科学も証明。日本の漢字教育が育む、子供の心と高い知能指数

 

自閉症児が変わった

NTTと電気通信大学の共同研究では、「かな」を読むときには我々は左脳しか使わないが、漢字を読むときには左右の両方を使っているということを発見した。左脳は言語脳と呼ばれ、人間の話す声の理解など、論理的知的な処理を受け持つ。右脳は音楽脳とも呼ばれ、パターン認識が得意である。漢字は複雑な形状をしているので、右脳がパターンとして認識し、それを左脳が意味として解釈するらしい。

石井氏は自閉症や知的障害を持った子供にも漢字教育を施して成果をあげている。これらの子どもは言語脳である左脳の働きが弱っているため、言葉が遅れがちであるが、漢字は右脳も使うので、受け入れられやすいのである。

石井氏が校長をしていた小学校にはS君という自閉症児がいた。授業中、机に座っていることができずに、廊下に出てはぐるぐると左回りを続けているという子どもだった。校長としてS君を引き取った石井氏は、彼が電車に関心を持っているのを見つけた。絵を描かせると、黄色い電車と新幹線を描く。「黄色いのは総武線で、東京に行くんでしょ」と言って電車のそばに「東京」と書いてやった。新幹線にほうにも「新幹線」と書いてやると、S君は本当に嬉しそうに笑った。

翌日、また絵を描かせると、今度は電車の絵に「東京」「新幹線」という文字に似た模様を書き付けていた。これを生かさない手はない、と思った石井氏は、S君のお母さんを呼んで夏休みの間毎日5分でいいから漢字カードで遊んでやってください、と頼んだ。

休みが終わると、お母さんが200枚もの漢字カードを持って、「あまりにS君の反応が良いので、どんどんやっていったらこんなにできた」という。

夏休み明けのS君にクラスの友だちは驚いた。「S君が授業中ずっと椅子に座れるようになった」「体育の時間に皆と一緒に駆け足をやった」そしてついに「S君が教科書を開いた。」

S君は家でお父さんと一緒にお風呂に入っている時、「学校で勉強頑張るからね」と言った。父親は思わずS君を抱きしめて「頑張れよ」と励ましたそうである。

漢字かな交じり文の効率性

漢字が優れた表記法であることは、いろいろな科学的実験で検証されている。日本道路公団が、かつてどういう地名の標識を使ったら、ドライバーが早く正確に認識できるか、という実験を行った。「TOKYO」「とうきょう」「東京」の3種類の標識を作って、読み取るのにどれだけの時間がかかるかを測定したところ、「TOKYO」は1.5秒だったのに対し、「とうきょう」は約半分の0.7秒、そして「東京」はさらにその十分の一以下の0.06秒だった。

考えてみれば当然だ。ローマ字やひらがなは表音文字である。読んだ文字を音に変換し、さらに音から意味に変換する作業を脳の中でしなければならない。それに対し漢字は表意文字でそれ自体で意味を持つから変換作業が少ないのである。

日本人はこの優れた、しかしまったく言語系統の異なる漢字を導入して、さらにそこから、ひらがな、カタカナという表意文字を発明した。その結果、数千の表意文字と2種類の表音文字を使うという、世界でも最も複雑な表記システムを発明した。たとえば、以下の3つの文章を比べてみよう。

朝聞道夕死可矣

 

あしたにみちをきかばゆうべにしすともかなり

 

朝に道を聞かば夕に死すとも可なり

漢字だけ、あるいは、ひらがなだけでは、いかにも平板で読みにくいが、漢字かな交じり文では名詞や動詞など重要な部分が漢字でくっきりと浮かび上がるので、文章の骨格が一目で分かる。漢字かな交じり文は書くのは大変だが、読むにはまことに効率的なシステムである。

情報化時代になって、書く方の苦労は、かな漢字変換などの技術的発達により、急速に軽減されつつあるが、読む方の効率化はそれほど進まないし、また情報の洪水で読み手の負担はますます増大しつつある。読む方では最高の効率を持つ漢字かな交じり文は情報化時代に適した表記システムであると言える。

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