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著名投資家アインホーン氏の大勝負!「GM再生」に賭けた天才の勝算は?=東条雅彦

最近、米国株も日本株も高値で推移しており、市場の過熱感は収まる気配がありません。ファンダメンタルズを重視する投資家にとっては、とてもやりにくい環境になりつつあります。

しかし、そういう状況でも、まだ割安で放ったらかされている銘柄が存在しています。その1つがGM(ゼネラル・モーターズ)です。配当利回りが4.62%、PERが5倍で放置されています。

今月、米著名投資家の1人デイビッド・アインホーンが、GM株を大量に買い付けていることが判明しました。かつて、バフェットがPER5倍で放置されていたペトロチャイナ株を取得したシーンと、とても被ります。ゼネラル・モーターズは2009年に一度、破産して国有化された企業です。近年は教科書的バフェット銘柄として復活を遂げています。

メルマガ読者さんからリクエストを頂いたこともあり、本稿ではこのゼネラル・モーターズを取り上げて分析してみましょう。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)

あの「空売り王」がバリュー投資で大勝負! GMを選んだ理由とは

デイビッド・アインホーン氏はどんな投資家?

米著名投資家のデイビッド・アインホーンは、大手ヘッジファンドであるグリーンライト・キャピタル(時価総額:約6億ドル)の創設者です。1996年にファンド設立以来の運用利回りが年率20%ですが、近年は下降しています。

デイビッド・アインホーンは、空売りの旗手として有名です。2002年には、中小企業向けの融資業を行っていたアライド・キャピタルの空売りを開始しました。この空売りが成功するのは、アライドの粉飾決算が公になった2008年です。通常、空売りでの勝負は短期決戦で収束させなければいけないのですが、アインホーンは6年もかけて自分の信念を貫き、成功に導きました。そして、2008年にはリーマン・ブラザーズの破綻を事前に見抜き、空売りを仕掛けて、大きな利益を得ました。

基本的には空売りが得意なアインホーンですが、2014年にりそなホールディングスにバリュー投資を仕掛けたこともあります。PBRが0.8倍までに落ちていたりそなを、買いだと判断したのです。

このりそなへの投資は大成功には結びつきませんでしたが、元々、安全域を確保したうえで投資をしていたので、推定10~20%程の値上がり益を得て、ポジションを手仕舞っています。

アインホーンは財務諸表を読み解き、大きな市場の歪みをキャッチすると粘り強く勝負をしていくタイプの投資家です。

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ゼネラル・モーターズに大量投資

2017年5月15日に提出された「Form 13F(投資家の買い持ちポジションを示したもの)」により、空売りが得意とされるアインホーンがGM(ゼネラル・モーターズ)株を大量に買い付けていたことが明らかになりました。去年の9月から12月にかけて2.2倍に保有数を増やして、さらに去年の12月から今年の3月にかけて、1.9倍に増加させています。

<グリーンライト・キャピタル GM株保有推移>

この売買動向を見ていると、アインホーンが思いつきでGM株を大量に取得したわけではないことがわかります。2011年から目を付けていて、ポジションを増やしたり減らしたりを繰り返して、2014年には一度、完全に手を引いています。そして、今回、一気に7,275万株まで買い集めました。アインホーンは全資産の36%を、ゼネラル・モーターズに投資しています。

<グリーンライト・キャピタル 2017年3月末時点(公表5月15日)>

2位以下の他銘柄の保有割合は8%以下になっています。GMの動向次第で、パフォーマンスが大きく左右するポートフォリオになっています。アインホーンは明らかに大きな勝負に出ています。GMに対して相当な自信がないと、ここまで急速に買い増すことはしないでしょう。

Next: なぜか割安で放置され続けるGM株は「教科書的バフェット銘柄」だった



なぜか割安で放置され続けるGM株

直近の5年の株価は上がったり下がったりの繰り返しで冴えない値動きが続いています。

<GM 株価の推移(2012年5月~2017年5月)>

GMの株価は現在、33ドル前後で推移しています。配当利回りが4.62%PERが5倍という破格の値付けが行われています。

特に売上高や利益が大幅に落ちている場合、投資家が悲観的になって売り叩かれて、割安で放置されることもあります。しかし、GMの場合、売上高が下落しているという事実はなく、よくわからない理由で株価が低いまま、多くの投資家に無視されています。アインホーンはその間隙を見事に突きました。

財務的には教科書的バフェット銘柄

グリーンライト・キャピタルは現在、GM株を約7千3百株も保有しています。実はバフェットの率いる投資会社バークシャー・ハサウェイも、GM株を5千万株、保有しています。

<バークシャー・ハサウェイ GM株保有推移>

バフェットも2014年には保有株数を4千万株から3千万株に減らして、その後、5千万株までポジジョンを拡大しています。アインホーンと同じように2014年にポジションを減らしたのは、GMで大規模リコールが発生したためです(この件については後述します)。

バフェットの投資法は「買いっぱなしだ」と思っている人が多いのですが、実際には状況に応じてポジジョンを縮小することもあれば、その後、拡大することもあります。バフェットは経営破綻が相次いだ航空業界への投資に乗り出す等、最近は「経営再建銘柄」への投資に力を入れています。

