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NHKが報じなかった熊本地震~「活断層の先」にある原子力発電所の危うさ=不破利晴

NHKは3.11の原発事故報道であまりに大きな禍根を残しているが、今回の熊本地震でも、大地震が原発におよぼす本当の危険性に関して、全く報道していないかのようである。(『インターネット政党が日本を変える!』不破利晴)

3.11炉心溶融「今の原稿、使っちゃいけないんだって」の反省なし

熊本大震災に『日本沈没』を予感する

この作品の冒頭描写を一見すると、あたかも現在進行形の熊本地震のことに言及していると誰もが思うだろう。しかし、そうではない。

――そして、この日はまた、世界の地震観測史上はじめて、「超広域震源地震」という、これまで知られたことのないタイプの地震が、西太平洋地域で記録された日でもあった。

例年なら――つい一年前までは、四月下旬からはじまる「ゴールデン・ウイーク」で連日、どこへ行っても、家族連れ、仲間連れの人出でにぎわうこの週も、今年は不安と恐怖で青ざめ、空腹と疲労と睡眠不足でやつれた顔の人たちが、持てるだけの荷物を持ち、嬰児を背おい、幼児の手を引いて、夜も昼も、延々と集結地点に向かって移動を続けていた。一般人の乗用車の使用は禁止され、小型船舶、鉄道、バス、トラック、それに一部の営業用タクシーだけが許可されて、昼夜二十四時間、居住区の集結点から、港と空港へ、ピストン輸送を行っていた。崩壊、破壊、あるいは土砂崩れが続く道路を確保するため、ブルドーザーが各地に配置されていた。

これは今から43年も前に描かれた日本SFの金字塔、小松左京による『日本沈没』(光文社カッパ・ノベルス)の一節なのである。

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『日本沈没』が上梓されたのは1973年(昭和48年)である。ハガキ一枚が10円、国家予算は15兆円ほどであった時代である(現在の国家予算は100兆円規模)。しかし、小松左京がこの作品を書き始めたのは、実はさらに9年ほどさかのぼる1964年(昭和39年)というから驚きだ。

日本の高度成長期は1950年代に始まり、1973年の第四次中東戦争に端を発したオイルショックにより終焉を迎えたとされている。

小松はこの栄枯盛衰の狭間で稀に見るほどの作品を後世に残したことになる。なぜなら約半世紀の時代を経て、SF作品と目される『日本沈没』が、もはやSFではなく「ノン・フィクション」と化してしまったからだ。

小松左京氏は阪神大震災の折、その未曽有の災害を大阪府箕面(みのお)市の自宅で体験している。当時のことを小松氏はこう記している。

「私の家は本棚と食器棚が倒れた程度で、大被害というほどではなかったが、テレビで状況を知るにつれ、ショックで腰が抜け、脳貧血を起こしそうになった。阪神高速道路の降架が650メートルにわたって完全に橋脚が折れ、倒れているのを見たからだ…」

「『日本沈没』出版後しばらくして、ある専門家から人を介して「そんなこと起こるはずはない!いたずらに人心を乱すべきでない!」と指摘を受けた。しかし、阪神大震災でそれを現実に目にした時、複雑な想いにとらわれた。実は私自身も、そんなことは100万分の1の確率でも起こらないと信じていたからである…」

「事実は小説よりも奇なり」の時代に重要なのは想像力

現実では得てして、小説をも超えるようなことが本当に起きる。日本列島は阪神大震災以降、史上稀に見る大地震多発時代に突入してしまった、との仮説も成り立つのかもしれないし、現にそれを指摘する専門家も存在する。

それでも、このような過酷な時代で大切なのは、専門的知識よりはむしろ想像力ではないかと思うようになった。

思い出して欲しいのが、東日本大震災の半年ほど前にどのような書籍が出版されていたかということだ。

広瀬隆による『原子炉時限爆弾』(ダイヤモンド社)は、ものの見事に大地震による原発災害を予言し、その後の断層による原発の危険性をも先取りしていた。

つまり福島県から宮城県にかけて北上する長大な双葉断層は、中央構造線の延長だったようである。

その七〇キロメートルを超える双葉断層に寄り添って、日本の原発で耐震性が最も低い二七〇ガルで建設された福島第一原子力発電所が六基、そのすぐ南の福島第二原子力発電所が四基、合計一〇基という巨大原発基地となって、首都圏に電気を送っているのだ。

