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円安・株高に沸いた「トランプ相場」の第1幕が終わりに近づいている=近藤駿介

ドル円が5か月半ぶりに110円台を回復、日経平均も11カ月ぶりに18,000円台を記録し、短期的な「トランプ・リスク」が払拭されたこともあり、さらなる円安、株高期待も生まれてきている。しかし、大統領選前に高まり過ぎた「トランプ・リスク」の反動によるドル高、株高も転換点を迎えている。(『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』近藤駿介)

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。

突然のドル高・日本株上昇を招いた「トランプ相場」第1章は終幕へ

5か月半ぶり、米ドル円110円台の円安へ

トランプ大統領誕生によって大混乱に陥るという大方の見通しを嘲笑うかのように、トランプ次期大統領の経済政策に対する期待とFRBによる12月利上げの可能性が高まったことで、為替市場では5か月半ぶりに110円台の円安に、日経平均株価も一時今年1月以来の18,000円台回復した。

8日の大統領選まで、政策に不透明感があるという理由で「トランプ候補が勝利した場合には、金融市場は英国がEU離脱を決めた国民投票以来の激震に見舞われる」という見解を示していた市場参加者の多くが、今では新大統領の経済政策に期待を寄せる格好になっている。

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こうした市場の変遷は、トランプ候補勝利を受け「トランプ当選で米国株は上昇の可能性もある(9日付東洋経済オンライン)」と指摘した筆者の予想を上回るものでもある。

ドル円が5か月半ぶりに110円台を回復、日経平均も11カ月ぶりに18,000円台を記録し、短期的な「トランプ・リスク」が払拭されたこともあり、さらなる円安、株高期待も生まれてきている。

しかし、大統領選前に高まり過ぎた「トランプ・リスク」の反動によるドル高、株高も転換点を迎えている。それは、トランプ次期大統領にとっても、イエレンFRB議長にとっても、足元の金融市場の動きは必ずしも歓迎できる状況ではなくなって来ているからだ。

トランプ新大統領の思惑に反し、さらなるドル高へ

これまで「ドル高によって米国の雇用が奪われている」と主張していたトランプ次期大統領は、為替に関してはドル高警戒論者だといえる。

しかし、こうした次期大統領の気持ちを知ってか知らずか、「米国ファースト」を掲げるトランプ次期大統領誕生を市場は歓迎し、その結果ドルは大きく上昇してしまった。大統領選挙当日の11月8日に97.86であった米ドル指数は、先週末18日には93~98という今年のレンジを上抜けて101.41まで上昇し、2003年3月以来の水準まで達してきた。

その結果、「米国の雇用を奪っている」はずの2015年の米国貿易赤字相手国上位5か国、中国、メキシコ、日本、ドイツ、カナダの通貨に対してもドル高は進んだ。

中でも、対メキシコペソ、対円での上昇は顕著で、対メキシコペソでは約11.8%、対円では約7%上昇と、両国通貨に対する上昇率は同期間の米ドル指数の上昇率3.6%を大きく上回っている。

特にメキシコペソは史上最安値を更新してきており、NAFTA(北米自由貿易協定)の見直しにまで言及していたトランプ次期大統領にとって、対メキシコペソでのドルの大幅上昇は看過し難い問題になって来ている可能性は高い。

また、選挙期間中「オバマ氏の任期中に株式市場の勢いを止めたくないからFRBは超低金利を維持している」という主張を繰り返したことで、表立ってFRBの利上げを批判し難い立場にあるトランプ次期大統領の目に、FRBによる利上げ観測によるドル高はいまいましく映っていても不思議ではない。「仮に金利を上げて、ドルが過度に強くなり始めれば、非常に大きな問題をいくつか抱えることになる」とも発言していたのだから。

Next: 12月利上げを95%織り込んでしまった市場。「材料出尽くし」に備えよ



ドル高を牽制したい新政権と、利上げを継続したいFRB

安倍総理との会談で実質外交デビューを果たし、「トランプ氏は信頼できる指導者だと確信した」という言葉を引き出すことに成功したトランプ次期大統領。閣僚人事が固まる過程で、新政権側からドル高を牽制するような発言が飛び出しても不思議ではない。

一方、大統領選挙への影響に対する配慮もあり利上げ先送りしてきたと思わるイエレンFRB議長にとって、次期大統領がトランプ氏に決まった直後に利上げに踏み切るというのは、イエレン議長の更迭まで口にしていたトランプ氏に対するちょっとした意趣返し。

17日に行われた議会証言で、イエレンFRB議長は「引き締めが遅れれば、経済が過熱して急激に利上げしなくてはならなくなる」と、改めて「Behind the curve(政策が後手に回る)」のリスクに言及し、早期の利上げに意欲をみせた。

その背景にあるのは、法定準備預金の13倍にも及ぶ約2兆ドルもの資金が超過準備預金としてFRBに積まれていること。経済活動に使われていない資金が大量にFRBに積まれているのは、有望な投資先が少ないことの裏返しでもある。

こうした状況の中で1兆ドル規模のインフラ投資計画を主張するトランプ次期大統領が誕生することになった。これは世の中に投資機会が増えることを意味し、多額の超過準備預金の一部が市中に流出する可能性を高めるものである。

現在の経済活動に使われていない超過準備預金が市中に流れ出すということは、インフレ圧力が急速に高まることを意味するものである。これを食い止めるためにもFRBにとって利上げは必要になってきたといえる。

今後、FRBの利上げによってドル高圧力が高まれば、トランプ新政権側からそれを打ち消すような発言が出てくることは十分に考えられる。

イエレンFRB議長が議会証言で近い将来の利上げを明言したことで、18日時点で市場は12月13、14日に開催されるFOMCでの利上げを95%織り込んだ(CME Fed Watch ベース)。市場が12月の利上げを95%織り込んでいるということは、12月利上げを材料に市場が動く余地は殆どなくなってきたということでもある。

また、18日時点で市場が織り込む次回の利上げ確率が50%を超えているのは2017年6月のFOMCである。イエレンFRB議長は穏やかな利上げを意識させることを目指していると思われるが、次回の利上げまで半年以上の期間市場が利上げを織り込んでいないということは、12月のFOMCで利上げが実施された後は一旦材料出尽くしになる可能性が高いということでもある。

ドル高を牽制したい新政権と、利上げを継続したいFRB、12月の利上げを95%織り込んでしまった市場。これらの組み合わせが指し示していることは、ドル高とそれを追い風とした日本株上昇という「トランプ相場」の第1章は終わりに近付いているということだ。

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近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2016年11月19日号)より
※記事タイトル、本文見出し、太字はMONEY VOICE編集部による

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