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なぜアップルはVISAを裏切ったのか? iPhone7ショックにクレカ業界騒然=岩田昭男

iPhoneにSuicaが載る。このニュースの第一報を聞いたとき、私は「これはアップルが起こした革命だ!」と思わず叫んでしまいました。(『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』岩田昭男)

※本記事は、『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』2016年9月15日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:岩田昭男(いわたあきお)
消費生活評論家。1952年生まれ。早稲田大学卒業。月刊誌記者などを経て独立。クレジットカード研究歴30年。電子マネー、デビットカード、共通ポイントなどにも詳しい。著書に「Suica一人勝ちの秘密」「信用力格差社会」「O2Oの衝撃」など。

国際ブランドを裏切ったアップルの決断。カード各社に「緘口令」も

日本市場に照準

今月の7日(日本時間8日)にサンフランシスコで行われたiPhone7の発表会を見ると、まさに日本一色で、新しいiPhoneが日本向けにつくられた商品であることがよくわかります。アップルは完全に日本を狙い撃ちしています。狙い撃ちという言葉が悪ければ、日本をあてにしているといってもいいでしょう。

アップルの業績は、このところよくありません。このまま何も手を打たなければ、ズルズルと業績を悪化させるだけです。そこで、アップル神話(?)が根強い日本に狙いを定め、iPhone7の発売に合わせ、Suicaの利用を可能にするという「ウルトラC」を演じたのです。

iPhone7には新しい機能として、

  1. イヤホン端子の代わりに充電端子を使うイヤホンを付属している
  2. カメラが高画質化し望遠機能が付いている
  3. バッテリーの持ちが2割程度アップ
  4. 防水・防塵規格になった

などが加わりました。

これは余談ですが、アップルはiPhoneを『2001年宇宙の旅』に登場した「モノリス」にしたいのです。シンプルなiPhoneの形状をよくよく見ると、「なるほど」と思うはずです(そのためにイヤホンジャックの穴をまず塞いだわけです)。

【関連】アップルペイ「箝口令」の裏で進行する破壊的変化、Suica世界制覇の野望=岩田昭男

FeliCa(フェリカ)をあえて導入したアップル

それはともかく、あらためて言うまでもなくiPhone7の最大の特徴は、ソニーが開発した非接触型ICカードのFeliCa(タイプF)を採用したことです。それによって何が変わったかというと、iPhoneで日本の電子マネー「JR東日本のSuica(スイカ)」を使って、電車に乗ったり買い物したりできるようになったのです。

FeliCaは、駅の自動改札で高速データ送受信が求められるSuicaに最適の技術だったのですが、ISO(世界標準化機構)の国際規格を得られなかったために、欧米など日本以外の国ではスマホには搭載されていません。海外では代わりとして、ISO規格のタイプA・タイプBと呼ばれる、非接触型通信技術「NFC」を採用した決済サービスが搭載されています。そのため、FeliCaは日本だけで利用される規格となり、ガラパゴス化を余儀なくされていました。

ところが、FeliCaはその後、タイプFとして広義のNFCとして認められます。今回、アップルが日本限定とはいえ、そのFeliCaを核にして電子マネーとクレジットカードを処理しようとした、そのことこそが今回の騒動で最も注目すべき点なのです。従来から一部の熱狂的なiPhoneファンの間では待望されていたことですが、多くの人にとっては予想外の出来事だったはずです。

Next: 国際ブランドを裏切ったアップル。主導権は金融機関からIT事業者へ



国際ブランドにとっては裏切り行為だったアップルの決断

今後、実際にiPhoneでSuicaなどの電子マネーを使うには「Apple Pay(アップルペイ)」での対応が必要となります。Apple Payはアップルの決済サービスで、あくまで欧米で発行されたクレジットカードで機能し、日本で発行されたクレジットカードには対応していませんでした。機能はあっても、アップルが日本でそれを封印していたのです。その理由は、Apple Payを使った決済処理に対応する端末が、日本国内にほとんどないということです。

