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大人の事情と個人の思惑。ビットコイン相場で最後にババを掴むのは誰だ?=江守哲

ビットコインの上昇が止まりません。機関投資家や各国中銀が「駆け引き」を繰り広げる中、国内個人投資家の中にはボーナスを突っ込む人も現れはじめました。(江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて

本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2017年12月18日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

ビットコイン取引の4割が日本人。この熱狂に死角はないのか?

「株式よりも仮想通貨」の時代?

仮想通貨ビットコインの上昇が止まりません。先週末も高値を更新しています。

ビットコインの時価総額は12月8日には2550億ドルに達し、S&P500の構成銘柄のほとんどを上回る規模に達しました。これにより、仮想通貨と株式の比較は、新たな局面に入ったとの指摘が聞かれ始めています。

これだけの資金が流入し、時価総額が増加しているのですから、立派な投資対象になっているといってよいでしょう。時価総額では比較するのは意味がないとの声もありますが、何かしらの指標で比較するしかありません。

一方で、ビットコインの市場規模は、過去のバブルと比較すれば、まだまだという見方もあります。投資対象となると、どうしても株式と比較したくなりますが、むしろ債券との比較のほうがわかりやすいとする向きもあります。

ちなみに、JPモルガンによると、世界でマイナス金利にある国債は10.1兆ドルと、ビットコインの40倍近い規模にあるといいます。この水準でも、16年7月時点のピークである12.7兆ドルから減少しているといいます。

しかし、国債の利回りがマイナス金利になっているのは、中央銀行が金融政策を理由に買いつけていることが背景にあります。実際、ECBは月額600億ユーロの資産買入を行い、日銀も10年債利回りをゼロ付近で抑える政策を採用しています。ECBは来年から買い入れ額を減額します。また日銀も年80兆円としている国債買い入れ額を達成できない状況になっています。

このように、市場で買える国債がなくなりつつあり、市場規模が拡大しない限り、日欧の中銀の政策が維持できない状況にさえなっています。それだけ、強烈な国債買い入れ策を講じてきたといえます。

「ビットコインETF」に高まる期待

さて、このような状況の中、シカゴ・オプション取引所(CBOE)は10日にビットコインの先物取引を開始しました。

ビットコインの先物取引が10日から始まったことを受けて、資産運用会社はビットコイン先物の上場投資信託(ETF)設立の申請を活発化させているといいます。

米証券取引委員会(SEC)はこれまで、あらゆるビットコインETFの設立を却下するか、承認手続きを保留してきました。ビットコインがどこの馬の骨ともわからない状況の中、簡単にETFの上場など認められないというわけです。

しかし、先物取引は順調な滑り出しを見せており、このまま順調に取引が拡大するようであれば、今後方針が変わる可能性もあるでしょう。

株式のように取引されるビットコインのETFが承認されれば、投資家はビットコインの取引がより簡単にできるようになります。

Next: 機関投資家や各国中銀がビットコインをめぐり「大人の駆け引き」



ビットコインはファンダメンタルズが欠如?

しかし、その一方でビットコイン価格の急伸には懸念の声も聞かれます。過去3カ月で270%、過去2カ月で230%上昇したことを考慮すれば、そのような声が上がるのも当然です。

CBOEグローバル・マーケッツは、仮想通貨ビットコインの先物取引について、初日の出来高は4127枚だったと発表しました。20社が活発に取引を行ったといいます。

また、CMEグループも17日にビットコイン先物取引を開始しました。

ビットコイン先物は、規制対象となっていない米国外の仮想通貨取引所ではすでに取引されていますが、主要な米国の取引所で取引が開始されたことで、合法な仮想通貨であるとの認識が高まり、利用が拡大する可能性もあるでしょう。

しかし、ファンドマネジャーや機関投資家の間では、ビットコインはあまりに不安定であり、資産としての価値を持つにはファンダメンタルズが欠如しているとの見方が大勢です。

