「原発ゼロ」が終わった日。川内原発再稼働を新聞各紙はどう伝えた?

 

「見切り発車」の原発回帰批判

【毎日】の1面は、方向性がハッキリしていて、しかも今日に関しては内容の細かさのレベルが丁度良いように思えた。

リード末尾に「政府は川内1号機の再稼働を機に、原発利用を加速させる方針だが、課題を置き去りにした見切り発車の『原発回帰』となった」とする。そして、置き去りにされた課題の最たるものを、火山対策と使用済み核燃料の処理処分問題、そして地元任せになっている事故時の避難計画の3つに整理し、それぞれ1面記事として十分な程度に展開している。これを読むだけで、川内原発再稼働問題の基本的な構図とその重さが理解できるような気がする。

2面と3面に跨がる解説記事「クローズアップ2015」は「揺らぐ原発必要論」「避難計画 実効性欠く」、5面に「野党一斉に批判」の政治記事と社説「原発依存社会に戻すな」、7面国際面は、「アジア・中東 原発「推進」」の現状について、26、27面の社会面には、福島県浪江町から栃木県内に避難してきている79歳の男性への取材で「福島の現実を見て」の見出し。さらに「国にはかなわない」「原発が日常」と複雑な思いを語る薩摩川内市の地元住民への取材。加えて国会前で抗議する人々。《毎日》もフルスペックの対応

「野田よりダメな安倍」という視点

【東京】はもちろん、フルスペックでの対応。1面の記事は全幅を使って上半分が再稼働関連の記事。電力不足の不安もない今、なぜ再稼働なのかについて、政権が説明できていないことを指摘する。また、続いて再稼働を行おうとしている伊方では地元同意の手続きが済んでおらず、高浜では福井地裁の再稼働を禁ずる仮処分が立ち塞がっていることを強調。だが、1面記事最大の特徴は、大飯原発をいったん再稼働させたときの野田内閣の責任の取り方と比べ、安倍内閣が「判断に関与せず、説明もしない」ことを批判している点。安倍氏は「この日、夏休み中で何も語らなかった」としている。

関連記事は2面に「『不足』崩れる根拠」として、九電が電力の融通を受けずに今夏の猛暑を乗り切っていることを分析した記事。3面は「リスクへの備え 放置」との見出しで、原発審査に住民避難が勘案されていないこと、賠償への十分な備えがないままの再稼働であること、さらに核のごみの捨て場がないことを記した解説記事「核心」。

6面には、各界の反応をまとめていて、海外については、各通信社、南ドイツ新聞電子版などから拾い、国内については野党党首らによる批判のコメント、そして福島大学の清水修二教授、九州大学の吉岡斉教授、北海道大学の奈良原直教授のコメントを集めている。

22面と23面の特報面では、再稼働問題をきっかけに、政治の「無責任」を撃つ特集。24面は、鹿児島の火山に詳しい地元のもと理科教諭と火砕流の後を歩いた取材もの、25面には、川内、福島、有楽町・官邸前で人々の反対する声。

なぜ内閣が潰れないのか

原発再稼働は、この一事だけで内閣が潰れてもおかしくない問題。しかし、人々の怒りを静める働きをしているものの1つが、相変わらず「事故は起こらないだろう」という根拠のない楽観論。さらに、原発がなければ電力が不足するのではないかという現実とは正反対の妄想、そして仮に電気は足りていたとしても「国富が流出している」という逆立ちした議論。昨日の《朝日》が報じているように、電力会社は今年の4~6月期、震災後初めて経常損益が黒字化した。原発なしで業績が回復してしまったのだ。他紙は立派に再稼働を批判している中、《読売》だけが妄想新聞と化しているのが目立った、今日8月12日の朝刊だった。

 

『uttiiの電子版ウォッチ』2015/8/12号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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