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ドナルド・トランプ米次期大統領は田中角栄の夢をみるか?=山田健彦

アメリカの大統領選挙で、トランプ氏が次期大統領となることになりました。事前の世論調査ではクリントン優勢と伝えられていたので、11月9日の株式、為替市場はかなりの乱高下をしました。

事前の世論調査が外れたのは、英国のEU離脱を巡る国民投票と今回のアメリカの大統領選挙で2回目です。これは今後の経済の流れが大きく変わってくることを予感させます。革命と言ってもいいような事態が起きつつあるような気がします。(『資産1億円への道』山田健彦)

トランプの劇的逆転勝利~米大統領選の結果は何を意味するか?

発端はリーマンショック

大きな流れを見ていくと、2008年9月に「リーマンショック」というものがありました。アメリカの投資銀行であるリーマン・ブラザーズが破綻したことに端を発して、世界的金融危機が発生しました。

この危機を克服するために世界各国は中央銀行が低金利政策や過剰なまでの資金供給を行い、経済を何とか回復させようと躍起になって行動しました。

そして、少なくとも米国経済は回復し、今まさに再度の利上げをできるかも、という状況にまで経済は戻ってきました。

その過程で起きたことは、自由貿易の拡大に伴う経済のグローバル化です。EUへの加盟国増加、TPPを始めとする様々な貿易協定が結ばれグローバル化が推進されました。

経済のグローバル化により中間層が没落

貿易量が拡大するに連れて、各国の経済のパイは全体としては膨らんでいきますが、その裏ではそれぞれの国で相対的に力のない産業が淘汰され、同時に資本の論理によって企業はより税金の安いところ、より賃金の安いところに活動拠点を移していきました。

その結果、国によっては産業や雇用の空洞化が起き、若年層は運良く就職できても低賃金に甘んじなければならない状況が世界的に起きてきたわけです。

このことは中間層の経済的没落や「ジョブレス・リカバリー」という雇用増なき経済回復を招きました。

つまり世界的な産業構造の再編成という大きな波に乗れた企業と乗れなかった企業という勝者と敗者が誰の目にも明らかになり、勝者はますます強くなり、敗者は市場からの退場を余儀なくされ、そこで働く人々も巻き添えを食うという状況になったのです。

サイレント・マジョリティの怒り

この痛めつけられた中間層は別名「サイレント・マジョリティ」とも言われていますが、彼らの静かな怒りの対象は既存のエスタブリッシュメントです。ウォール街の金融機関ワシントンの政治家への怒りです。彼らこそがこの経済のグローバル化の恩恵を最も受け、経済的に最も潤った層だからです。

オバマ大統領は、「チェンジ、チェンジ!」と叫びながら結局何も変革を生まなかった合衆国史上最悪の大統領という位置づけが定着し、対する共和党はオバマの提案には何でも反対というという体たらく。その中で中間層はグローバル化の波の中で経済的に没落していったという構図です。

トランプ氏は、筆者の見るところ、彼らの怒りをうまく捉えてその代弁をしました。

アメリカの田中角栄?

日本のメディアでは報道されていませんが、クリントン氏は今回の選挙に投じた費用は13億ドルと言われ、意外にもトランプ氏はその半分以下と言われています。

さらに、トランプ氏は日本では「億万長者の不動産王」と報道されていますが、意外にも彼は土建業者の側面が強く、事業に数回失敗して破産も経験している苦労人として捉えられています。日本で言うと故田中角栄氏に近いイメージです。

そのあたりも、トランプ氏に好意的な反応を持った人が多かった理由でしょう。

Next: なぜ世論調査は「サイレント・マジョリティの怒り」を読み間違えたのか?



世論調査が間違えた理由

米国のメディアは、このサイレント・マジョリティの怒りをうまく分析できなかったのではないか、と思います。さらに言えば、米国メディアそのものもエスタブリッシュメントの一員なので、サイレント・マジョリティの怒りに鈍感だったともいえます。

殆どのメディアが選挙の終盤に反トランプのキャンペーンを繰り広げても、点で効果がなかった理由もここにあります。サイレント・マジョリティの怒りはメディアにも向けられていたのです。

グローバル化の流れは止まるか?

基本的な構造は英国のEU離脱でも同じです。EUに加盟し、英国は国全体としては潤いましたが、一方で東欧諸国から英国へより良い賃金を求めて移民が急増しました。

とくに08年のリーマン危機後に雇用低迷が深刻になると、低賃金で働く移民が英国人の雇用を奪っているとの不満が蓄積し、域内のヒトの移動の自由を基本理念に掲げるEUへの懐疑論に火を付けました。ここでもやはり中間層が経済的に没落していきました。

さて、トランプ氏の主張を聞いていると、総体的には「アンチ・グローバリズム」のようにみえます。

失われたアメリカの雇用を回復させるため、TPPを始めとする自由貿易には反対。輸入品には高率関税をかける、余りにも世界の情勢に干渉し過ぎた事から来る米国の疲弊に歯止めをかけるために諸外国に米軍駐留費を全額負担するよう求める等々、グローバル化からの決別を訴えているようです。

アンチ・グローバリズムは日本でも始まっている

筆者の見るところ、このアンチ・グローバリズムはすでに日本でも始まっています。

企業活動としてのグローバリズムは、大量生産、大量販売、市場は全世界ですが、日本では少し前から「地産地消」を合言葉に日本全国に販路は広げず、その地方独自のアイデンティティを大事にする、という流れが出てきています。

これからは「アンチ・グローバリズム」が経済を読み解くキーワードとなるような気がします。

Next: 「嫌なことは大統領就任前に片付けておきたい」12~1月の注意点は?