大手資産運用会社のロベコの最高投資責任者(CIO)のルカス・ダールダー氏は、「ボラティリティが高いことを踏まえると、ビットコインがマルチ・アセット・ポートフォリオに含まれる可能性はない」としています。しかし、これはあくまで「現時点では」という枕詞がつくでしょう。

将来は誰にもわかりません。もしかすると、主要な資産クラスになっているかもしれません。固定観念は極めて危険でしょう。

警戒を強める中銀関係者たち

一方で、ビットコイン価格の上昇率は年初からこれまでに1500%を超えています。13年初めにビットコインに1000ドル投資していた場合、現在の価値は約120万ドルになる計算になります。

このような上昇率を見ると、批判的な声が上がるのは当然です。特に中央銀行の関係者にそのような傾向が強く見られます。決済通貨としての立ち位置を奪われるのを懸念しているのでしょう。

ニュージーランド準備銀行(中央銀行)のスペンサー総裁代行は、「バブルが形成されているようにみえる」としています。

一方で、ECBのクーレ専任理事は、「仮想通貨ビットコインに投資する人々は資金をリスクにさらしている可能性があるが、より広範なマクロ経済上のリスクはない」との見方を示しています。クーレ専任理事は、「銀行のビットコインに対するエクスポージャーは低く、リスクは投機ファンドや投機目的でビットコインを買った個人に限定されている」と指摘しています。比較的穏当な立場であるといえます。

ECB理事会メンバーのノボトニー・オーストリア中央銀行総裁は、仮想通貨ビットコインについて、「資金洗浄に利用されるリスクがあることなどから、EUは規制対象とすることを検討する必要がある」との考えを示しています。

これらの背景には、バブル発生の懸念が高まる中、ビットコイン市場が急落した場合、中央銀行が規制対象としていなかったことについて責任を問われるとの懸念が背景にあるといえそうです。

ノボトニー総裁は記者会見で「規模を踏まえると、規制が必要かどうか、また必要な場合はどのような形の規制が必要になるのか、討議する必要性は当然増している」とし、「特に、資金洗浄をめぐる規制がどの程度適用されるべきか討議する必要がある」としています。

さらに「ビットコインの規制問題はECBではなく、むしろEUの懸案となる」としながらも、「小規模な金融機関でさえもが資金洗浄については厳格な規制の対象となっている中で、より規模が大きいビットコインが規制対象とならないことは理にかなわない」としています。

ただし、「伝統的な通貨と比べて仮想通貨の市場はまだ比較的小さいため、現在の金融システムに対する脅威となる問題ではない」との考えも示しています。

中銀としては、自分の庭を荒らしてほしくないという気持ちが強いのでしょう。しかし、民間ベースの仮想通貨市場はどんどん大きくなっていき、政府のような大きな組織がこの早い動きについていけない状況が続きそうです。

Next: 全取引の4割を占める日本の個人投資家は乱高下を生き残れるのか?



日本人がビットコイン取引の中心に

それ以上に重要なのは、やはり価格の乱高下と、それによる市場参加者の損益への影響でしょう。

12日付の日本経済新聞の朝刊では、とうとうビットコインの記事が一面に掲載されました。こうなると、いったん市場は沈静化するというのが過去の通例ですが(笑)、今回はどうなるでしょうか。記事を抜粋して、状況を確認しましょう。

10~11月は世界のビットコイン取引のうち、4割を日本円建てが占めたといいます。これはドル建てを超えて、世界最大のシェアといいます。いかに日本人が「投機」が好きかを物語る事実でしょう。

世界の主要仮想取引所のビットコイン売買高は、16年は中国元建てが世界の9割超を占めていました。しかし、中国当局は9月に取引所を実質的に強制閉鎖し、足元では中国元のシェアはほぼゼロまで低下しているといいます。

これに代わって主役に躍り出たのが、日本というわけです。10月のシェアは円建てが42%と、ドル建ての36%を抜いて世界1位になりました。11月も日本は41%と首位を維持しており、円建ての売買が世界の5割を超える日もあるといいます。

