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なぜ大荒れ国債相場にスポットライトを当てないのか?すべての市場に影響を及ぼす英国政府の国債買い=高梨彰

英国政府が減税による景気刺激策を表明したことで、英2年債は数日で150bpも利回りが上昇しました。この動きを見た英国の中央銀行(BOE)は、相場安定のために英国債買いを表明。国債の激しい動きにあわせ、株式市場や為替相場も大荒れとなりました。現在の相場の主役は国債です。今回は日本ではあまり語られない国債動向の重要性について説明します。(『徒然なる古今東西』高梨彰)

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プロフィール:高梨彰(たかなし あきら)
日本証券アナリスト協会検定会員。埼玉県立浦和高校・慶応義塾大学経済学部卒業。証券・銀行にて、米国債をはじめ債券・為替トレーディングに従事。投資顧問会社では、ファンドマネージャーとして外債を中心に年金・投信運用を担当。現在は大手銀行グループにて、チーフストラテジスト、ALMにおける経済・金融市場見通し並びに運用戦略立案を担当。講演・セミナー講師多数。

今のマーケットの主役は債券

今、マーケットの主役は債券です。でも、日本では経済専門ニュースですら、利回り水準をサクッと伝える程度。NHKニュースは相変わらず「株と為替の値動きです」。

ということで、超大雑把な「債券市場の追い方」を以下に。

日本国債や米国債など、国債を見るとき、面倒であれば「先ずは10年国債」利回りを追います。

でも利回りを見ても損益の振れが分かりません。そんな時、「10年国債利回りが0.01%(1bp:1ベーシスポイント)動いた時、債券価格は100円当たり『10銭弱(0.1円弱)』動く。だって10年国債だから10銭だもの」を思い出します。

日本の10年国債を100万円買ったとして、その国債を売ろうとしたとき、買った時より利回りが1bp上昇していれば、0.1万円、1,000円弱損失が出るという計算です。

主な金融機関は国債を100憶円、1,000億円単位で買います。100億円だとしても、1bp動けば損益は1,000万円弱振れます。運用担当者とすれば、1bpの値動きも刺激的です。

そのため、債券市場では5bpも動けば「相場が動いた」と実感します。換言すれば、1日5bp超の値動きは「たくさん動いた」です。

英国政府が起こしたサプライズ

さて、昨日の米国10年国債は1日で20bp(0.2%)以上も利回りが低下しました。100億円分の米10年債を持っていれば、1日で2億円弱、評価損益が改善です。

将棋の飯島栄治八段の言葉を借りるならば「これ、すごくないですか?」

米10年債利回りは、昨日一時4%を超える場面がありました。しかし、先週末から利回りが急騰(価格は急落)していた英国債が買われ、米10年債利回りも3.7%台前半まで低下しています。

英2年債は数日で150bpも利回りが上昇していました。原因は英国政府が減税による景気刺激策を表明したためです。

一方、英国の中央銀行、イングランド銀行(BOE:Bank of England)は米FRB同様にインフレ退治目的の利上げと、金融緩和時に購入した英国債の売却を決めていました。

しかし、BOEの英国債売却と英財政拡大が相俟って、市場での英国債売りに拍車が掛かります。

市場が不安定となった為、BOEは英国債売却を延期した上に、市場安定のための英国債買いを表明します。

昨日の主要国国債買いと株高、ついでに米ドル高一服は、BOEの措置が切っ掛けとなっています。

何たって短期間で150bpの金利上昇ですから、飯島先生じゃなくても「これ、すごくないですか?」となる訳です。

Next: 国債市場が安定しない限り他の市場も荒れ続ける



ボラティリティ高さに揺れる市場

問題は金利上昇から低下に転じたといっても、1日20bp超という大きな値動きが伴っています。ボラティリティ(変動率)は高いままです。

それこそ、米国債の1日の値動きが5bp程度に日々収まらないと、市場はホッとすることがえきません。

運用担当者(ポートフォリオマネージャー)にしてみれば、このところのポジション表を見るたびに損益が振れ過ぎて、精神的な疲れが何倍にも跳ね返って来ます。

直属の上司や担当役員、財務関連部署などに報告するにしても、毎日「昨日の数字と全然違うじゃないかい」と、理不尽な叱責を受ける始末。

「だったら、お前らも相場ちゃんと見てろ」と叫びたいのをグッと堪えて「連日、値動きの激しい日々が続いております。当ポートフォリオの平均デュレーションは…」

と、「どーせディレーションなんて分かんねーだろ」と確信しつつも、事務的に説明を続けます。

ちなみに「デュレーション(duration)」は直訳すると「期間」。10年債ならデュレーションは10年弱。具体的には債券利回りと債券価格との関係も表します。

冒頭で「10年債1bpの変化で、債券価格は100円当たり10銭弱変化」は、このデュレーションの話です。もう少し具体的に損益を考えるならば、「残存年数×0.9銭」が100円当たりの債券価格変化としておくと、概算にはちょうど良いかもしれません。まぁ大雑把ですけど。

国債市場が安定しない限り他の市場も荒れ続ける

BOEの英国債買いは、本来「英国債売り」という金融引き締め策を行うべき時に行った緊急措置です。その動きを好感したとしても、一時的に留まります。

同時に、金融引き締め時には、こうした不意討ちが折に触れて登場します。昨日の米国債買い(利回り低下)にしても、ビックリ買いです。

ホント、どの相場も難しい上に直ぐに損益が大きく振れます。レンジ感(値幅の感覚)も従来とは異なっていて大変なんです…。

てことで、米国債の動きが「これ、すごくないですか?」である限り、1日5bpの動きに収まらない限り、他市場のボラティリティも高いまま。

藤井聡太五冠のように「ん-っ、そぉですねぇ~」と静か、かつ自信を持って相場を語れる日は何時になったら来るのでしょうか。年内は厳しそうです。

まとめ

・英中銀(BOE)、英国債価格急落を受けて、英国債買いに踏み切る
・本来BOEは金融引き締めの一環で英国債売却を決めていました
・米国債の値動きが1日5bpに日々収まらない限り、荒れ相場は続きます

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image by:Natanael Ginting / Shutterstock.com

徒然なる古今東西』(2022年9月29日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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