じ込め」の要と言われていたTPPであるが、正式な調印を前に担当大臣がまさかの辞任に追い込まれている。日本では通常、政権が揺らぐ前段で必ずと言っていいほど閣僚の汚職や不祥事等に社会が揺れ、その後に大きな政治的変化が訪れている。

その他にも、長期間続いた米国のイランやキューバとの関係も、前段なしに歴史的な変化が訪れるなど様々な注目すべき変化が見られる。

「勢力間」のせめぎ合いとセキュリティー・イシュー

セキュリティ」面からも米中両国の姿勢変化が感じられる。南シナ海へ「航行の自由作戦」と称して軍艦を派遣している米軍であるが、人工島の着工時や工事期間中には言葉による形式的な非難に留めながら、完成した後になって一歩踏み込んだ行動に出ている。これは同水域への米国側の姿勢に、ある時点で変化したことの表れと見ることができる。

着工当初、日本政府やメディアなどは、「中国共産党は軍部を掌握できていない、内部分裂が起こり軍部が抵抗していることの表れだ」と国内向けに報じ、半ば黙認姿勢でいたが、やはり完成後に中国と領有権を争うフィリピンやベトナムへ軍事的な接近を強めるなど姿勢の変化がみられる。

日中間の防空識別圏のときは、米軍は反射的に同空域へ軍用機を飛ばしたものの、それ以降は何ら目立った行動をとっていなかった。米国はまた、最近になって台湾への武器輸出を表明し、後の選挙で同国総統が確定した反中派の候補者を米国に招くなど踏み込んだパフォーマンスを展開している。

このように、昨年は様々な米中不調和が表面化した1年であった。その裏には、米国内の勢力図に何らかの変化が起こっている可能性が高い。基本的にオバマ政権は軍縮を目指してきたが、任期中、年を追うごとにその方向性が違って見えることとも関係がありそうである。政権の裏で「勢力」の入れ替わりがあった際には、通常それまでの他国との協調は白紙に戻され、「別の形」での協調を模索することになる。

日米の強力な兵器ロビーにとり、アジアは中東同様、失うことのできないドル箱市場となっている。北朝鮮の脅威」がなければ日米の兵器商はアジアで利を伸ばせないし、過去にはソ連、今は中国脅威がなければ「アジア市場は消失する。沖縄問題しかり、どれだけ強力な勢力を外部から呼び込んでみても、地域に平和的な安定が訪れることはない。それは「自力外交」をもたない国に、周辺国が本音で向き合うことはないからである。

中国やロシアが、地域の安定を揺るがしているなどといった幻想は1日も早く捨て去るべきである。それは、兵器商を利するためのより増税を意味し、最終的に子や孫の世代に最も不幸な遺産を残す行為に他ならない。自らの力量の範囲内で現実的な「協調平和主義」へと向かう以外に、地域に安寧な未来が訪れることはないと見るべきである。

「通貨の番人」から「為替切下げ業」へ看板を掛替えた各国中銀

バブル崩壊後の日銀に始まり、2008年の金融危機以降の米FRB、再度2013年以降の日銀、昨年以降の欧州中銀と、今のG7中銀は揃って通貨切下げ競争」に邁進している。「通貨価値を守る」といった崇高な使命はもうない。

日米欧中銀は経済活性化に向け、「必要とされているところにマネーが行き届く」との名目で利下げや通貨増発を行っている。その真意が何であれ、結果はみな揃って「自国通貨安」となっている。通貨安で業績低迷に苦しむ企業、生活消費財の高騰に苦しむ個人を横目に、各国中銀が、兵器商を含む輸出産業の業績を下支えする構図が明白である。

別のロイター記事(コラム/文末リンク)では、デフレ対策という名目で導入した日本のマイナス金利は、明らかに円価値引下げを意図したものとしている。さらに記事では、ダボス会議のなかで中国に対して「資本規制」を勧めた日銀の黒田氏へ痛烈な批判が向けられている。資金の流出を心配すべきは日本も同様であることや、日銀の金融政策が出口のない状態に陥ってる可能性、そして一先進国の中銀総裁が「資本規制」を口にすることは「ある聖職者が信者へ悪魔との取引を勧めてているようなもの」などと批判している。

G7各国の中銀が政治色を強める中、中国はこの先どこまで協調姿勢を見せるかが注目である。IMFと共に、SDR政策を重視していることからも、中国が協調路線をあきらめることはそうそうないと言えるが、歴史的に見ても、G7中銀の政治色の強まりは右傾化や軍政強化との連動性がある。このままG7諸国の政治から安定と信頼が遠ざかるようであれば、中国は政策の方向転換を迫られるかも知れない。

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