GMは2009年6月に一度、倒産して、国有化されています。この時に大半の債務にリセットがかかったので、とても身軽になりました。今では「教科書的バフェット銘柄」とも呼べる財務内容になっています。

<GMの業績推移(2008年~2016年)>

GMの売上高は倒産した2009年に急落していますが、その後、毎年のように順調に増えています。純利益率は5%前後で推移しています。GMの1株当たりの純利益(EPS)も1株あたり株主資本(BPS)も上昇傾向です。

<GM 1株当たりの純利益/株主資本/ROE(2010年~2016年)>

ROEは2014年を除くと、概ね15~20%で推移しています。2014年に大きくROEが落ちていますが、これはイグニッション(点火)スイッチの不具合による大規模リコールの対応費用が収益を圧迫したためです。

GM株は配当利回りが4.62%、PERが5倍で、グレアム的な観点で割安なだけではなく、安定的に高ROEが続くバフェット銘柄の要素も備えています。

Next: 拡大を続ける自動車市場、GMは業界一の高ROEを誇っている



営業キャッシュフローの増大が続く

近年のGMは営業キャッシュフローが増大しています。営業キャッシュフローとは本業を行った結果、手元のお金がいくら増えたかを示す財務指標です。

<GM キャッシュ・フロー(2013年~2016年)>

営業キャッシュフローは2015年から2016年にかけて、116億ドルから165億ドルに急拡大しています。投資キャッシュフローは2015年から大幅に増やしています。この投資が将来の利益に結びつくかどうかは現時点では不明ですが、GMの経営陣が強気になっていることは確かです。

自動車市場は拡大し続けている

自動車の生産台数は毎年のように上昇し続けています。調査会社FOURINでは、向こう10年は成長スピードが鈍化しながらも、毎年1~2%程度の市場拡大を予想しています。

<世界の自動車市場と新興国比率長期推移>

GMは長らく世界最大の自動車メーカーでした。現在は世界第3位に転落しています。売上高では、トヨタ自動車(日本)、フォルクス・ワーゲン(ドイツ)、ダイムラー(ドイツ)、GM(米国)、フォード(米国)の順番です。

<自動車メーカーTOP5 売上高の推移(2007年~2016年)>

1位と2位はトヨタ自動車とフォルクス・ワーゲンが争っています。3~5位はダイムラー、GM、フォードが混戦状態になっています。GMは2009年に破産していますが、その後の回復が早く、2016年には売上高でライバルのダイムラーとフォードを追い抜きました。

ROEでライバルに大きく差をつけるGM

自動車メーカーTOP5の中で、GMは最もROEが高い企業です。

<自動車メーカーTOP5のROE(2010年~2016年)>

GMのROEは、売上高世界第1位のトヨタ自動車よりもほとんどの年において高くなっています。2014年にリコールで多額の損失が発生したため波が荒くなっていますが、概ね15%以上をキープしています。

5社の中でもROEが最も安定しているのはダイムラーです。ただし、直近7年の実績ではダイムラーの最高ROEは17%で、GMのROEと比べると、少し見劣りがします。

フォードは一時、債務超過に陥っていた関係で異常な値を示していて、グラフの表示範囲からはみ出ていますが、2014年以降は比較的、安定しています。

バフェット銘柄のセンターピンである「高ROE銘柄」という観点でも、GMは十分に条件を満たしています。そのため、バークシャー・ハサウェイも保有していると思われます。

Next: デイビッド・アインホーンとウォーレン・バフェットの共通点



デイビッド・アインホーンとウォーレン・バフェットの共通点

本来、売りが得意とされてるデイビッド・アインホーンですが、今回の投資については王道のバリュー投資で勝負を賭けています。

GM株は配当利回りが4.62%、PERが5倍という、バーゲンセール価格で放置されているグレアム銘柄です。また、他のライバル会社に比べてROEが高く、バフェット銘柄の要素も持っています。

デイビッド・アインホーンと言えば、「ああ、あのリーマン・ブラザーズの空売りで一発当てた人だ」という印象を持っている人もいるかもしれません。しかし、そうではありません

実は、デイビッド・アインホーンは2003年にウォーレン・バフェットとの昼食会の権利を5万100ドルで落札しています。この昼食会の権利は毎年6月に米国の大手ネットオークション「eBay(イーベイ)」が開催しているチャリティーオークションで売りに出されます。この権利を落札する人は、間違いなくウォーレン・バフェットの熱烈なファンです。2010年、2011年と2年連続で落札したテッド・ウェシュラーは、その翌年の2012年にバークシャー・ハサウェイに入社しています。現在はバークシャーのポートフォリオマネージャーとして、バフェットの右腕として活躍しています。

<バフェットとの昼食権チャリティオークション 歴代落札者(2000年~2016年)>

2003年に落札したアインホーンも他の落札者と同じく、バフェットの投資戦略や思想に深く共感しているはずです。現在、GMはアインホーンとバフェットの著名投資家2人に保有されていますが、これは偶然ではありません。思考が似ているので、結果的に同じ銘柄を選定することになったのです。

現時点ではバフェット銘柄の要素よりもグレアム銘柄の要素が強いかもしれませんが、アインホーンは大きなチャンスだと見ています。この投資の結果がどのような結末を迎えるのか、私はとても興味深く見守っています。

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ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』(2017年5月28日号)より一部抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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