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日本が「中国への技術提供」を今すぐやめるべき3つの理由=三橋貴明

日本は二十一世紀に入って以降、中国への工場建設などを意味する「対中直接投資」と、中国から最終製品を輸入する「対中輸入」の双方を拡大することを続けてきました。つまり、日本は中国に「資本」「技術」「需要」を献上し、中国経済の成長を助け、自国のデフレーション、貧困化を長期化させ、中国の軍事支出拡大を助け、自国の財政力を低下させ、安全保障を弱体化させることを続けてきたのです。(三橋貴明)

記事提供:『三橋貴明の「新」経世済民新聞』2017年1月4日号より
※本記事のタイトル・リード・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです

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対中直接投資&逆輸入は大失敗。日本は国内生産拡大に舵を切れ

日本は中国に「資本」「技術」「需要」を献上している

2月1日に小学館から刊行になる『中国不要論』のテーマは、「日本経済に中国は不要だ!」「いや、必要だ!」といった不毛な議論ではなく、「日本は中国に経済の五要素(資本、技術、労働、資源、需要)を依存してはならない」という、国家の経済安全保障上の提言になります。

ちなみに、本ブログなどで経済の「三」要素について資本、技術、労働であると解説してきましたが、実はあれは「経済の供給能力」を構成する三要素になります。三要素に加え、資源需要という二つが加わらない限り、「経済」は成り立たないのです。

本書で取り上げているのですが、我が国は二十一世紀に入って以降、中国への工場建設などを意味する「対中直接投資」と、中国から最終製品を輸入する「対中輸入」の双方を拡大することを続けてきました。

日本の対中輸入と対中直接投資(単位:百万ドル)
出典:三橋貴明ブログ『新世紀のビッグブラザーへ

何が起きていたのか、お判りでしょう。我が国は中国に工場を「移転」し、本来は日本国内で生産されるべき製品を「逆輸入」することを続けてきたのです。

理由はもちろん、そちらの方が企業の利益が拡大するためです。同時に、デフレで貧困化した国民もまた、安い製品の購入を望みました。

日本は中国に「資本」「技術」「需要」を献上し、中国経済の成長を助け、自国のデフレーション、貧困化を長期化させ、中国の軍事支出拡大を助け、自国の財政力を低下させ、安全保障を弱体化させることを続けてきたのです。

これで「亡国」に至らなければ、そちらの方が不思議ですよ、本当に。

例えば、世界的に日本製品に対する需要が拡大し、日本国内ではもはや工場を建設する土地がない、といった状況で、中国に工場を建設するというならば、まだしも理解できます。中国で生産された日本製品が「日本以外の世界各地」に輸出されれば、我が国の需要や雇用は傷みません。

あるいは、日本製品の国内における生産が限界に達し、外国からの輸入に頼らざるを得ないケースです。外国からの輸入は、日本国内の「満たされない需要」を満たすことになるため、合理性があります。

ところが、現実の日本は「中国に工場を移し、製品を逆輸入する」ことで、国民経済を痛めつけることを継続してきたのでございます。

Next: 問題は万国共通。改善に動き出した海外の事例に習え



トランプ政権は「対外直接投資&逆輸入」を問題視

この種の問題は、先進国共通です。共通ですが、ある国で「対外直接投資&製品逆輸入」が政治問題化し、改善が始まっています。その国とは、驚くことに(驚かないかな)、アメリカです。

米フォード・モーターは3日、メキシコでの工場新設をとりやめ、代わりに米ミシガン州の工場で電気自動車(EV)と自動運転車をつくると発表した。

フォードはメキシコの新工場で小型車をつくり米国に逆輸入する計画だったが、トランプ次期米大統領はこれを「恥知らず」と批判し、大統領就任後は高関税をかけると公言していた。

フォードのマーク・フィールズ最高経営責任者(CEO)がミシガン州のフラットロック工場で記者会見した。現在はフォードの「ムスタング」と高級車「リンカーン」をつくる同工場で、2020年以降に順次EVと自動運転車を追加生産する。フィールズCEOは会見で「我々はグローバルメーカーだが母国はアメリカだ」と述べた。(後略)

引用:米フォード、メキシコ工場建設を中止 トランプ氏の批判に対応か – 日本経済新聞 2017年1月4日付

次期アメリカ大統領であるドナルド・トランプの経済政策に関する評価をするのは、時期尚早もいいところですが、少なくとも「対外直接投資&逆輸入」を問題視する姿勢は、彼の公約に沿っていると思います。

フォードからしてみれば、メキシコに工場を建設し、アメリカに自動車を逆輸入することは、「そちらの方が利益が出る。安い製品を流通させれば、アメリカの消費者も喜ぶではないか」という話なのでしょうが、「国民経済」からしてみれば、「そうではないだろ」という話になるのです。少なくとも、アメリカの生産者がダメージを受けます。

そして、国民経済において「生産者」は「消費者」でもあるのです。

思えば、労働者の賃金を引き上げ、購買力を高めることで大量生産した製品を販売し、企業の売上や国民経済を成長させるという「フォーディズム」の始まりは、当たり前ですがヘンリー・フォードです。

そのフォード社が、事情はどうあれ「対外直接投資&逆輸入」を取りやめた。時代を象徴しているとは思えませんか?

日本もアメリカに倣い、「対外(対中)直接投資&逆輸入」が国民経済に悪影響を与えていることを認識、国内生産を拡大することを経済政策の目標に掲げるべきなのです。

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