かなり精密かつ徹底的な税制改革でベーシックインカムを実現したとしても、そもそもそれで国は成長し、豊かになり、未来は明るいのだろうか。ベーシックインカムを実現したら、国富が増えるのだろうか。国民は勤勉で、意欲溢れるようになっていくのだろうか。私は、そう思わない。(『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』)
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プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、主にアメリカ株式を中心に投資全般を扱ったブログ「フルインベスト」を運営している。
ベーシックインカムは日本人のためになるのか
最近、多くの人が「ベーシックインカム」を口にするようになっている。
ベーシックインカムとは、政府がすべての国民に対して「毎月一定額を無条件に配る」という政策を指す。たとえば、毎月8万円なり10万円なりが誰の口座にも振り込まれるということだ。
最低限の生活資金が振り込まれたら、国民は知的で有意義な生活ができるはずだという思想がこのベーシックインカムの中に込められている。
多くの仕事を掛け持ちするワーキングプア層や、低賃金を余儀なくされている非正規雇用者や、ブラック企業で死ぬまで働かされている労働者にとって、ベーシックインカムはとても魅力的な政策に見える。
日本でもベーシックインカムを説く識者もたくさんいるし、それを望んでいる人も大勢いる。
しかし、本当にベーシックインカムが日本と日本人のためになるのかと言われれば、私は疑問を感じている。
フィンランドとカナダは「財源の問題」で断念
財源はどうするのかという問題もある。
フィンランドとカナダは実験的にベーシックインカムを取り入れたのだが、早期で継続を断念している。もちろん財源の問題だった。
「いや、日本は大丈夫だ。今は問題ない」と主張する人もいるのだが、これから日本は超高齢化が極度に深刻化し、税収が減り、GDP成長も期待できず、人口増大も期待できず、萎縮していくのである。
そんな中で政府が莫大な国債を発行しながら国民に金を配りまくる。普通に考えて、将来に禍根を残すのは目に見えている。
Next: 日本はどうなる?月7万円を配って生活保護や年金給付をなくすという案
国民に月7万円を配って生活保護や年金給付をなくす
小泉純一郎内閣で経済財政政策担当大臣・金融担当大臣に就任して、非正規雇用者を増やしまくって日本に格差をもたらした政商の竹中平蔵も、ベーシックインカムを提唱している。
しかし、以下のような内容だった。
「国民に月7万円を配って生活保護や年金給付をなくし、所得が一定以上の人には後で返してもらう」。
これだとむしろ国民は困窮すると激しい批判が起きて、竹中平蔵は「自分の意見ではない」と後ではぐらかしているのだが、こういう不完全なベーシックインカムを政府が出すこともあり得る。
政府にとって負担のない額のベーシックインカムは国民にとっては不十分な額であり、国民にとって十分な額は政府にとっては負担になる。
国民にとって十分な額を配るのであれば、最終的には国民からもっと税金を取らなければならなくなる。
「働いている人から取って、働いていない人に配る」ものになっていく
無い金は配れない。政府は稼ぐのではなく徴収する機関だ。だから、ベーシックインカムは最終的には「働いている人から取って、働いていない人に配る」ものになっていく。
それでも「働かなくても食べていけるのであればベーシックインカムの方が貧困層は得するのではないか」と考える人もいる。
しかし、あらゆる社会保障をベーシックインカムで一本化するというのであれば、竹中平蔵が言った通り、生活保護費も年金もすべて一律7万円とかになるわけで、むしろベーシックインカムにしたことで食べていけない高齢層や貧困層が続出することになる。
超高齢化社会に突入した日本でベーシックインカムを実施すると、最終的には最も人口が多い高齢層と貧困層が揃って食べていけなくなる。
Next: 働かないでわざと困窮するのは合理的な判断になる
働かないでわざと困窮するのは合理的な判断になる
もし、こうした本当の貧困者や困窮者はベーシックインカムとは別枠の生活保護で助けるというのであれば、そのことが日本人の「精神的な荒廃」をもたらすだろう。
なぜなら、人々はこのように考えることになるからだ。
「ベーシックインカムをもらい、さらに働かないで困窮すると生活保護費も別にもらえる。そうであれば働いたら負けだ」。
それはずるい考え方ではない。働かなければ働かないほど生活保障を厚くしてくれるというのであれば、働かないでわざと困窮するのは合理的な判断になるのである。