嫌なことは就任前に片付けておきたい

トランプ氏が正式に大統領に就任するのは、来年の1月20日です。それまでは現職のオバマ大統領が政権を形の上では運営します。

トランプ氏としては、不人気になる事柄はオバマ大統領が政権を運営している間に済ませてほしいと思うのが自然です。

まずは12月にあるかも、と言われているFRBによる利上げです。

利上げがあれば、お金は株式市場から債券市場に動き、株価は下がります。米国では様々な年金財団がかなりの額のお金を株式市場で運営していることもあり、基本的に株価は常に緩やかに上昇していくのが好ましいという共通認識があります。

現状、米国の株式市場はやや過熱気味であり、利上げを行い、株価の上昇スピードに少しブレーキをかけるのが好ましいのですが、株価が下落すると人々の非難が殺到するので、できればオバマ大統領の任期中の12月に行ってほしいというのがトランプ氏の本音と言われています。

トランプ氏の大統領就任日の株価が低ければ低いほど後々の株価上昇が見込め、それはトランプ氏の経済政策が成功したからだ、という評価が得られるからです。

もっとも選挙運動中は、ツイッターで「自分が大統領になったら、利上げを企むイエレン議長の再任はない。あんな奴はクビだ」と例により過激な発言もしていますが、これは選挙向けの発言でしょう。

イエレン議長も「クビになる前にこちらから辞めてやる」と発言したとか、しないとかの報道もあります。

いずれにしても、仮に12月の利上げがあるとしても、おそらくはその後の利上げは向こう一年はない可能性が高い、と思われます。

現在は米国の利上げを見込んだ円安傾向が続いていますが、12月の利上げ後はその後の持続した利上げが見込めないことから、材料出尽くしで一転して為替は円高に向かいそうです。

また、12月の利上げが見送られても当然円安傾向は反転します。どちらにしても12月以降は円高傾向になりそうです。

トランプ氏のアンチ・グローバリズム政策も相まって、輸出をメインとする会社には強い向かい風が吹くものと考えたほうが良いでしょう。

Next: 中国に対して厳しい姿勢/国際協調を放棄、G7から米国が離脱も?



貿易面では中国に対しても厳しい姿勢

現在、米国の最大の輸入相手国は中国です。中国に対してトランプ氏は、「中国は為替相場操作の『名人』であり、米国から仕事を盗んでいる」と主張し、同国からの輸入品に対し最大税率45%の輸入関税を懲罰的に実施する考えも示しています。

こうした発言は鉄鋼大手USスチールのような企業の株価を押し上げますが、アップルウォルマート・ストアなど、中国の工場に依存している企業の株価にはマイナスと成り得ます。

外資系の金融機関のレポートでは貿易障壁での中国狙い撃ちは、人民元の下落を誘発、資本流出加速を引き起こし、中国の外貨準備高を圧迫する恐れがあるとしています。中国発の第二の株価下落局面があるかもしれません。

国際協調路線から米国は離脱する?

G7という会議が毎年開かれますが、ここから米国が離脱する可能性もあります。

元々、G7は1970年代の第一次石油危機などの世界に共通する経済問題に対する政策協調について話し合うために開かれたものでした。当時は石油価格の動向が世界経済に影響を与えるという共通認識を米国も持っていましたが、今ではシェール・ガス革命により、米国が実質世界一の産油国になってしまい、米国は石油を輸入する必要が無くなってしまいました。

米国が他国と協調しなければならない理由は驚くほど少なくなっており、G7に参加する必要性もかなり薄らいでいます。

国際協調路線から離脱する、という意味ではもう一つ、エネルギー政策があります。

エネルギー業界に対するトランプ氏の姿勢も明快です。炭鉱作業員を職場復帰させ、再生可能エネルギーへの助成金を撤廃し、気候変動を止めるための世界的な二酸化炭素排出規制の取り組みに米国が参加することをやめるというものです。

米国の五大湖周辺のラストベルト地帯は製造業製炭業が盛んでしたが、グローバル化の影響で企業は製造拠点を海外に移してしまい、経済的に取り残された地域です。この地域は伝統的には民主党の地盤でしたが、オバマ政権時代に効果を上げた失地回復策は無く、しびれを切らした人々は共和党に宗旨替えをしました。

米国の雇用を回復させるとアピールしたトランプ氏に票がながれたのも頷けます。このことも米国の国内回帰、孤立主義を象徴するものです。

Next: インフラ再建政策で建設機械の製造メーカーや建設業者に追い風



インフラ投資を重点的に

トランプ氏は選挙運動中、米国のインフラを再建するため5000億ドル(約52兆8500億円)余りを投じると表明しています。

これにより銅など鉱山資源の需要が押し上げられる、と見られています。建設機械を製造するメーカー建設業者には追い風が吹きそうです。

以上、ここまでまとめてみましたが、新大統領の経済政策はまだまだ未知の部分が多く、折に触れて追加していきます。

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資産1億円への道』(2016年11月10.11日号)より抜粋・再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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