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「国策に売りなし」政府が1兆円を投じる“リスキリング”関連4銘柄を完全比較。長期目線で強いのはやっぱりリクルート=山田健彦

岸田政権が5年間で1兆円を投じる”リスキング”。DX革命に向けて働きながら学び直すことを増やすことを目指すのが狙いだが、これにより潤うのは転職銘柄。国内の代表的な4銘柄を比較し、さらに海外の競業企業と戦えるのかまで、詳細に検証します。(『資産1億円への道』山田健彦)

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政府の意図する“リスキリング”とは

「リスキリング政策」という社会人の学び直しが話題です。これにより人々が最先端の知識を身につけ、より高度で付加価値の高い仕事に着くようになり賃金の上昇に繋げたいという考え方があるようです。

リスキリングとは社会人が今の勤務先を辞めずに、能力向上を図るための学び直し。リカレントは、今の勤務先を辞めて大学、大学院などの高等教育機関で学び直すとのこととのこと。つまり、政府の意図するリスキリングとは企業内教育のようです。

一部の識者からは日本の賃金が上昇しないのは、終身雇用制のせいで、この制度の存続を前提とするリスキリングでは賃金上昇はない、との説がありますが、他方、終身雇用制を廃止すれば、企業による解雇権の乱用で失業者が街にあふれる、との懸念もあるようです。

筆者は終身雇用制の廃止が難しいのであれば、雇用の流動化を進め、従業員の方が、より高い給料を払ってくれる企業に移動することで、全体として賃金水準が上昇していくような仕組みを作る方が、今の日本には合っているのだろうと思います。

“リスキリング”“リカレント”で狙いの銘柄は?

上記のような「リスキリング、リカレント」という流れから転職エージェント各銘柄を見ていきます。

※【当メルマガでは個別銘柄の分析を少しずつ行っています。選択基準は筆者が個人的に気になる銘柄群の中から適宜ピックアップ。中長期的視点での分析なので「今すぐに買い出動したほうが良いよ」というものではありません。ご注意ください。】

転職エージェントの代表格はリクルート<6098>でしょうか。同社の直近の会社四季報の見出しは「絶好調」。しかし、チャートの形状は良くありません。

リクルートのチャート形状

リクルート<6098>年足(SBI証券提供)

年足を指定してみると、昨年の株価の上昇分をほぼ全て帳消しにしています。

リクルート<6098>月足(SBI証券提供)

月足では上昇している60ヶ月線で底支えされている感じ。前回2020年3月、4月も60ヶ月線から反転上昇に転じました。

クルート<6098>週足(SBI証券提供)

週足では2022年6月17日の週と先週とで少し変形ではありますが、ダブルボトムを付けそうな感じです。

おそらくリクルートのチャートの形状が悪いのは米国での金融引締めで転職市場が振るわないのでは、との投資家層の推測からだと思います。

Next: 決算短信は絶好調のリクルート。目標株価が下がったのはなぜ?



決算短信は絶好調

直近の有価証券報告書ベースでのリクルートの地域別売上高情報を見ると、
日本が44.5%
米国が29.5%
その他が26%という構成になっています。

直近の四半期決算短信(8月12日公表)では、HRテクノロジー分野での米国での売上は対前年同期比で48%増、米国以外で73.5%増とまさに「絶好調」。為替差益を含まない現地通貨ベースでも米国での売上は対前年同期比で24.9%増、米国以外で46.5%増。

直近の決算短信でのコメントでは「Indeed及びGlassdoor上で求職活動を行う人の数は前年同期比で増加。しかし企業の強い採用需要を満たす水準には到達しなかった」とまだまだ増収の余地があることを示唆しています。

各社レーティングで目標株価が下がった理由

各社レーティングでは

9月30日に日興が目標株価8,700円→7,000円
9月29日にJPモルガンが6,900円→6,500円

と共に強気ではあるものの目標株価を引き下げました。

目標株価の引き下げ理由は主として米国のリセッション懸念から転職市場のヒートアップが沈静化するのでは、という予測に基づいているようですが、同時に「中長期のエントリーとしては魅力的な株価水準では?」との予測も示しています。

直近の決算期末時点(同社はまだ、今期の業績予想は売上高予想しか出していない)での各種指標を見てみると、
ROEは24.18%、営業利益率は13.2%。

対前年期比での売上伸び率は26.5%、営業利益伸び率は2.3倍、一株益伸び率も2.3倍。

自己資本比率も56.3%で財務の安定性も抜群です。

継続監視銘柄の一つに加えておいても良さそうです。

Next: パソナなど、国内同業他社とのトレンドを比較



国内同業他社とのトレンド比較

リクルートの同業他社として、
JACリクルートメント<2124>
パーソル<2181>
パソナ<2168>を分析してみます。

まずは株価の大きなトレンドから。

JACリクルートメント<2124>のトレンド

JACリクルートメント<2124>月足(SBI証券提供)

JACリクルートメント<2124>週足(SBI証券提供)

月足チャート上では2021年3月と2022年6月でダブルボトムを付け、2022年8月の十字線をはさみ連続4ヶ月の上昇。2021年の11月の上ヒゲを抜けるとかなり強い上昇となる可能性がある。週足では2021年11月12日の週の上ヒゲを抜けた。

リクルート<6098>のトレンド

リクルート<6098>週足(SBI証券提供)

