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アメリカ覇権の延命を担う「パナマ文書」の株高・米ドル高効果=高島康司

前回の記事で、米政府が「パナマ文書」を公開した本当の目的は、アメリカがタックスヘイブンとなることで、世界の富裕層の資金をアメリカに集中させることであると書いた。

「パナマ文書」は「ICIJ(国際調査ジャーナリスト連盟)」によって内容が選択的に公開されている文書である。「ICIJ」はジョージ・ソロスの「オープンソサイティー」や「フリーダムハウス」など、米政府系のNGOが資金の過半を提供しているアメリカの国策機関だ。(未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ・高島康司)

上昇し続けるNYダウの不可解を解くカギは「パナマ文書」にあり

他国のタックスヘイブンを潰し、米国内のタックスヘイブンを保護する

今回公開された「パナマ文書」には、各国の著名人の名前はあるもののアメリカ人の名前はほとんど含まれていない。ましてやアメリカの政治家の名前はまったくない。パナマはアメリカの実質的な属国なので、アメリカの著名人がパナマをタックスヘイブンとして使っていないとは考えにくい。

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「パナマ文書」の内容はすべてが公開されているわけではない。「ICIJ」が内容を選択している。ということは、「ICIJ」は意図的にアメリカ人の名前は公開していないと理解して間違いないだろう。では、他の国々の著名人の名前は公開してもアメリカ人の名前は非公開にする目的はなんだろうか?

それは「パナマ文書」の公開により海外のタックスヘイブンを潰して、アメリカ国内の租税回避地に世界の富裕層の資金を集中させることにある。

2010年にアメリカは「外国口座税務コンプライアンス法(FACTA)」を制定した。この法律は2013年から施行されている。「FACTA」は、海外に金融資産を持つアメリカ人に資産の米国税庁(IRS)への報告を義務付けた法律である。また、海外の銀行にもすべての口座内容を米国税庁に報告し、アメリカ人がいないことを証明することを要求している。

またOECDは、アメリカの「FACTA」にならい、「共有報告基準」なるものを策定した。これはタックスヘイブンを壊滅するために、各国の政府に銀行の口座内容を透明化させ、それをOECD諸国で共有できるようにした規約である。この規約の成立後、名義人を隠した秘密口座を持つことは難しくなるため、タックスヘイブンを作ることは困難になる。

一方アメリカは、OECDの「共有報告基準」には加盟していない。これは、アメリカは自国の法律の「FACTA」を楯に他の国々の銀行には口座を開示するように迫るものの、「共有報告基準」には加盟していないので、アメリカ国内の銀行の口座は開示する義務はないということを示している。

つまり、他の国々のタックスヘイブンは壊滅させるものの、米国内のタックスヘイブンは米政府が保護するということである。

事実米国内には、ワイオミング州、サウスダコタ州、ネバダ州、デラウエア州などの4州がタックスヘイブン化している。これらの州では法人税や所得税は極端に低い。

富裕層の資金がアメリカ国内の租税回避地に集中

「パナマ文書」が公開されてから、資産の秘密が暴かれることを恐怖した世界の富裕層は、資産をもっとも安全なタックスヘイブンであるアメリカに移動させる動きを強めていると考えられる。

他方アメリカは、中小企業を中心に利益が大幅に減少し経営が悪化している。こうした企業は社債の販売によってなんとか運転資金を得ている状況だ。社債は企業の債務にほかならない。いま米企業の債務は、時価総額の35%にまでも膨らんでしまっている。

もしこの状況で社債市場が下落すると、社債の販売で運転資金を得ることができなくなるため、多くの企業の連鎖的な倒産が起り、これが新たな金融危機の引き金になる可能性が出てくる。

海外のタックスヘイブンを潰し、富裕層の資金をアメリカの租税回避地に集中させると、これらの資金のうちかなりの割合が米国内で投資されるので、社債市場や株式市場が大きく暴落する危険性はほとんどなくなる。米中小企業の連鎖的な倒産も回避される。