「事実は小説よりも奇なり」という言葉があるが、阪神大震災、東日本大震災、そして現在の熊本大震災でこの言葉の信憑性が十二分に証明されてしまった。そうなのだ。「奇なること」は起こるのである。我々は自身の想像力の限りを尽くしてリスク管理にあたらなければならない。

Next: 「想定外」だらけの熊本地震/日奈久断層帯の先に川内原発



「想定外」だらけの熊本地震

あらためて熊本大震災を振り返ってみよう。

4月14日21時26分に第一回目の巨大地震が観測されて以来、震度1以上の地震は実に800回を超えている。また、14日の地震、および16日に観測された地震は震度7を記録したことが現在分かっている。

気象庁の計測では震度8という基準はないので、震度7が事実上のMAXである。

そのような規模の大地震が立て続けに起き、さらには余震も合わせると800回以上、その中にはかなり大規模な地震が多数含まれていることから、今回の事例は明らかに「事実は小説よりも奇なり」の現象であることが分かる。

そんな中で特に気になるのは日本最大の活断層、「中央構造線」である。

『日本沈没』では中央構造線を境に日本が分断され、終には日本の国土が海底に没してしまう。先の広瀬隆氏も著書の中で中央構造線に触れ、警鐘を鳴らしている。

そして、ここが最も重要なことなのだが、今回の熊本大震災でも、鍵を握るのがこの「中央構造線」であると考えられるのだ。

日奈久断層帯の先にあるのは紛れもない「川内原発」

ここで気になる新聞記事を紹介する。4月22日、地元九州の佐賀新聞のWebサイトに次なる記事が掲載された。

《海溝型の大地震が連続する例がないわけではないが、震度7の直下型地震の連発は「想定外」。余震の数はその分多い。

また震源となった「布田川(ふたがわ)断層帯」「日奈久(ひなぐ)断層帯」の北東延長部でも地震が誘発された。熊本県の中心部と、活火山の阿蘇山を越えた大分県境、大分県内の計3カ所。異例の同時活動だ。

遠田晋次・東北大教授(地震地質学)は「大分などの地震は16日の地震とほぼ同時に起きている。南西から北東に向けて断層破壊が起こり、地殻のひずみが直ちに伝わった」と指摘。だが、ひずみがより大きくなったのは大分県側ではなく、日奈久断層帯の南側に近い熊本県南西部だ。

「もともと地震が起こりやすいと考えられていた部分。いつとは言えないが、大きな地震がまた起きるだろう」(遠田氏)

出典:地震活動終息見えず 熊本南西部ひずみ警戒 – 佐賀新聞

この佐賀新聞に掲載された画像を見ると、「布田川(ふたがわ)断層帯」や「日奈久(ひなぐ)断層帯」といった活断層が海にまで達している様子がよく分かる。ことに日奈久断層帯は深刻であるように思われる。つまり、この断層帯の先に何が存在しているかが重要ということである。

一連の熊本大震災は現在進行中であり、専門家の間では14日震度7を記録した未曽有の大地震はまず「日奈久(ひなぐ)断層帯」で起こり、それが「布田川(ふたがわ)断層帯」に波及したとされている。つまり、事の発端は日奈久断層帯であり、その先にあるのは紛れもない「川内原発」なのである。

Next: 東京新聞すら川内原発に触れず/NHKが報じなかった熊本地震



東京新聞すら川内原発に触れず

さて次に4月23日、東京新聞朝刊第2面を見てみよう。

『「誘発型」被害拡大』と題されたこの記事は、布田川断層帯や日奈久断層帯の連鎖反応と識者の見解、今後の予測について細密に記述された秀逸なものであるが、決定的に欠けている点がある。それが先に指摘した川内原発の存在なのである。


端的に言えば、川内原発は究極の危機に晒されている。それは広瀬隆氏が指摘したような地震による原発災害である。これまで目にした中央構造線の状態、九州における活断層の状態から確信できるのは、明らかに九州の活断層と中央構造線は連動しているだろうということである。これは我々の想像力を駆使するまでもなく明白な事実のように思われる。

しかしながら、先の東京新聞の記事においてすら、川内原発の危うさについては全く触れられていないのだ。「反原発」を社是としている東京新聞ですらこの有様なのである。今回の一連の地震は明らかに中央構造線との連動が否定できず、その末端に位置するのがよりによって「原発」であるという事実に耳をふさいでいるかのようなのである。