月足では60ヶ月線が下支えしている模様。週足では連続陽線が3本立ち、赤三兵の状況だが26週線が下向き、週足MACDがDCしそうで弱い形。

パーソル<2181>のトレンド

パーソル<2181>月足(SBI証券提供)

パーソル<2181>週足(SBI証券提供)

月足では2022年3月、5月、6月と長い下ヒゲをつけ、当面の底値を確認した感じだが12ヶ月線が下向きなので弱気は継続している感じ。週足では8月12日の週に付けた上ヒゲを超えると、2月18日の週の大陰線も超えるので、強気に転じる可能性も。

パソナ<2168>のトレンド

パソナ<2168>月足(SBI証券提供)

パソナ<2168>週足(SBI証券提供)

月足ではリクルートと同じく60ヶ月線が下支えしている感じ。週足では6月24日の週と9月30日の週で変則的ながらダブルボトムをつけた感じ。8月12日の週に付けた直近の高値2195円を勢いよく超えられるかが鍵と思われる。

Next: 株価指標で見ると中長期的に強いのはリクルート



株価指標で4社を比較

次に株価指標(通期)

営業利益率を比較

JACリクルートメント⇒ 23.4%
リクルート⇒ 13.2%
パーソル⇒ 4.5%
パソナ⇒ 6.0%

ROE

JACリクルートメント⇒ 28.14%
リクルート⇒ 28.18%
パーソル⇒ 18.54%
パソナ⇒ 19.56%

過去5年間の売上高成長率を比較

JACリクルートメント⇒ 12.4%
リクルート⇒ 8.1%
パーソル⇒ 12.4%
パソナ⇒ 5.5%

過去5年間の営業利益成長率

JACリクルートメント⇒ 4.3%
リクルート⇒ 14.4%
パーソル⇒ 7.6%
パソナ⇒ 37.5%

海外売上高比率

JACリクルートメント⇒ 9.4%
リクルート⇒ 55.5%
パーソル⇒ 27.4%
パソナ⇒ 開示なし

営業利益率、ROEなどの収益性ではJACリクルートメント、リクルートが良好。

売上高、営業利益の成長率に関してはM&Aで嵩上げされている部分もあるので、売上の伸びと営業利益の伸びがバランスが取れているかがポイント。

この観点からは、JACリクルートメントの売上は、過去5年で12.4%増加したのに、営業利益が4.3%しか伸びていないのは、やや引っかかる。

同様にパーソルも売上が過去5年で12.4%増加したのに、営業利益が7.6%しか伸びてない。これもちょっと引っかかる。

リクルートは過去5年で8.1%の売上増加に対し、営業利益は14.4%増。

パソナは過去5年で5.5%の売上増加に対し、営業利益は37.5%増。

このようなデータの中からどの銘柄をフォローすべきか、悩みますが短期投資に徹するならチャートの形だけ見ていけば良い。中・長期投資目線なら、海外売上の開示がないパソナは除外。やはり中・長期的には海外市場の成長を取り込んでいく必要があります。

売上の伸び率と営業利益の伸び率のバランスが取れていない、JACリクルートメントとパーソルも、中・長期投資目線では慎重にならざるを得ません。

やはりマークすべきはリクルートなのかもしれません。無論、短期投資ならこのような分析は必要なく、単にチャートの形状だけ見ていけば良いのですが、それでも市場全体のセンチメントが売りに傾いていることは頭の片隅に入れておくべきです。

Next: 海外競業他社と比較しても収益性、成長性に強みを発揮



海外競合他社との比較

次回は同業他社比較の続きで海外の競合他社との比較を試みてみます。

リクルートという会社は人材派遣、転職支援、不動産情報サイト、旅行サイト、求人広告、ブライダル、キャッシュレス決済等々と様々なサービスを展開していますが、中心となるものはインディードを中心とするヒューマン・リソース・テクノロジーのようです。この観点から海外の競合他社を探すと、

アデコ、ランスタッド、マンパワーが該当します。これら3社は人材紹介ビジネスでは順に世界1位、2位、3位です。リクルートは4位に位置づけられています。

上記のうちアデコ、ランスタッドは欧州上場で詳細な情報が取れませんでした。ですので比較はNYSE上場のマンパワーと行います。

まずは収益性から。

マンパワーの過去5年の平均営業利益率は2.86%、平均ROEは14.78%。平均ROAは4.37%。

リクルートの過去5年のそれは平均営業利益率は9.49%、平均ROEは18.77%。平均ROAは9.84%

次に成長性を比較します。マンパワーの過去5年の売上高の平均成長率は1.1%、営業利益の平均成長率はマイナス4.9%。

リクルートの同じく過去5年の売上高の平均成長率は8.1%、営業利益の平均成長率は14.4%。

ヒューマン・リソース・テック銘柄の中から中・長期的に見てリクルートかマンパワーのどちらを選ぶかと問われれば、収益性、成長性から見てもリクルートということになります。あとはチャートを見ながらどこで買い出動するか、という見極めだけです。

リクルートの週足を見ると、2021年11月19日の週の高値から2022年6月17日の週の安値まで半値になっているので、どこで買っても良いような気もしますが、ここまで下がってくると11月14日の決算発表を確認してから判断しても十分間に合う気がします。

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image by:beeboys / Shutterstock.com

資産1億円への道』(2022年10月11、17、24日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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