【英語で読む政治】世界で話題の「ポピュリズム」はなぜ怖い?

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海外のメディアで報じられたニュースを解説する『心をつなぐ英会話メルマガ』では、今世界で話題になっている「ポピュリズム」について解説しています。

ポピュリズムをしっかりと分析しよう

【海外ニュース】
The theme of President Donald Trump’s inaugural address was the return of power to “the people” ━the forgotten Americans, the victims of “American carnage. ”It harkened back to his campaign, when Trump presented himself as a populist who eschewed traditional conservative-liberal orthodoxies.

訳:ドナルド・トランプの大統領就任演説は、忘れさられ、虐げられたアメリカの人々、そんな被害者のままであった「国民」に政治を取り戻すというものだった。その主張をよく聞けば、彼は自分自身を伝統的な奔流ともいえる中道保守を横に追いやるポピュリストとして自らを位置付けているのだ
(Atlanticより)。

今、世界で話題になっているポピュリズム(populism)について語ります。

ポピュリズムの定義は、「大衆の求める願望や欲望に沿う発言や報道で人々を誘導し、既存の知識人や常識を排除する政治的発想」です。人々がポピュリズムに傾斜する原因には、生活苦、経済的不安、未来への絶望感など様々な理由があります。

しかし、ポピュリズムは、一つの国の中のみでは育ちにくいことをここで強調します。

生活苦等の人々のフラストレーションは、世界中どこにでも存在します。それはあくまで国内問題であり、国の制度疲労などにその原因があります。ポピュリズムは、そうした人々の不安や不満が空気にガソリンが充満するような状態になったときに発火する現象なのです。

そして、発火点になるファクターは、海外でのポピュリズムなのです。

実は、ポピュリズムとポピュリズムとは国や文化を越えて、相互に(bilateral)影響し合う引力をもっています。例えば、アメリカでは格差(gap)への不満が充満しています。その時、中東ではパレスチナ問題が悪化していました。パレスチナ問題とは、アメリカなどに支援されたイスラエルの建国によって土地を失ったアラブ人の抗議行動に起因した民族運動です。このパレスチナ問題への憤りが導火線となったもう一つのポピュリズムが中東各地に芽生えたのでした。

その後の中東世界の長い混乱の中で、そんなポピュリズムに煽られるかのようにして世界中から集まってきたイスラム過激派が、アメリカの中東での利権を脅かし、テロを煽ります。こうして、中東とアメリカのポピュリズムが作用しあって、さらに過激な(radical)ポピュリズムが双方に育っていったのです。

日本の場合、ポピュリズムは日韓関係、日中関係が発火点(ignition point)となりました。日本で国内に格差社会が蔓延し、それを癒す手立てが見当たらないときに、韓国や中国でも同様の国内事情によるポピュリズムに煽られた反日活動がおこります。発火点は日韓、日中の政治問題が原因でした。すると、双方とも不満の目が相手への敵愾心にすり替えられ、そこにナショナリズムと直結したポピュリズムの核が生まれたのです。それはことあるごとにお互いに作用と反作用(action and reaction)を繰り返し、極めて感情的な国家意識へとつながってゆきました。

ではその後の段階はどうなのでしょうか。海外と作用しあったポピュリズムによって政治が動き出そうとすると、それに危険性を感じる人々がいます。その多くは高等教育を受けた人々で、彼らは経済的にも恵まれている人が多数です。こうした人々は、安易なナショナリズムを危険だと語り、右傾化する社会へ警鐘をならします。

しかし、ポピュリズムはそもそも経済的にも将来の生活にも不安と不満を抱いている人々に広がる現象です。ですから、この意識の対立が国内で人々の分断を生み出すのです。その分断がいわゆる「反知性主義(anti-intellectualism)」への強い動きを形成します。この現象が際立ったとき、選挙によって政治が大きく動くのです。

整理します。ポピュリズムはまず国内の不安や不満から芽生え、対外的な作用と反作用で育ち、そして再び国内で大きなエネルギーをもって政治を動かすのです。

そしてこの動きは一度だけではなく、何度か繰り返されることによって、歴史をも大きく動かしてゆくのです。アメリカでは、ポピュリズムの顕著な動向は、ブッシュ政権のときに萌芽しました。ITバブルに暗雲がたれこみ、国内で人種の対立や教育や経済格差が注目されはじめたとき9.11のテロがおき、続いてイラク問題へのアメリカの介入がはじまります。

このとき、最初のポピュリズムの波が全米を覆いました。ネオコンとよばれた「新保守主義Neo-Conservatism」の潮流です。

当時は視聴率を意識したマスコミも一緒になってイラクへのアメリカの介入を支援しました。そして、イラク問題が一段落したかにみえたブッシュ政権末期に、リーマンショックが世界を見舞ったのです。アメリカの失業率(an unemployment rate)は押し上げられ、教育を受けた人々も仕事を求めて四苦八苦しました。

この時期に、ポピュリズムの母体となるナショナリズムが深化したのです。ティーパーティ運動(Tea Party movement)」と呼ばれるアメリカを賛美し、アメリカの原点であるキリスト教社会による国家建設に憧れる人々が政治団体を結成し、共和党にも大きな影響を与えるようになりました。当時、共和党のブッシュ政権はリーマンショックで打撃を受け、ブッシュ大統領の任期が切れたとき、民主党への支持がオバマ政権を誕生させました。

オバマ政権の支持母体は知的な中産階級です。そのオバマ政権のもとで、格差に不満を抱く人々がさらに右傾化したのです。その時に、世界に衝撃を与えたのがISISの台頭であり、その影響を受けながらも国内の混乱を収拾できなかったシリアなどが生み出した難民の流出でした。この新たな不安の波に乗るかのように、ヨーロッパでもテロ活動が続きます。この動向がアメリカでのポピュリズムの根をさらに広げていったのです。

中東の新たな不安と世界的な格差の拡大に押されて、アメリカでトランプ政権が生まれました。そして、今回トランプ政権はマスコミをも敵に回せるだけの強い支持母体を持てるようになったのです。ポピュリズムの進化(evolution)がこうして世界を連鎖してゆくとき、過去には軍靴の音が迫り、あれあれと思う間に人々は戦争へと巻き込まれました

アメリカファーストという政治方針は、世界と富や価値を共有できない孤立主義(isolationism)にアメリカを放り込むおそれがあります。それは他の国がアメリカからの利益を得られず、経済的・政治的に打撃を受けることも意味します。それが新たなポピュリズムを世界にばらまくのです。ポピュリズムはお互いに引き合い、影響を与え合うのです。

我々も、我々を見舞うポピュリズムはどこから来て、今後どのようになってゆくのか。どこで作用と反作用がおきているのか、今こそしっかりと見極めてゆかなければならないのではないでしょうか。

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【著者】 山久瀬洋二 【発行周期】 ほぼ週刊

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