これに対して、国際ブランド・大手銀行などの金融グループには、しっかりとしたロードマップがありました。2020年の東京オリンピック開催までに、NFCの端末を日本全国に行き渡らせるというものです。これに日本政府も参画しており、そういう計画があるのだから、いま早急にこれまでとは異なる規格(つまりFeliCa)を導入するよりも、従来の計画をしっかりと推し進めたほうがいいのではないか、というのがこのグループの考え方です。

当然、アップルにとって今回の試みは大きな冒険でした。結果として、金融グループの意向に反した形になったからです。彼らにしてみれば、業績低迷を打破したいアップルが、日本だけで普及しているFeliCaを使って電子マネーだけではなく、クレジットカードにも対応する方式を立ち上げたのですから、裏切り行為に映ったはずです。

しかし、それでも、国際ブランドのうちマスターカードJCBは、今回のアップルの決定に喜んで従っているように見えます(VISAワールドワイドの消極的な姿勢とは対照的です)。そこに時代の変化を痛感します。ペイメントの主導権が銀行など金融機関からアップル、グーグルといったウェブ事業者へ移ってしまったことの証明のように見えます。ただ、そうはいっても、その根幹にはSuicaがあります。「あくまでSuicaが主役で、クレジットカードはオマケのようなもの」とアップルは見ていると言う人があります。今回の狙いはあくまで、Suicaだったと言うのです。

iD(アイディ)とQUICPay(クイックペイ)が果たした役割

日本の多くの業界関係者は、「FeliCaはSuicaのような電子マネーには最適だけれども、後払いのクレジットカードには対応できないから、やはりNFCの通信技術を導入する必要がある」と考えていました。

ところが知恵のある人がいて、アップルに「iDとQUICPayは電子マネーと言われているけれども、プリペイドのSuicaや楽天Edyなどと違って後払いなのだからクレジットカードであり、それならその仕組みを使っていろいろなクレジットカードを運用できる」と働きかけたのです。

それを聞いたアップルが「なるほど、そういう手があったのか」と、渡りに船とばかりに飛びついて、思いきった動きに出たのではないでしょうか。

iDとQUICPayは、電子マネーとしてはSuica・楽天Edy・WAONなどに比べて会員数などはだいぶ見劣りがしますが、今回のニュースで一躍クローズアップされました。そう考えると、今回の「iPhone7ショック」の仕掛け人は、iDでありクイックペイではないかということになります。

さらにいえば、QUICPayを発行しているのはJCBトヨタファイナンス、iDはドコモ三井住友カードが中心となっています。つまり、背景にはクレジットカード業界の勢力争いがあって、いかにして自社のカードを使ってもらうか、熾烈な戦いが繰り広げられているのです。たとえば、オリコカードはQUICPayセゾンカードならiDというようにです。

消費者はカードで買い物をする際に「QUICPayでお願いします」という具合に、どれを使うか決めるわけです。店側からすれば、従来通り電子マネーを処理するやり方で対応すればいいので、大きな変更はありません。しかし、表には出ませんが、iphone7以降は、クレジットカードの処理でも、裏方のプレイヤーの顔ぶれが大きく変わることになります。そうした点にも注意しておく必要があるでしょう。

いずれにしても、「iPhone7ショック」が日本のクレジットカード業界に今後大きな地殻変動を起こすことは間違いありません。

Next: iPhone7登場で激変するクレジットカード業界、これから何が起こる?



「漁夫の利」を得たJR東日本

iPhone7の登場で具体的にどんなことが起きるのか、考えてみましょう。

iPhone7にFeliCaが載ったことで、FeliCaが大きな力を持つのは間違いありません。しかし、いずれNFCの勢力の巻き返しがあります。日本独自規格のiphone7にはFeliCaのほかに、NFC(タイプA・タイプB)も同梱されていますから、準備が整ったら、いつでもVISAのpayWaveMasterCardのコンタクトレス(旧名:PayPass)といった新ツールを始めることができます。

そうなったときには、iDやQUICPayに頼らなくてもスマホでの決済サービスができるようになり、iD・QUICPayバブルが弾けることになります。そのとき、勇み足をしたクレジットカード会社や関連企業はどうなるのでしょうか。

