【自衛隊】歴史が証明する軍事力による「自国民保護」の危うさ

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まずは問われるべき外務省・在外公館の腐敗

「邦人救出」という問題が安倍政権のテーマとなったのは、03年1月のアルジェリアでの日本人人質殺害事件がきっかけである。当時、本誌は「“邦人保護”で自衛隊法改正?の危うさ」と題して原理的なところから論じているが(No.664)、新しい読者のために、繰り返しを恐れずさらに詳しく述べることにする。

第1に、海外在留日本人150 万人、年間海外渡航者1800万人を保護・救出するのは、第一義的には外交力であって軍事力ではない。外務省設置法の第4条に列記された29の所轄事務の9番目に「海外における邦人の生命及び身体の保護その他の安全に関すること」が掲げられているけれども、実際には各国に置かれた大使館はじめ在外公館は、当該国や周辺地域について的確な情報を収集し分析して、邦人が遭遇しかねないリスクを予測して最大限の予防策を講じるといったプロフェッショナルな仕事など、全くと言っていいほどできていない。

1997年7月にカンボジアの首都プノンペンが内乱状態に陥った時には、日本大使館は保護を求めて押しかけた邦人を迎え入れるどころか、現地雇いのガードマンを使って追い払うようなことをして、大いに顰蹙を買った。2001年の9・11後の在ニューヨーク日本領事館でも似たようなことがあった。

私自身、数多くの海外取材を通じて体験しているので、自信を以て断言するけれども、多くの日本の在外公館は、形だけの儀典や日本から来る議員や高官の接待が主任務で、普段は進出企業幹部やマスコミ特派員など内輪の在留日本人を集めてパーティを開くのが副任務。そのために高価なワインを揃えたワインセラーや豪華なカラオケ設備を整えるのが、大使や領事の力の見せ所になるという腐り切った状態にある。

そういう優雅な外交官生活にとって、外務省の警告を無視して危険地帯に入り、人質になったり殺されたりする日本人が出て来るのは、ただの迷惑要因でしかなく、事件が起きてしまってから「うわあ、どうしよう」という対応にならざるを得ない。このような外務省・在外公館の腐敗と無能をどう変革すべきかということが、問われるべき最初の問題である。

今回の事件について言えば、本誌前々号でも書いたが、人質の1人は昨年8月から、もう1人は同11月から「イスラム国」に囚われていることを知りながら外務省は何をしてきたのか、その状況で安倍首相が中東を歴訪してカイロおよびエルサレムであのような発言をして結果的に「イスラム国」を挑発する危険性をどう判断していたのか、さらに、対策本部を「イスラム国」に対する爆撃作戦に従事しているヨルダンに置くというのが正しかったのか等々、ますは外交レベルで徹底的な検証が必要だろう。

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