【ISIL問題】イスラムの宗教改革は数世紀はかかる

田村耕太郎© Oleg_Zabielin - Fotolia.com
 

ジハードへの参加はさほど大きなムーブメントにはなりえない

『田村耕太郎の「シンガポール発 アジアを知れば未来が開ける!」』 Vol.150より一部抜粋

欧米から渡航したグローバル・ジハードの信奉者が帰国して、自国で一匹狼的なテロに走る危険性こそあるが、西欧・米国からのジハードへの参加はさほど大きなムーブメントにはなりえないと思う。

しかし、アラブ世界からの参加者は相応の強い動機をもっている。世界各地から戦闘員が集まってくるような「開放された戦線」をいかにして封じ込めるかは、これからも大きな問題だ。

同様な事態を防ぐために必要なのは、第一に、中央政府の統治が及ばないような地域を作り出さないことだ。イエメンやリビア、ソマリアなどを念頭に、この「統治されない空間」をどうするかは昨年9月の国連総会でも議論になったところだ。イスラム諸国の政府の統治能力の向上が課題となっている。独裁に戻ればいいのではない。独裁ですら抑え込めない社会側の意識変化があったことを踏まえた統治機構の確立が必要だ。

加えて、イスラム教の解釈の方法論や体系そのものの改革を行わなければ、過激思想を退けることはできない。例えば、「コーランの中の異教徒への抑圧や個人の権利を侵害しかねない特定の章句は、現代社会では適用されない」と明確に宗教者が議論し、コンセンサスとして大多数のイスラム教徒に広まっていかなければ「イスラム国」の思想は論駁できない。いわばイスラム教の「宗教改革」だが、しかしその可能性はかなり厳しいといわざるを得ない。

そのような改革を実現するには、ヨーロッパ中世が経験した宗教戦争の惨禍や、ルネサンスの熾烈な思想闘争がなければならない。「数世紀はかかる」と欧米化したイスラム教徒の知識人は悲観している。それどころか「近代西洋の支配は終わった、これからはイスラム教の優越性が明らかになるのだ」と意気軒昂なイスラム教知識人が、過去20年ほどの間、現地では支配的だった。近代的な思想改革への機運が、内側からも、外側からも、乏しいのである。イスラム国の惨状を見て、「イスラム復興で近代西洋の限界を超えるのだ。イスラムが解決だ」といった議論をしていたイスラム世界の内部の知識人や、それをもてはやしていた日本を含む外部世界の専門家は、深く自らを省みる機会を持ってみてもいいのではないか。

抜本的な対策はイスラム世界の「外」から強制できるものではない。事態の打開にはまだまだ長い時間がかかるのではないだろうか。

 

『田村耕太郎の「シンガポール発 アジアを知れば未来が開ける!」』 Vol.150より一部抜粋

著者/田村耕太郎(前参議院議員)
第一次安倍政権で内閣府大臣政務官(経済財政・金融・地方分権担当)をつとめる。エール大、ハーバード大、ランド研究所にて研究員の経験あり。早稲田大学、慶応大学大学院、デューク大学法律大学院、エール大学経済大学院を各修了。
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