このように、売買が活発になった背景には、4月の改正資金決済法の施行があるといいます。この法律で取引所の監査や顧客資産の分別管理が義務づけられたことから、個人が参加しやすくなったと考えられます。

このような経緯で仮想通貨が決済手段として法的に認められ、値上がりを狙う個人マネーが流入しはじめたというわけです。

目立ってきた投機的な動き

さらに、価格が高騰する中で、借り入れで取引金額を膨らませる投機的な動きも目立つといいます。このような取引が全体の9割を占めているもようです。

中には借入金を活用して証拠金を上回る取引ができるレバレッジ取引を使う個人も多いといいます。一部の業者では、証拠金の25倍の取引ができるところもあるようです。

FX取引では金融庁が証拠金倍率の上限を25倍から10倍程度に下げる規制強化を検討中です。一方でビットコインの価格変動は為替よりも激しいものの、現時点で規制はありません

12月の1日の変動率(終値ベース)は平均で7%となっており、ドル円の0.3%を大幅に超えています。したがって、レバレッジをかけすぎると、大幅な損失が発生する可能性もあります。

また、取引の拡大スピードに対して、投資家保護の仕組みは追いついていないようです。市場で提示されている価格を監視する当局もおらず、個人投資家などの市場参加者が不利な価格で取引させられている可能性もあります。

また、相場操縦などへの規制もありません。したがって、先物市場を利用して現物市場を動かすようなヘッジファンドが出てきてもおかしくありません。そうなると、個人投資家では太刀打ちできなくなります。

やはり、早期に透明な価格形成を監督する制度が必要であるといえそうです。

Next: 仮想通貨にボーナスを突っ込みはじめたサラリーマン。今後の展開は?



ボーナスを突っ込みはじめたサラリーマン

いずれにしても、ここまで盛り上がっている以上、今後もこの流れは続くでしょう。いったんはどこかで沈静化するのでしょうが、そのときの価格水準やタイミングはまったくわかりません。

個人投資家の中には、ボーナスも突っ込んでレバレッジをかけて取引しているひともいるようです。このような動きになってくると――

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本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2017年12月18日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した日米株式市場に対する強気の分析や、ユーロ、金、原油各市場の詳細な分析もすぐ読めます。

【関連】仮想通貨バブルへの嫉妬と憧憬。ビットコインを世界はこう見ている=江守哲

2017年12月18日号の目次

・新刊のお知らせ
・「MAGMAG AWARDS 2017」受賞のお知らせ
・マーケット・ヴューポイント~「やはり米国株は強い!」
・株式市場~米国株は3指数そろって過去最高値更新、日本株は上値が重い
・為替市場~ドル円は下落リスクに注意、ユーロは底堅い
・コモディティ市場~金は反発、原油は横ばい
・今週の「ポジショントーク」~米国株と金は手放さない
・ヘッジファンド投資戦略~「ビットコインはどこまで行くのか?」-投資戦略構築のポイント
・ベースボール・パーク~「日曜日は久しぶりに野球」
・セミナー・メディア出演のお知らせ

【関連】暴騰するビットコインの未来をゴールドマンと「1%の富裕層」はどう見ているか?

【関連】ビットコインは一転暴落の可能性も?最新未来予測/仮想通貨とサウジ政変=高島康司

【関連】ビットコインFXという死亡遊戯。レバ25倍の本当の意味を知っているか?=今市太郎

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株式・為替・コモディティなどの独自の市場分析を踏まえ、常識・定説とは異なる投資戦略の考え方を読者と共有したいと思います。グローバル投資家やヘッジファンドの投資戦略の構築プロセスなどについてもお話します。さらに商社出身でコモディティの現物取引にも従事していた経験や、幅広い人脈から、面白いネタや裏話もご披露します。またマーケット関連だけでなく、野球を中心にスポーツネタやマーケットと野球・スポーツの共通性などについても触れてみたいと思います。

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