宝くじはどこの国でも「貧困層の税金」と呼ばれている。その購買者は多くは貧困層だからだ。なぜ貧困層が宝くじを買うのかというと、まぐれ当たりで一攫千金が成し遂げられる可能性が「わずかでもある」からである。大当たりすれば、まったく何の努力もしていないのに、一瞬にして人生が変わる。(『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』)
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プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、主にアメリカ株式を中心に投資全般を扱ったブログ「フルインベスト」を運営している。
損する可能性が高いのに人々が宝くじを買う理由
2020年11月24日から「年末ジャンボ宝くじ」が始まっており、12月25日まで続き、大晦日に抽選となる。1等と前後賞を合わせると10億円となる。10億円と言えば、大部分の人は一生働いても手に入らない額である。まさに「夢」だ。
この「はかない夢」である10億円を狙って、今年も宝くじの売り場に大勢の人が列をなして並んでいるのが報道された。
宝くじ市場は約1兆円である。人数にすれば約3,000万人がそれを購入している。そして、宝くじはどこの国でも「貧困層の税金」と呼ばれている。その購買者は多くは貧困層だからだ。
なぜ貧困層が宝くじを買うのかというと、まぐれ当たりで一攫千金が成し遂げられる可能性が「わずかでもある」からである。大当たりすれば、まったく何の努力もしていないのに、一瞬にして人生が変わる。
「もし、宝くじが当たれば……」
誰もがそう思って夢を託す。しかし、1等が当たる確率は1,000万分の1程度しかない。飛行機が墜落する確率は20万分の1程度だという統計があるので、飛行機事故に遭遇するよりも宝くじに当たる確率の方が難しい。
しかし、そんなことが分かっていても、自分の力で現状を変えることができないと思えば、その万が一の奇跡に頼るしかないと人々は宝くじに向かう。
「損する可能性が高いのに人々が宝くじを買うのは錯覚と夢があるから」なのだが、その錯覚と夢に浮かされて人々は現実を見失う。メディアも「もし宝くじに当選したら何に使う?」と妄想を煽り立てる。
当たってもいないのに「大金を手にすると人生が狂う」と注意書きをして、よけいに無駄な妄想を読者に与える始末だ。
報われないことの方が多いというのは誰もが知っている
宝くじは「買わなければ当たらない」のだから、買うことは無駄とは言わない。しかし、報われないことの方が多いというのは誰もが知っている。それでも人々は錯覚と夢を求めて宝くじに群がる。
楽天的なアメリカ人の中には、「退職金の資金作りは宝くじを当てることだ」と考えている人もいる。それを思いつきで何十年も買い続けていれば、いつか当たると考えるのだ。
しかし、もちろん報われる人は絶望的に少ない。それでも人々は買う。
報われないのを承知で宝くじを買い、「手っ取り早く金持ちになりたい」と考えるのは、「手っ取り早く金持ちになりたい」という気持ちはそれほど強いものだからだ。
Next: なぜ小銭を貯めない?「使いたいから金が欲しい」という人間たち
宝くじを買う人は小銭など貯めない
それほど大金に執着があるのなら、普段は小さなお金を大切にして小銭を積み上げるようにして貯めるべきなのだが、逆にこうした基本はなかなか身につかない。
宝くじを買うのは簡単だが、逆に小銭を貯めるというのは意外に難しいからだ。
小銭を貯めるためには、普段の楽しみを制限し、欲しいものを我慢し、自分に我慢を強いなければならない。収入が少なければ少ないほど、貯金できる額が少ないわけで、それが大金に育っていくのに時間がかかる。「お金を使いたい」という気持ちを長く制御してコントロールしなければならないので、うんざりする気持ちも強い。
誰もうんざりすることは回避したいので、「手っ取り早く金持ちになりたい」と考える人であればあるほど、小銭を貯めることを回避する。
「手っ取り早く金持ちになりたい」と考える人の目的は、実は金持ちになることではない。
「金を使うこと」にある。
「金を貯めたい」と「金を使いたい」はベクトルの向きが真逆である。毎日湯水のごとく金を蕩尽するのを夢見ている人は金を使いまくりたいというのが目的なので、蕩尽(とうじん)するための金を稼ぐとか貯金するという発想は最初から抜けている。
そこを飛ばして、手っ取り早く金が欲しいと思う。だから、努力が必要のない宝くじに群がるのである。