確かに、現代の弱肉強食の資本主義は確かに凄まじい貧困と経済格差を生み出した。しかし、働かないで政府に食わせてもらうシステムは正常なのだろうか。
「働いたら負け」が現実になれば、やがて貧困層だけの国になる
ベーシックインカムは「行き過ぎた資本主義」に対するひとつの提案として生まれた所得再分配のアイデアである。
所得再配分なのだから、消費税みたいなものではなく累進課税で金持ちから取ればいいという人もいる。「累進課税などで金持ちからがっぽりと税金を取って、それを原資としてベーシックインカムを実現したらいい」という発想だ。
しかし、フォーブスの世界最強クラスの金持ちであるウォーレン・バフェットやビル・ゲイツやジェフ・ベゾスの資産が10兆円規模であるのを見ても分かる通り、金持ちからがっぽりと税金を毟り取っても、とても100兆円には満たない。
仮に何とか最初の年に100兆円を金持ちから毟り取ったとしても、2年目になると誰も金を持っていない事態となる。つまり、いくら累進課税で金持ちから金を毟り取っても、それをベーシックインカムの原資にするというのはできない。
そもそも、金持ちに全資産を毟り取るような重税を敷いた瞬間、金持ちは国を捨てて出て行くだろう。後に残されるのは、金持ちも事業家もいなくなった貧困層だけの国になる。
Next: 「働かない」人が出てくるのは必然。それで日本は豊かになるか?
「働かない」ことを選ぶ人が出てくるのは必然
かなり精密かつ徹底的な税制改革でベーシックインカムを実現したとしても、そもそもそれで国は成長し、豊かになり、未来は明るいのだろうか。
ベーシックインカムを実現したら、国富が増えるのだろうか。国民は勤勉で、意欲溢れるようになっていくのだろうか。
私は、そうは思わない。
「働こうが働くまいが一定額をもらえる」というのであれば、「働かない」ことを選択する人間が出てくるのは必然でもある。
生活するにはまったく足りない額であればベーシックインカムの意味がないので、ベーシックインカムは必要最小限の生活ができる額になる。たとえば10万円だ。しかし10万円は必要最小限だ。
日本人の大多数は都会で暮らしているが、大都市圏に暮らして10万円でやっていくというのは大変なことだ。本来であれば働かなければならない。
しかし、10万円が入るのなら、むしろ極限まで節約して10万円で一生働かないで暮らそうと思う人も続出するはずだ。働くのは面倒くさい。何もしないで寝ていた方が楽だ。
そうであれば働かない選択をする人が増えても当然なのである。
それは、どこかで見た体制だと思わないだろうか?
働かない人が増えれば国家の歳入はそれだけ減る。すると政府はベーシックインカムを維持するためにますます税金を引き上げなければならなくなる。
結果的には税金ですべて奪われて、働けば働くほど税金が過大にかかって損する社会が生まれることになる。
わざわざ労働をして損をするなら、余分に働こうなどと思う奇特な人はいない。働いて酷税を取られて「働いていない奴ら」に配られるのなら、馬鹿馬鹿しくて働いていられないと思うのが人の心だ。
これは、どこかで見た体制だと思わないだろうか。
そうだ、共産主義だ。働いている人間も働いていない人間も、頑張っている人間も怠けている人間も、みんな一律の給料にしたのが共産主義である。
共産主義の国家に生きていた国民はみんな働かなくなって、共産主義国家は非効率さゆえに崩壊していった。
Next: そして、誰も働かない社会へ。ベーシックインカムの罠に気づけ
そして、誰も働かない社会がやってくる
ベーシックインカムというのは、そのような社会を生み出すのではないか。最低限の生活資金が振り込まれたら誰も働かなくなるというのが実情ではないのか。ベーシックインカムは継続できないシステムではないのか。
私自身は、ベーシックインカムなどは机上の卓論でしかないと思っている。こんなものを取り入れたら国が滅びる。
保守層にもベーシックインカム賛成派は大勢いる。しかし、私は日に日にベーシックインカムに懐疑的になっている。そもそもベーシックインカムそのものが資本主義を混乱・瓦解させるために左翼が仕掛けたワナではないかとさえ思っている。
甘い話には気をつけよ。騙されたら国が滅びる。
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本記事は鈴木傾城氏のブログ「ダークネス」からの提供記事です。
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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