これは一体どうしたことか。本来はこうすべきであろう。

NHKが報じなかった熊本地震と3.11「メルトダウン」の禍根

例えば視点をNHKに転じてみても、このような地震と原発の危険性については全く報道していないかのようである。

実は、NHKは過去にも、原発報道についてあまりに大きな禍根を残している。それが下記に示す「メルトダウン」報道である。
NHK 「今の原稿、使っちゃいけないんだって」 – YouTube

ここではNHKの男性アナウンサーが「福島第一原子力発電所一号機では、原子炉を冷やす水の高さが下がり、午前11時20分現在で核燃料棒を束ねた燃料集合体が水面の上、最大で90センチほど露出する危険な状態になったということです。このため消火用に貯めていた水など、およそ2万7000リットルを仮設のポンプなどを使って水の高さをあげるための作業を行っているということです」と明確に話している。

ところが、その後微妙な間合いがあり、

ちょっとね、いまの原稿使っちゃいけないんだって

とのスタッフの声が入る。そして、先のアナウンサーは何事もなかったように、最初とは違った文面を読み上げたのだ。

「改めて原発に関する情報です。福島県にある福島第一原子力発電所の一号機では、原子炉が入った格納容器の圧力が高まっているため、東京電力が容器内の空気を外部に放出するベントの作業を始めましたが、格納容器のすぐ近くにある弁を開く現場の放射線が強いことから、作業をいったん中断し、今後の対応を検討しています」

ジャーナリズムの危機

つまりは、あれほど反原発で売っている東京新聞が川内原発に触れない事実、NHKも被災者の困窮ばかり報道して本質的な危機である川内原発に触れない事実がある。

ジャーナリズムに寄与している人間がこのことに気がつかないはずがない。事は中学生でも気がつく問題だ。ということは、意図的に川内原発の問題を避けているとしか思えない。

しかも前掲の画像を見れば、川内原発の直下には断層が走っている。端的に言えば、中央構造線の最南端に川内原発は建っているのだ。

政治を知っている者なら予感しているはずだ。九州の原発をめぐる問題は技術的なものではなく、もはや政治的問題になっていることを。

テクニカルな側面からすれば、今回の熊本大震災は熊本を中心とする活断層の異常な活動であり、それは日本最大の活断層である中央構造線と何らかの形で連動しており、この余波は今後日本列島をなんらかの形で揺さぶるだろうことは、ほぼ間違いないのである。

極端な言い方をすれば、小松左京の『日本沈没』のようなことが起きることは、今や否定し難い現実のようにも思われる。だからこそ本来、技術的側面からすれば九州にある原発は全て停止されるはずのものだ。

Next: 緊急事態でも原発を止められない安倍首相



緊急事態でも原発を止められない安倍首相

それでも、日本の為政者のトップである安倍首相は九州の原発を止めようとはしない。これは一体なぜなのか?熊本大震災の本質はまさにここにある。日本が沈没するかもしれない時に、日本の首相は原発を止める決断をしないのである。なぜか?

安倍首相の思惑としては、何も複雑なロジックがあるとは思えない。これは安倍首相の政治的姿勢に深く関わる問題であると考える。要するに安倍首相は日本の「独裁者」になりたい政治家なのである。

よって、原発問題にしても、技術的問題はさておいたとしても、最終的な原発の命運は安倍首相自らが握りたいと思っているふしがある。これは極めて危険な思想・妄想である。

原発は「技術」ではなく「政治」の問題である

結論を言えば、国民の多くがこの原発問題に気がつき、マスコミの報道管制が効かなくなった時、安倍首相は原発の停止を命じるだろう。そして、それはあっけないほど粛々と行われるだろう。

これは何も安倍首相が世論に屈したわけでもなく、原発の危険性を悟ったわけでもない。「政治的決断」によって原発は止められたことになる。この事実が安倍首相にとって大切なのだ。

つまり、日本の原発政策で安倍首相が狙っているのはこのことなのだ。

原発の行く末は技術的な問題によって左右されるのではなく、全て「政治的決断」によって決められるということだ。このことは一握りの為政者によって原発が恣意的に取り扱われることを意味している。原発が国際政治を含めた、政治的駆け引きの道具にされるということだ。

こう考えると、今回の熊本大震災で、日本のリスクは様々な意味において跳ね上がったように思われる。小松左京の『日本沈没』が絵空事ではなくなる世の中が到来したかのようである。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2016年4月26日)

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