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日銀が「長期金利」を抑制することを、市場は許すのだろうか?=久保田博幸

日銀は2日、長期金利の上昇を抑えるため、指定の利回りで国債を無制限に買い入れる「指し値オペ」を約7ヶ月ぶりに実施した。その効果も疑問だが、抑制する意味はあるのだろうか?(『牛さん熊さんの本日の債券』久保田博幸)

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止まらない金利上昇の波。日銀「指し値オペ」に意味はあるのか

大きく売られた米国債

2月1日の米国市場では、FOMCの声明を受けて利上げペースが速まるとの見方が強まったことに加え、国債発行額が増加するとの観測も手伝って、米債は大きく売られた。米10年債利回りは2.79%と前日の2.70%から大きく上昇し、2014年4月4日以来の水準をつけた。また、30年債利回りは昨年5月以来の3%台回復となった。

米財務省が発表した四半期ペースの国債発行計画によると、2~4月に入札による米国債の発行額を計420億ドル増加させる。これはFRBの資産買い入れプログラム縮小に伴っての国債の入札規模拡大ともなる。

この際に、据え置くとみられていた10年債も月10億ドルずつの増額となることで、これも米債の売り要因となっていたようである。

米10年債利回り「3%」が通過点となる可能性も

米10年債利回りのチャートからは3%に向けて順調に上昇しつつあるようにも見える。まだ米10年債利回りが3%に上昇するとの見方は少ないかもしれないが、むしろ通過点となる可能性も出てきた。

米国国債10年 日足(SBI証券提供)

この米10年債利回りつまり米長期金利の上昇の背景にあるのが、世界的な景気拡大にともなって、米国経済も拡大傾向を示していることである。それも背景に、FRBが進める正常化への動きも今後加速されるとの見方も出てきている。

FRBのイエレン議長は3日に退任した。そのあとはパウエル理事が引き継ぐ。実務派とされ、エコノミストではないパウエル理事は、実体経済に沿った政策を行うとみられているだけに、これも利上げ加速観測の背景にある。

日銀が許さない「長期金利の上昇」

この米債安もあって2月2日の日銀の対応が注目された。米債の下落などを受けて、日本の10年債利回りが0.1%に接近していたためである。日銀は10時10分に予定通り国債買入をオファーしたが、この際に5年超10年以下4500億円に増額した。前回29日は4100億円であり、400億円の増額となる。

日本国債10年 日足(SBI証券提供)

それとともに固定利回り方式による国債買入もオファーした。対象は残存期間5年超10年以下で固定利回較差は0.02%となり、この結果、10年利付国債349回の買入利回りは0.11%となる。

これは買入金額に制限を設けない買入、つまり指し値オペとなる。0.11%というのは昨年2月に実施された水準でもある。

2日の10年債利回りの上昇は米債安にも関わらず0.095%までとなり、この日銀の指し値オペ等の可能性もあったことで、0.1%には買いが控えていた。つまり0.11%どころか、0.1%もつけておらず、日銀は空砲というか威嚇射撃を行ったともいえる。

0.110%を上回っていなければ、業者は指し値オペに応ずる必要はない。ただし、日銀としてはここからの長期金利の上昇は容認しないとの姿勢とみられる。

Next: これで長期金利上昇を抑制できるのか? 疑問が残る日銀政策



薄れつつある日銀「長期金利抑制」の意義

しかし、今回はこれで長期金利の上昇が抑制できるかは疑問である。米国に限らず欧州の国債利回りも上昇している。欧米の物価もいまのところ抑制されているとはいうものの、原油価格は上昇基調となっており、これが物価に反映されてくることも予想される。

日本の景気についても10~12月期のGDPが約30年ぶりとなる8期連続のプラス成長予想となるなど、日銀が無理矢理長期金利を押さえ込む必然性が薄れつつある

日銀としては2%の物価目標を掲げ、紆余曲折しながら長短金利操作付き量的・質的緩和政策という政策にたどり着いてしまった手前、長期金利の目標水準の引き上げはなかなか容認できない面もあろう。

しかし、それを果たして市場が許すのか。そもそも金利という我々の収入を制限してまでそれを行う意味が果たしてあるのか

今後、市場との攻防戦が繰り広げられる可能性もありうる。

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image by:slyellow / Shutterstock.com

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牛さん熊さんの本日の債券』2018年2月2日号より
※記事タイトル・リード文・本文見出しはMONEY VOICE編集部による

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