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サブプライム危機の再来に備えよ! リーマン・ショックの真相(後編)=矢口新

サブプライム危機から分かるのは、「リーマン並み」のショックは、システマティックなリスクから起こるということだ。このようなリスクは2016年現在も存在している。大きな不安材料だ。(『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』矢口新)

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

サブプライムを知らずして、迫る「次の危機」は予測できない

サブプライム住宅ローン危機

サブプライム・ショックがリーマン・ショックにつながったことは前編で述べた。サブプライム・ショックとは、米国の住宅バブルの崩壊だ。バブルの崩壊なので、米国のほぼすべての銀行、証券、保険会社、保証機関、住宅販売、住宅建築、関連産業、そして、公的住宅金融機関などを巻き込んだ。

また、海外にも飛び火し、英国やアイルランド、スペインなどが大きな影響を受けた。欧州中銀の利上げによりメリットがあったドイツでも、ドイツ銀行などの大手銀行は巻き込まれた。

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日本勢では、崩壊前夜の2007年3月末に、当時の住友信託銀行がサブプライム証券化商品を売り抜けたとの報道を目にした記憶がある。私と同じような見方をしている人がいると、嬉しく思ったものだ。

無視される警告

これは、私ならばサブプライム・ショックを逃れられたと自慢しているのではない。おそらく、私ならばその1年前くらいには首になっている

サブプライム・ショックは住宅価格の急落、証券化商品の暴落だが、その前に住宅販売や住宅建築がピークをつけており、そういったものを見ている人間にとっては、サブプライム・ショックはむしろ遅すぎたからだ。

会社がバブル形成に向かって大儲けしている時に、異論を唱えたり、警鐘を出すディーラーは首になる。

バブルや、通貨危機、ロシア危機など、金融機関が右に倣えで大儲けしている時、多くを見てきたベテランは懐疑的になる。そして、会社やチームで浮いた存在となり排除される。バブルが繰り返されるたびに、そうしたまともなディーラーがいなくなり、バブルの崩壊で残りのディーラーもいなくなる。そして、誰もいなくなったのが証券、金融界だ。

危ないのは最大手

バブルの崩壊では、最大手に近いところが最も被害を受けることが多い。なぜなら、バブル形成の段階で、最大手は最も在庫を抱えるため、崩壊後にはその在庫を処分する相手がいないからだ。

のみならず、在庫の損失を防ぐために、中小の売り物を買い支え、さらに在庫を増やすことが多いからだ。詳細は知らないが、当時の最大手だったリーマンが、バブル後期に最も多くの在庫を抱え、崩壊後にさらに在庫を膨らませた可能性は十分過ぎるほどにあることなのだ。

在庫と表現したのは、様々な形式をとっていても、住宅関連商品のロングポジションには違いがないからだ。バブル崩壊時に最大のロングポジションを抱えていれば、破綻から逃れることのほうが難しい。

Next: 遅すぎはしたが、極めて自然だったバブル崩壊の流れとは?



遅すぎはしたが、極めて自然だったバブル崩壊の流れ

ここで、米住宅市場の背景に踏み込んでみよう。

住宅着工のピークは2007年ではなく、2006年につけている。過去10年間では約70%増加していた。

一方、住宅販売のピークは2005年だ。これは過去10年間で約90%増加した。これで推測できるのは、売れなくなって、建てられなくなったという、極めて自然な流れだ。

そこで、米住宅市場の根っこを支える米人口の動向を見てみよう。

米国は先進国で唯一、毎年約1%の人口増を見ている。これは多くの移民を受け入れているからでもあるが、ほぼ手ぶらで移民してくるので、住宅市場を支えることには変わりがない。むしろ相続する家屋がないため、住宅市場にはより貢献するともいえる。

この3つのチャートで伺えるのは、人口増10%に対し、はるかに多くの住宅が売られ、また建てられていることだ。とはいえ、米国人でこれまで住宅を所有していなかった人々が住宅市場に参入して来れば、これも実需となり市場を支えることになる。

