中国の領海侵犯は本当か? 海保も認める「暗黙のルール」を徹底検証

2017.04.04
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2.昨年8月には中国漁船数百隻が殺到したではないか?

昨年8月に尖閣周辺に約230隻の中国漁船と共に海警船が押し寄せ、日本の報道では「中国が新たな強権的行動」とか、「漁船が公船を伴い大挙来襲」とか、侵略が始まったかのような大騒ぎとなった。産経は狂ったように「海上民兵が尖閣上陸か?」などと、劇画さながらに煽り立てた。

◆中国側の言い分もチェック

こういう時には、「心の病」に陥っている日本のメディアの言うことを鵜呑みにしていては病が伝染してしまうので、必ず、先方はどう言っているかをチェックする必要がある。まず中国大使館のホームページで公式見解を確かめると、「釣魚島は古来、中国領」という立場を繰り返しながらも、

中国側は2014年11月の中日4項目原則の精神で、不測の事態が生じ緊張が発生するのを回避するため、海警、魚政(日本の水産庁の漁業監視船に相当)など公船を関係海域に派遣し、適切な管理を行った。

日本側もその精神で冷静さと理性を保つよう希望する。

と言っている。「中日4項目原則の精神」とは何か。調べると、14年11月の安倍・習首脳会談の際に合意されたもので、その第3項にこうある。

双方は、尖閣諸島等東シナ海において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐと共に、危機管理のメカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避することで意見の一致を見た。

外交文書というのは判じ物のようではあるが、要するに、領有権問題をはじめとして意見の違いがあることはさておいて(つまり事実上棚上げして)、とにかく不測の事態を回避することでは一致して努力しようということである。

◆日中漁業協定の暫定水域

その前提として知っておかなければならないのは、2000年の日中漁業協定で設定された「暫定措置水域」である。漁業権をめぐる争いは複雑怪奇で、ここでその経過を辿ることは止めるが、この時は、尖閣の北方のかなり広大な水域を、言わば双方の漁船が相互乗り入れできる領域として定め、そこではお互いに国当局の許可なしに入って操業することができ、また双方の当局は自国の漁船のみ取り締まって、相手国の漁船に対しては警告を発し、相手国当局に通報することはできるが直接取り締まることはできない──という決まりとなっている(写真)。

そこで、昨年8月に何が起きたのかと言うと、後に中国側が日本側に説明したところによると、8月1日を以て禁漁期が終わったので、翌2日に中国漁船が一斉に東海に出漁し、その一部が暫定措置水域を超えて尖閣領域に進入する可能性があったので海警船70隻が出動し、そのうち15隻が3日から9日にかけて尖閣海域に入って漁船を管理・指導した(つまり暫定措置水域へと押し戻した)。大半の漁船に指導が行き渡ったので、10日に海警船は現場から引き揚げた。そのため、周辺に残っていた漁船が11日にギリシャ貨物船と衝突・難破した際には、中国公船はその近くに居らず、遭難した漁民は海保船によって救助された。中国政府はそのような経緯を説明した上、日本による救助活動に感謝の意を表明した……。

つまり、日中双方とも、日中漁業協定と「4項目原則の精神」のルールに従って自制的に行動して無駄なトラブルを回避していることが分かる。

◆中国当局も手を焼く漁民

中国は韓国との間でも黄海上の漁場について同様の取り決めをいろいろ結んでいるが、この韓中の紛争の方が余程激しい。16年11月30日に韓国の聯合ニュースが「黄海の違法中国漁船が前年比57%減」と報じたので、「少しは事態が改善したのか」と思って読んで見ると、とんでもない、中国漁船の振る舞いが余りにひどいので、業を煮やした韓国側が領海侵犯する中国漁船に対しM60機関銃などを撃って撃退し、今後は機関銃のみならず砲も発射するから覚悟しろと中国に通告した。

それでさすがに違法漁船が前年同月比で57%減ったのだが、減って何隻になったのかと言うと何と1,712隻である。機関銃や砲を撃ち込んでもそれをくぐって月に1,700隻も押し寄せてくるのだから、昨年8月の尖閣北方230隻くらいで驚いてはいけないのだ。

韓中間では双方に死者が出ることもしばしばで、12年12月に韓国の排他的経済水域内で違法操業していた中国漁船が韓国海警の規制に抵抗、警官を刺殺するという事件が起きた。その時に、中国の「人民日報」翼下の国際メディア「環球時報」は社説で、次のように本音を吐露した。

中国は世界最大の漁民グループを有し、海岸線も長く、人口も世界一である。しかし、中国近海の漁業資源は枯渇し、近年の操業エリアは公海へと拡大している。漁民は漁具を購入するための元手を回収しなければならない。

漁民に漁業規律を厳格に守らせることは中国近海といえども難しく、中国政府が宣伝教育により彼らに黄海上の中韓漁業協定を厳格に順守させることは容易なことではない。漁民はコストを回収し利益を上げるために様々なことを考えており、考慮の中には漁民自身による身の安全も含まれている。

中国人は一般的に韓国人よりも貧しく、中国人の教育レベルは韓国人ほど高くない。中国の漁民に外交官のような品の良さを求めることは現実的ではない……。

日本は、中国との間だけでなく台湾、韓国、ロシアとそれぞれに複雑怪奇としか言いようのない漁業権争いを抱えていて、これらを包括的に解決する日本海・東シナ海の漁業資源管理のための多国間秩序を形成するのが筋道だろう。台湾の馬英九=前総統は12年8月に「東シナ海平和イニシアティブ」を発表した(写真)。

  1. 対立行動をエスカレートさせないよう自制する。
  2. 争議を棚上げにし、対話を絶やさない。
  3. 国際法を遵守し、平和的手段で争議を処理する。
  4. コンセンサスを求め、「東シナ海行動基準」を定める。
  5. 東シナ海の資源を共同開発するためのメカニズムを構築する。

これをベースに議論を深めていくべきである。

(次号に続く)

image by: Flickr

 

『高野孟のTHE JOURNAL』

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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