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認知症の親に、無理矢理「遺言書」を書かせると一体どうなる?=山田和美

認知症になると遺言書は書けないものですが、家族の説得や補助でこっそり作れるのでは?と思う人がいるかもしれません。しかしその考えは危険です。(『こころをつなぐ、相続のハナシ』山田和美)

プロフィール:山田和美(やまだかずみ)
1986年愛知県稲沢市生まれ。行政書士、なごみ行政書士事務所所長。大学では心理学を学び、在学中に行政書士、ファイナンシャルプランナー、個人情報保護士等の資格を取得。名古屋市内のコンサルファームに入社し、相続手続の綜合コンサルに従事。その後事業承継コンサルタント・経営計画策定サポートの部署を経て、2014年愛知県一宮市にてなごみ行政書士事務所を開業。

本人自筆の遺言でもアウト! 相続争い回避のポイントを押さえよう

遺言書は元気なうちに

セミナーなどで私はよく「認知症になると遺言書が書けない」とお伝えしています。だから、元気なうちに早く作成してください、という趣旨です。

厳密には、まったく不可能ということではなく、一時的に事理弁識能力(平たく言うと「自分が遺言書を作っている」ということをちゃんと理解できる能力)が回復した時に、医師の立ち合い等をもとに作成することもできなくはないです。ですが、現実的に考えれば、やはりハードルはかなり高いでしょう。

しかし、ここで疑問に思う人がいるかも知れません。「公証人や証人の前で作る公正証書遺言ならともかく、自分ひとりで作成できる自筆証書遺言であれば、認知症であってもこっそり作れてしまうのでは?」と。

また、場合によっては、「家族が添え手をして、または本人の字に似せて、自分に都合の良い内容で作れてしまうのではないか?」と。

認知症でも、家族がこっそり作れるのでは?

では、本当にそうでしょうか。また、このように遺言書を作る(作らせる)と、どうなるのでしょうか。

まず、結論を言うと、誰も文句を言う人はいないわけですから、確かに「作成すること」自体はできてしまうでしょう。

しかし、このメールマガジンでも何度もお伝えしているように、遺言書は「作ること」がゴールではありませんよね。その遺言書を使って、不動産の名義変更や預金の解約などの手続きが問題なくできて初めて、遺言書を作成した意味を成すわけです。

Next: 親が認知症ならどうする? 対応を間違えれば相続権を失うことも



相続権を失い、罪に問われる可能性も

確かに、遺言書を作ること自体はできてしまうかもしれませんが、判断能力があやふやな時期に作った遺言書は、後の争いのもとになります。

例えば相続人が複数いて、そのうちの1人に有利な遺言書が残っていた場合、よほど何らかの事情がない限り、他の相続人としては、やはり良い気はしないでしょう。

それに加えて、遺言書を作成した日付から見て「そのときすでに、父は認知症っぽい症状が出ていたはず」と思えば、遺言書が無効ではないかという訴訟に発展する可能性は十分にあります(日付から偽造するなど、言語道断です)。

その結果、遺言書を無理に書かせたとか、偽造・変造したという事実が判明すれば、財産をすべて受け取るどころか、相続人の権利をはく奪され、財産を一銭も受け取れなくなる可能性もあります。

さらに、刑法上の私文書偽造の罪に問われる可能性もあるわけです。

無理に自筆で書かせるのは危険

また、実際には偽造したわけではなく、遺言者本人が「全部あなたにあげたい」と言っていて、自分で頑張って書いたような場合でも、それを証明することは困難で、せっかく作っても手続きに使えない可能性も十分にあるわけです。

そのため、遺言者本人の判断能力が怪しい場合には、無理に自筆証書で遺言書を書かせることは、避けてください

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本人が書く気がなかったり、また遺言書が何なのかも理解できていないような状況で無理に書かせたり偽造することは、もちろん絶対にしてはいけません。

そして、本人が「遺言書を残したい」と言っているにもかかわらず、判断能力が怪しい場合には、無理に自筆証書で作ってしまうのではなく「公正証書」での作成を検討しましょう。

公正証書であれば100%問題がない、ということではありませんが、公証人のほかに証人も2名立ち合いますから、作成した時点の証拠が残らない自筆証書に比べたら、「作成したのに、後から判断能力がなかったとされて、無効になる」というリスクは、格段に低くなります。

遺言書を作る目的は、作ること自体ではなく、使うことのはずです。このことを忘れず、専門家も活用しながら、最良の選択肢をきちんと検討されることをおすすめします。

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こころをつなぐ、相続のハナシ』(2017年11月8日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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