そこで、次に挙げるのは、米国世帯に占める住宅所有の比率だ。

持ち家比率はピーク時に67%を超える。一方で、米国の貧困率は10数パーセント、クレジットカードのデフォルト率は2割を超える。加えて、買えるのに買わない、あるいは、学校卒業直後、移民直後、売却直後など、様々な理由で住宅を所有していない世帯を考慮すれば、持ち家比率60%台の半ばでは、住宅市場はほぼ飽和状態だったと見なせるかもしれない。

とはいえ、住宅産業や住宅金融機関が、市場がほぼ飽和状態だからと、見積もりだけで廃業することはない。

Next: 市場が飽和状態だと分かっていても、後戻りできない最大の理由



バブルのルールは「前進あるのみ」

ここで、住宅価格がどうなっていたかも確認しておこう。米国勢調査局と米住宅都市開発省のデータを順に掲げる。前者のグラフ内部に添付の数値は、バブルの崩壊時2007年の月別中心価格と平均価格、後者のグラフ内部に添付のものは、住宅販売の前回のピーク1977年の月別中心価格と平均価格だ。

中心価格は最も多くの販売があった価格、平均価格は販売価格の平均だ。販売価格の下限はゼロ寸前の価格なのに対し、上限は最高価格と上に引っ張られるので、平均価格は常に中心価格よりも高い。


どちらの資料でも大きく値上がりしていることが分かるが、40年前に比べて、今回は中心価格と平均価格の差が大きく広がっている。これはより高いものが売れていることを示唆し、バブル化が進んでいることを暗示している。

繰り返すが、住宅産業や住宅金融機関が、市場が飽和状態だからと、見積もりだけで廃業することはない。事業家のマインドには、市場は作り出すものだとの認識もある。市場は一見、飽和状態だが、まだ手付かずの市場があるかもしれない

持ち家比率が65%なら、35%は未開拓市場なのだ。あるいは、富裕層にセカンドハウス、それ以上の住宅を購入してもらえばいい。市場はほぼ飽和状態で、生き残り競争をしているので、両方のアプローチを行うのが自然だ。

ここで、35%にアプローチにするために、住宅価格と所得の関係を見ておく。次に挙げる図は、米世帯を下位2割からトップ2割まで5カテゴリーに分類したものだ。下位から4番目までの数値はそのカテゴリーの上限所得、トップカテゴリーだけは上限がなく下限所得だ。

1977年と2007年の数値を挙げた。下部の円グラフは、所得に対する住宅価格の大きさで、左端に置いた1977年のものは、真ん中2割の所得層だけを取り上げている。青の所得でえんじ色の中心価格の住宅を買うことになる。当時でも持ち家比率は6割を超えているので、この層はすでに新規購入の層とは言えないかもしれない。

真ん中に置いた円グラフは、2007年の同じ真ん中2割の所得層が当時の住宅を買う場合だ。左端の40年前に比べて、同じ所得層でも実質的な負担が重くなっていることが分かる。しかし、この層がすでに新規購入の層とは言えないのは同様だ。

持ち家比率から漏れた35%にアプローチするには、最下層の少なくとも上限にはアプローチする必要がでてくる。右端に置いた円グラフが、最下層2割の所得層の上限が2007年に中心価格の住宅を買う場合だ。年収の12.5倍の住宅を買うことになる。

この層は貧困層やクレジットカードのデフォルト層と重なっている。果たして、住宅ローンが組めるのだろうか?

Next: 貧困層に家を買わせる、限りなく犯罪に近い合法ビジネスの破綻



銀行は自分で住宅を買い上げて住宅バブルをつくった

LBO(Leveraged Buy Out)というスキームをご存知だろうか?1980年代頃から流行し始めた企業買収の手法で、銀行は買収先企業の資産を担保に、買い手に資金を貸し付けるものだ。従って、買い手は少額の元金で、銀行が許す限りのどんな大きな企業でも買収することができる。

