「原発ゼロ」が終わった日。川内原発再稼働を新聞各紙はどう伝えた?

 

各紙の見出し

《朝日》:「リスク抱え原発回帰」「川内再稼働 新基準で初」
《読売》:「川内原発 14日発電」「再稼働、臨界に到達」
《毎日》:「再稼働 見切り発車」「火山対応後回し」
《東京》:「『反対多数』世論の中」「川内 新基準で再稼働」

《読売》を除く各紙の1面トップ見出しは、再稼働に対する疑問や懸念をストレートに表現しています。それぞれ短いフレーズの中に、安倍政権の原発回帰政策に対する疑問を書き込んだ《朝日》の見出しは、特に優れているように思います。《東京》は、1面の「論点明示報道」で知られ、今朝も他紙とひと味違った見出しを掲げていますが、今日の《読売》はその対極をゆく見出し。論点が一切含まれていません。これほどまでに、「静寂に包まれた」(笑)かのような見出しを見た記憶がありません。では、記事の分析へ。

少々緩すぎないか? 避難計画批判

【朝日】は見出しの内容に対応するように、1面記事のリード部分を「避難計画の実効性などに課題を残したまま『原発回帰』が本格化する」と締めている。本文記事の末尾の方に、「高齢者などが多い医療施設や福祉施設で住民の避難計画が十分に整っていない。」と書いているのは、《朝日》が今月3日の1面トップで伝えた記事の反映であることは分かる。詳細は関連記事に書き込まれてはいる。だが、極めて重大な問題なのに、1面記事での結論が「住民の避難計画が十分に整っていない」という緩い表現では、大方の読者はむしろ安心してしまうのではないか。さらに、避難に際しては交通渋滞が発生し、30キロ圏内の自動車が総て外に出るのに40時間から60時間かかるとの想定もある。

不思議なことに、関連と銘打ってはいないのだが、2面の「時時刻刻」、4面に国会論戦での扱い、5面の「考/論」(柳田邦男、村上達也、増田寛也各紙へのインタビュー)、7面に「九電、赤字脱却図る」の経済記事、12面社説「川内をひな形にするな」、35面社会面に、反対し抗議する人々への取材記事と、フルスペック。

2面の「時時刻刻」は、過酷事故が起きた際の対応について、残された重要な問題をいくつか指摘している。1つは、事故の進展を止めるための高い放射線量下での作業をどうするかという問題、2つ目には航空機テロに対する対策。中央制御室が破壊された場合に使用する代替施設の設置は18年まで猶予されたままだ。

再稼働万歳

【読売】はとにかく全体に「再稼働万歳」といった調子。1面の基本的な記事の隣には「原発再スタート」と文字通り嬉しそうなタイトルの連載記事を始めている。第1回目の今日は、安全強化のために1,200もの設備を追加したと九電を讃えている。原発が稼働できなかったために、電力会社が負担する燃料費は年間3.7兆円増え、輸入増で貿易収支は赤字となり、「多額の国富が流出」したとする。2面と3面にわたる解説記事「スキャナー」は、タイトルが「福島教訓に安全対策 温暖化対応も前進」と、とにかく手放しの喜びよう、讃えようになっている。これで安定供給ができるようになり(いや、既にしているが…)料金抑制にもなると。ただし、左下隅に破線で囲った半独立の3段記事。見出しは「避難訓練間に合わず」「火山、テロ対応も課題」と。《読売》もこれが危うい「再スタート」であることはチャンと分かっているのだろう。リスクについては科学部の記者に書かせ、こういうことも指摘していたというアリバイ作りのような紙面になっている。

関連記事は上記「スキャナー」に加え、同3面に社説「電力安定供給へ重要な一歩だ」、4面政治面には、原発再稼働を安倍内閣のハードルの1つと政治的に位置づけた記事、9面経済面に「再稼働 経済界は歓迎」という記事、13面の「論点スペシャル」には澤昭裕、福徳康雄、山口彰各紙の話、15面は「様変わりする原発地図」と題する特別面。社会面35面では、反対し抗議する人々の動きは一切伝えない代わりに、薩摩川内市の市長会見について大きな紙幅を取り、市長のにやけた写真を掲げている。まるで、誰も反対していないみたいだ

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