「ICIJ」が「パナマ文書」の内容を選択的に公開したのは、富裕層の資金をアメリカに集中させ、金融危機を回避するという米政府の目的があった可能性は非常に高い。

弱含みで推移している米経済

現在の米経済を見ると、不況に突入したとは言えないものの、かなり弱含みの状態で推移しているのが分かる。<中略>

特に気になるのは、一時派遣労働者の雇用状況である。正規雇用とは異なり、必要なときにいつでも雇用も解雇もできる一時派遣労働者の雇用状況は、景気の実態をもっとも直接的に反映するとされている。過去2回の不況では、実際に不況に陥る前に悪化していた。そして3月は先月に比べて1.8%のマイナスとなった。これは過去の不況時と同じように、不況に突入する警戒信号ではないかと注視されている。

Next: 米国の高い倒産件数と企業収益の悪化/相次ぐ大企業の社債格下げ



高い倒産件数と企業収益の悪化

一方、3月の米雇用統計はおおむ良好な状況だった。非農業部門雇用者数は前月比で21.5万人増となり、予想の20.5万人を上回っている。
(※編注:4月米雇用統計は予想20.2万人に対し16万人増となった)

だが、それにもかかわらず今年に入ってからの大企業の倒産件数は増大している。「S&Pレイティング・サービス」によると、今年に入ってからの大企業の倒産件数は46社と記録的な高さになっているという。破綻した企業の多くは地方の大企業で、最初の3カ月で破綻件数が46社というのは、リーマンショックが起こり米経済がマイナス成長に転落した2009年以来だとされている。

調査が実施された時期がずれているので、3月の雇用統計には、この企業破綻の影響は反映されていない。しかし、大企業を中心にした倒産件数がこれからも増大するようであれば、雇用統計も突然と悪化することは避けられないと見られている。

さらに、「S&P500」の優良大企業の収益も悪化の一途だ。米大手紙の「USAトゥデイ」の記事によると、2014年のピーク時に比べ、収益は18.5%も減少している。また、中小も含めた全米の企業平均では、8.5%の減少だという。

相次ぐ大企業の社債格下げ

そしてこれに伴い、大企業の発行する社債の格下げも相次いでいる。格付け大手のスタンダード・アンド・プアーズによると、「S&P500」の企業の社債の格付けは平均して「BB」だという。これは企業が期日通りに債務の返済が困難となる可能性があることを示す格付けだ。

現在までのところ、すでに61社の大企業が格下げされた。リーマンショックで頂点に達した前回の金融危機が本格化する少し前の2007年の半ば、業績の悪化から79社が格下げされている。

一時派遣労働者の雇用状況とともに、格下げされた企業の件数は不況の突入を示す予兆と見られている。この件数がこのまま増加すると、不況の突入が避けられないとの認識が広まるかもしれない。

Next: 米国民は景気の先行きを悲観?世論調査/上昇し続けるNYダウの不可解



アメリカ国民はいまの米経済をどう見ているか?驚きの世論調査

では、一般の米国民はいまの米経済をどのように見ているのだろうか?米経済は個人消費にけん引されている。米国民が今後の景気をどのように見ているかによって消費動向も決まってくるのでこれは重要だ。

先頃、「CNNマネー」が1万ドル(アメリカの感覚では100万程度)以上の資金をオンライントレードで運用している人々にいまの米経済の状況を評価してもらった。評価は一番高い「A」にはじまり、「B」「C」「D」と続き、最後は「落第」を表す「F」となっている。日本の5段階評価にだいたい対応しており、「C」が「平均的」の「3」に一致する。

すると、半数を越える52%が現在の米経済の状況を「C」と判定した。さらに残りの15%は、最低水準の「D」や「F」とした。

これは多くの米国民が米経済の状況を楽観していないことを表している。過半数の国民が経済の先行きに不安を感じているのである。これは、大企業倒産件数の増大や、企業収益の悪化などの他のデータと一致する結果である。

上昇し続けるNYダウの不可解

しかし、このように米経済の状況が明らかに悪化しつつあるにもかかわらず、ニューヨークダウは上昇している。4月19日には、約9カ月ぶりに1万8000ドルを突破した。米経済の減速を示す兆候がこれほど多く出ているにもかかわらずである。

NYダウ 月足(SBI証券提供)

普通であれば実体経済の減速を懸念して、ダウも下落してしかるべきなのに奇妙な状況だ。

今年の2月ころから、ハリー・デント、ピーター・シフ、ボー・ポルニーなどチャート分析の専門家で、リーマンショックの金融危機を早期に警告して予想を的中させた市場アナリストは、ダウが暴落するあらゆる条件が整っており、いつ暴落の引き金が引かれてもおかしくない状況だと警告していた。早ければ3月初旬にも暴落する可能性があるとしていた。

しかし実際は、すべての暴落予想は完全に外れた。予想に反してダウは変動しながらも上昇し続け、最高値の1万8000ドル台に達した。これはどうしてなのだろうか?