サブプライムローンとは、こうしたLBOの手法を住宅市場に導入したものだ。

サブプライムローンは、一見すると、夢のようなスキームだった。所得がなく、クレジットカードも持てない人でも、住宅なら持てたからだ。

実際、初期にサブプライムローンで住宅を取得した人の中には、夢を上手く現実に変えた人々がいた。住宅価格が値上がりしていたため、売却益でローンを返済し、残った現金を手にした人々がいたからだ。

とはいえ、その人たちでも値上がりした住宅は買えず、仮にもう一度サブプライムローンに手を出して、価格下落まで所有していたなら、すべてを失ったことだろう。

所得の少ない人が、ローンを組んで高額な買い物をすれば、多くの場合は支払利息の延滞や、支払い不能に至るのは自然の成り行きだ。そうなれば、担保となっていた住宅は銀行のものとなる。銀行にとっては、これは半ば織り込み済みのことだ。

そう考えると、住宅を買った個人は、実は書類の上だけの所有者で、資金は銀行から出て、住宅販売業者に流れたことがよく見えてくる。

限りなく犯罪に近い合法ビジネスの破綻

つまり、銀行は自分で住宅を買い上げて住宅バブルをつくったのだ。狙いは売却益や、住宅産業とのビジネスの拡大だ。個人は事実上の名義貸しに使われた。

公的機関を含めた、ほぼすべての金融機関、保険会社、保証機関、住宅販売、住宅建築が関わった、限りなく犯罪に近い合法ビジネスの破綻が、サブプライム・ショックの真相だ。

Next: サブプライム危機の再来はあるか?2016年現在の危険な兆候



とどめを刺した米連銀

そして、支払利息の延滞や、支払い不能を加速度的に後押ししたのが米連銀だった。

利上げは住宅バブルを鎮静化させるためだったのかも知れない。しかし、ほぼ飽和状態になっていた市場で、需要の先食いのみならず、名義貸しという架空の需要までつくって膨らませたバブルが、鎮静化などという穏やかな状態で終えるはずがない。また、利上げのペースも、連銀の真意を測りかねるくらい急激なものだった。

案の定と言っていいほどに、バブルは崩壊し、米金融市場空前の低金利でもリーマン・ショックにつながった。未曽有の金融危機となったのだ。

サブプライム危機の再来はあるか?2016年現在の危険な兆候

リーマン・ショックからほぼ丸8年後の2016年9月13日、米国勢調査局は、2015年の家計収入の中央値が前年比5.2%増の5万6500ドルと2007年以降で最大となったと発表した。伸び率は1968年の統計開始後で最大だった。

貧困層は2014年から350万人減の4310万人となり、貧困率を14.8%から13.5%に大きく引き下げた。下げ率は1999年以降で最大。また、医療保険未加入者が3300万人から2900万人に減少、加入比率は89.6%から91.4%に上昇、過去最大となった。2010年には4860万人、約16%が未加入だった。オバマケアの成果だとされる。

米連銀のバランスシートは、金融危機への対応そのままの規模を維持している。政策金利も0.25%と、利上げしたとはいえ、依然としてほぼ史上最低水準のままだ。雇用は完全回復、所得も回復した。

一方で、景気拡大期はいつ失速してもおかしくないくらいに長く伸びている。そこに、米国は新大統領を迎えるのだ。

サブプライム・ショックを学んで分かるのは、リーマン並みのショックは、システマティックなリスクから起こり得るということだ。とすれば、地政学的リスクやブレグジットなどよりも、マイナス金利政策のようなもののほうが恐いということになる。

米国内では、米新車販売台数は過去6年間伸び続けてきた。その要因は、雇用回復に加えて、低金利、ガソリン価格の低下、インセンティブによる値引き、新車リースのための業者による購入増などだ。

消費者は新車を2年間などリースすると、自動車ローンを組んで購入するよりも1カ月当たりの出費が抑えられる。8月の時点では、新車販売におけるリース比率が32%にもなったようだ。その販売台数が、このところ伸び悩んできた

ここで金利が上がると、自動車ローンの金利も、リース料も上がることになる。大きな不安材料だ。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2016年9月18日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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