使いたいから金が欲しい、という人間たち
「大金が欲しい」という気持ちが同じでも、堅実な人間とそうでない人間では、向いている方向が180度違う。
堅実な人間は、増やすことの喜びや人生を安定させるために「大金が欲しい」と考える。そうでない人間の場合は、使いまくって愉快に生きるために「大金が欲しい」と考える。
浪費型の人間というのは、別に珍しくも何ともない。もしかしたら、世の中の半分は浪費型かもしれない。
2002年、イギリスのマイケル・キャロルという男は20億円の宝くじを当てたが、この男は8年で全部使い切ってしまった。高級コールガールを毎晩数人呼んでパーティーにセックスにドラッグに明け暮れ、結局また元の一文無しに戻ってしまった。
マイケル・キャロルは「使いたい」からそうした。
金持ちになりたい、というのは「無尽蔵に金を使うため」であると考えている人は、結局マイケル・キャロルのように、いくら金があってもザルのように漏れていき、消えてしまう。
Next: ギャンブル人気は衰えない。浪費型の人間は手っ取り早くカネを欲しがる
浪費型の人間は手っ取り早くカネを欲しがる
こうした浪費型の人間が金に逼迫するようになると、堅実になっていくのか。いや、なることはない。彼らが考えることはただひとつ。
再び、手っ取り早く金を儲けることである。
手っ取り早く金を儲けるには、どうするのか。世の中にはギャンブル、という鉄火場があちこちにある。ある人間はカジノで一攫千金を狙い、ある人間は金融市場で一攫千金を狙う。
株式市場、FX(為替証拠金取引)、商品相場……。金融市場はギャンブルをするには事欠かない環境が揃っている。かくして、こうした人間が株式市場に潜り込む。そして彼らは巨大な勢力を担っているのである。
こうした人々を「投機家(スペキュレーター)」と呼ぶ。手っ取り早く金が欲しい人間たちである。
もう別種の生き物であると考えてもいいのかもしれない
手っ取り早く金を手に入れようとする人間は、株式市場でも単純に上がるか下がるかのバクチを打つ。もちろん、それは成功することもある。
こうしたギャンブルに強い人間たちも一部にいて、彼らは文字通り「手っ取り早く金持ちになる」のだが、もちろんその陰には資金を吹き飛ばした大量の敗北者の屍がある。
敗北者は何も語らないので、勝ち上がったギャンブラーばかりが目立って、投機こそが株式市場を制する唯一の方法に見えることもある。「株式市場はギャンブルである」というのは、一面の真実でもあるが、それはこうした投機家たちの大群が株式市場を攪乱しているからだ。
しかし、言うまでもないが、こうした上がるか下がるかのギャンブルだけが株式市場の本質ではない。
株式市場には、常に成長しながら、着実に時価総額を膨らませている企業が存在している。こうした企業の株式を大量に持つことで資産を膨らませることもできる。
もちろん、会社の成長というのは一夜にして為らず、長い年月がかかり、さらに景気動向によっては長い臥薪嘗胆を余儀なくされることもある。
しかし、着実に成長する企業の株式は、それを持っているだけで私たちは何もしなくても、資産を着実に増やしていくことが可能になるのである。こうした手法を取る人々を「投資家(インベスター)」と呼ぶ。
Next: 投機家と投資家はまったく違う。あなたは宝くじを買うか?
投機家と投資家はまったく違う
堅実に実を取ろうと思うのであれば、別にギャンブラーの真似事をして売った買ったで利ざやを取る必要はまったくない。ただ安いときに買い、配当は再投資し、将来の成長が見込めるのであればさらに買い増し、どんどん株数を増やしていく。
最初は小さくても、そうやって株数を増やしていけばいくほど複利効果も相まって後半になればなるほど資金は巨大化していくことになる。
大金を使いまくって蕩尽したいのであれば、結果的には投機家になるだろう。小さなお金をどんどん大きくしたいのであれば投資家になるだろう。投機家と投資家は、まったく違う生き物である。
「年末ジャンボ宝くじ」に群がって10億円の夢を見ている人と、堅実に金を積み上げている人は、もう別種の生き物であると考えてもいいのかもしれない。きっと、互いに相手が理解できないに違いない。
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年12月24日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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