Next: 富裕層の資金流入がNY株価を下支えか/ダウはさらに上昇?



米国内に逃避する富裕層の資金流入が株価下支えか

先頃、米企業の第1・四半期の決算が相次いで発表され、なかには非常によい業績の企業もある。ダウの上昇をこの好調な業績で説明しているエコノミストも多い。

だが、先の米経済の減速を示唆する数値を見ると、これは説明にはなりにくい。実体経済が減速しつつあるにもかかわらずダウが上昇しているとすれば、米国内に投資される新たな資金が外部から流入してきたと見て間違いないのではないかと思う。

その流入している資金こそ、「パナマ文書」の公表で海外のタックスヘイブンから米国内の租税回避地に逃避してきた世界の富裕層の資金であると見て間違いないのではないだろうか?米国内への流入資金の変動を示す統計値は発表になっていない。これには時間がかかる。

また、時価総額を維持するための米企業による自社株買いも株価を押し上げる要因になっていることは間違いない。

しかし、ダウの上昇が「パナマ文書」が公開された後の4月11日に始まっていることを考えると、やはり海外の富裕層の豊富な資金の一部が株式に投資された結果と見ることができるだろう。

NYダウと米ドルはさらに上昇するのか?

もちろん、資金の流入額を示す公式の統計が公表されない限り、これを厳密に証明することはできない。いまのところ、これは仮説である。

しかし、もしこの仮説の通りだとするなら、総額で21兆ドル(2500兆円)にも上る富裕層の天文学的な資金の一部は、これからもアメリカに継続して流入すると見ることができるだろう。

とするなら、アメリカの実体経済の動向にかかわらず、多少の変動はありながらも株価と社債は上昇すると予想できる。チャート分析に基づく暴落予想はこれからも外れる可能性のほうが高いのではないだろうか。

Next: NY株高と基軸通貨ドル延命策としての「パナマ文書」リーク



NY株高と基軸通貨ドル延命策としての「パナマ文書」リーク

さて、このように見ると米政府の国策機関である「ICIJ」による「パナマ文書」のリークがいかに大きな意味を持つかが分かるだろう。

世界の資金循環をアメリカに流入させ米経済を支えるように変化させるのが、このリークの目的であった。

そしてそれは、4月4日という絶妙のタイミングで実行された。この少し後には広島においてG7が開催され、その場でタックスヘイブンの取り締まりが話し合われた。これは、アメリカが加盟していないOECDの「共有報告基準」の順守を意味する。

さらに4月14日にワシントンで開催されたG20で同じ内容が確認され、そして5月26日の伊勢志摩サミットで宣言に盛り込まれることだろう。

再度言うが、OECDの「共有報告基準」に調印していないアメリカは、米国内の銀行口座の内容を他国に対して開示する義務はない。アメリカは国内法の「FACTA」とともに、「共有報告基準」を他国に一方的に順守するように強制する立場にある。

「アメリカ覇権」維持の切り札

これで海外のタックスヘイブンは潰されるので、伊勢志摩サミットのような国際的な場でタックスヘイブンの取り締まりを強調すればするほど、富裕層の資金はもっとも安全なタックスヘイブンであるアメリカにどんどん流入することになる。

このように、資金の世界的な流れを変化させることで、米政府は凋落しつつあるドルの基軸通貨体制と米国覇権の延命を狙っているのである。

この一連の流れに従い、5月26日の伊勢志摩サミットをひとつのメドにしながら、これからもダウ上昇の基調は維持され、比較的にドル高円安の基調も維持される可能性が高い。

だが、本当にこのシナリオ通りに行くのだろうか?いや、そうではないはずだ。うまく行くシナリオほど、予想外のブラックスワンを引き寄せる。これは次回以降に書きたい。

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未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』(2016年4月22日号)より一部抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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