また、逆にNFCのインフラを作り上げたとしても、FeliCa方式で結構と思う人が多くいて、思いのほか利用者が伸びないとなると、盟主のVISAにとってはゆゆしき事態です。

そして、どちらに転んでも高笑いなのは、Suicaを擁するJR東日本とアップルでしょう。

日本のスマホユーザーの4割がiPhoneの利用者です。Suicaは5700万枚発行されており、モバイルSuicaの会員数は365万人です。仮に日本のスマホユーザー数を5000万人とすると、iPhoneの利用者は2000万人になります。このうちの10%がSuicaを載せるとすれば、モバイルスイカの会員数はあっという間に500万人を突破します。まさに「漁夫の利」を得るのが、JR東日本ということになります。

このように考えてくると、今回の出来事の勝利者は、FeliCaを使ったSuicaをiPhoneに載せることをアップルに認めさせたJR東日本ではないでしょうか。

Next: アップルが各社に緘口令。本当に使えるクレジットカードはどれだ?



ついにアップルによる緘口令(かんこうれい)が敷かれた!

さて、今回の大ニュースをめぐって、クレジットカード業界内部ではいろいろな話が飛び交っています。その話の中身は信憑性のあるものないもの様々で、玉石混交と言って良いかもしれません。

私が取材したところによると、ほとんどのクレジットカード会社が口をそろえていうには、「iDとQUICPayが使えることになったために非常に喜んでいるカード会社が多い」というのです。喜んでいる理由は、今までほとんど使われることのなかったこの二つの電子マネーが使われることになるという、単純といえば単純なものです。

クレジットカードの「アメックス」がiPhone7で使えると一部のネット記事に書かれていますが、アメックスのなかで使えるのは「セゾン・アメックス」です。セゾンがアメックスと提携したカードは使えます。けれどもアメックスのプロパーカードは使えないのです。

VISAの場合は、Apple Payに割り当てられたクレジットカード会社が発行しているカードで使えます。具体的には、三井住友カード、三菱UFJニコス、イオンカード、オリコカード、セゾンカード、dカード、auウォレットカードなどのVISAブランドのカードです。ところが、VISAはリアルでは使えるのですが、ネットでは使えません。当面はApple PayでSuicaを使う場合は、JCBかマスターカード対応のカードでなければダメだということです。

私のビュースイカカードはVISAなので、オートチャージができなくなります。オートチャージができなければ、3倍ポイントもつきません。もしモバイルSuicaをiPhoneに載せるなら、クレジットカードを替えなければならないのです。これは非常に不便です。もちろんiPhoneを使わなければそれで済む話ですが。

こうした不都合がいろいろあって、ネットでは例によってさまざまな臆測が流れています。そのためアップルは、iPhone7の新しいシステムに参加する予定のクレジットカード会社に対して緘口令を敷きました。「よけいなことはしゃべるな、秘密にしてくれ」というわけです。

クレジットカード会社の間には戸惑いが広がっており、「アップルは説明責任を果たす義務がある」という声も出ています。アップル側からすれば、これから微調整をしながら使い勝手をよくしていこう、ということだとは思います(それがシリコンバレーのやり方です)。しかし、日本人は最初から完成形を求めます。こんなところにも、彼我の文化の違いが図らずも浮き彫りにされています。

今後、日本のiPhoneユーザーの特異性をいかに理解するか、それもアップルにとっては大事になってきます。日本のiPhoneユーザーのオタク度はかなり高いですから。


※本記事は、『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』2016年9月15日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』(2016年9月15日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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世の中すっかりカード社会になりましたが、知っているようで知らないのがクレジットカードの世界。とくにゴールドカードやプラチナカードなどの情報はベールに包まれたままですから、なかなかリーチできません。また、最近は電子マネーや共通ポイントも勢いがあり、それらが複雑に絡み合いますから、こちらの知識も必要になってきました。私は30年にわたってクレジットカードの動向をウォッチしてきました。その体験と知識を総動員して、このメルマガで読者の疑問、質問に答えていこうと思います。ポイントの三重取り、プラチナカード入会の近道、いま一番旬のカードを教えて、などカードに関する疑問にできるだけお答えします。

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