「開かずの金庫」を開ける番組がありますが、何が出てきたら大儲けできるのでしょうか? 明治初期の「1円」をどう保存すれば最大価値になったのかで考えます。(『一緒に歩もう!小富豪への道』田中徹郎)
(株)銀座なみきFP事務所代表、ファイナンシャルプランナー、認定テクニカルアナリスト。1961年神戸生まれ。神戸大学経営学部卒業後、三洋電機入社。本社財務部勤務を経て、1990年ソニー入社。主にマーケティング畑を歩む。2004年に同社退社後、ソニー生命を経て独立。
金(ゴールド)を買っても預金しても、超長期では資産にならない
開かずの金庫に期待するものは?
僕は昔から開かずの金庫を開けるテレビ番組が好きで、今でもよく観ています。
大概は貸金の証文や株券、古いお札などしか出てこず、がっかりしてしまいますが、それでもたまに小判や金貨が出てきたら番組は盛り上がります。
よく考えてみると不思議ですね。私たち見る側が期待するのは金貨や小判で、決して株券やお札ではありません。なぜなのでしょうか…?
きっと開かずの金庫に入っている株券やお札などはたいていの場合価値が無いことを、私たちは知っているからではないでしょうか。
お金の価値は大きく変動してきた
過去を振り返りますと、例えば戦後74年だけをみても、いろんなことが起きました。
敗戦によって円の価値は大きく下がりましたし、新円への切り替えと預金封鎖、国債のデフォルトなど、あってはならないことが連続で起きました。
1954年以降の高度成長期には収入は増えましたが、同時にインフレも進みました。
そしてバブルの生成と崩壊、都市銀行や証券会社、生命保険会社の相次ぐ破綻と、アメリカ発の金融ショック。
このように戦後74年を少し振り返るだけで、「開かずの金庫」は金融激動の時代を乗り越えてきたことがわかります。
金庫から出てきて欲しいのは「現物資産」
そして今、私たちが開かずの金庫に期待するのものは、株券やお札などのペーパーアセットではなく、コインや金の塊、宝石など…つまりは現物資産です。
上記の事実は、私たちが信頼できるのは現物資産だけだということを、如実に物語っているのではないでしょうか。
Next: 1円玉の価値とは? 激変してきた明治初期からの貨幣事情
激変してきた明治初期からの貨幣事情
なんでも今年は明治150年だそうで、それにちなんで明治維新を振り返る機会が増えた気がします。
そこで、明治初年当時の貨幣事情について、少し考えてみたいと思います。
明治に入って新政府は通貨体系を一新しました、それまで使っていた小判や銭などを廃し、新しい世界標準のまん丸い通貨を導入したわけです。
江戸幕府が外国と結んだ不平等条約の改正を訴えるため、あるいは欧米との貿易で不利益を被らないためにも、新政府は世界に通用する通貨体系を導入する必要があったのでしょう。
新通貨制度の制定に伴ってコインも一新されました。
江戸時代に金、銀、銅が混在していたのを改め、高額コインは金貨、中額コインは銀貨、庶民が使う低額なコインは銅貨というように、コインはその額面によって材質の使い分けが行われたわけです。
1円銀貨(円銀)の当時の価値とは?
金・銀・銅の3種のコインの中で、今回お話したいのは、円銀(えんぎん)と呼ばれる1円銀貨についてです、
1円銀貨が最初に作られたのは、明治維新から少し遅れ、明治3年になってからのことです、コインのデザインや鋳造機の購入、制度の整備や告知など、準備期間が必要だった
からでしょう。
当時(したがって明治3年)の1円玉の諸元について紹介させていただきますと、例えば、
・重量:約27グラム
・直径:約38.5ミリ
・材質:銀90%、銅10%
・鋳造枚数:約368万枚
などとなっております。
当時の1円玉はずいぶんと立派です。感覚としては現在の1オンス金貨のサイズで、今の1円玉に比べるとマグロと小魚ほどの違いがあります。
新しい通貨法によって、江戸時代の1両が1円になると同時に、その1円=1ドルでスタートしていますが、当時の1円は今の価値に直すと2万円ほどの価値を持っていたようです。
あれから150年、1円銀貨の現在価値は?
あれから150年。当時、皆さんのご先祖様が手に入れた1円銀貨をタンスにしまい、その1円銀貨を現代の皆さんが見つけたとすればどうでしょう。
その1円玉は、いったいどれほどの価値があると思われますか?
もちろん状態にもよりますが、仮に未使用状態のまま明治3年発行の円銀が見つかったとしたら、その価値は10万円ほどになるでしょう。
オークションに出品し、オークション会社の手数料10%が差し引かれたとしても、9万円ほどは皆さんの手元に残る勘定です。
上記のように明治初年当時の1円は現在の2万円ほどの価値ですから、ご先祖様は正しい選択をしたといえるでしょう。
Next: ご先祖様が金など他の資産に変えてタンスにしまい込んでいたら?
1円銀貨を金(ゴールド)に変えて保存していたら?
ではご先祖様が、他の資産に交換してタンスにしまい込んだとすればどうでしょう。
例えば金です。田中貴金属のサイトを見れば、明治初期の金の価格は1グラムあたり67銭とあります、したがって当時の1円で買える金の重量は約1.49グラムでした。
これに対して現在の金の買取値はグラムあたり税込み4,900円ほどです。したがって、タンスから見つかった金の売値は7,300円ほどにしかならない勘定です。
意外と少ないですね。紙くずになるよりずっとましですが、これではインフレや社会の変動に勝ったとは言えません。
おそらく金はこの150年の間に、地中からずいぶん多く掘り出され、価値が薄まってしまったからではないでしょうか。
1円銀貨を銀行に預けていたら?
では、ご先祖様が銀行に1円を預け、その預金通帳をタンスにしまっておけばどうなったでしょう。
仮に、当時150年満期の定期預金があったとすればどうでしょう。「年利6%」で回ったとしても、当時の1円は満期時点で6,250円にしかなりません(1円×1.06の150乗≒6,250円)
年利6%といえば大変な高利回りですが、それでもインフレや戦争などによる通貨価値の激変に勝てなかったことがわかります。
1円銀貨を株に変えていたら?
では、ご先祖様がある会社の株を買い、その株券をタンスにしまっていたらどうでしょう。
運よくその会社が150年経った今でも生き残っていれば、大変な利益を得ることができるでしょう。しかし、150年も生き残った会社はそう多くはないでしょう。
しかも日本に株式市場ができたのは1878年だそうで、明治初年あたりには市場で株を買うことはできませんでした。相対で株を買うことはできたかもしれませんが、よほどの資産家でなければ株式の購入はできなかったのではないでしょうか。
債券投資も同様で、発行体の破綻や制度そのものの連続性が維持できない場合も多く、ペーパーアセットの世界で超長期運用することの難しさがよくわかります。
Next: 1円銀貨ではなく、他の金貨や銅貨を持っていたらどうなった?
金貨や銅貨を持っていたらどうなった?
今回のお話は明治150年にちなんだ超長期の設定ですので、少し現実感が乏しいかもしれません。
それでも冒頭の「開かずの金庫」の話と合わせて、現物資産と超長期投資の関係を考えていただく機会として、今回のお話をさせていただきました。
ご参考までに、ご先祖様が1円銀貨以外のコインを買った場合の150年後の成果は、以下の通りです。
・1円金貨を1枚買った場合 → 45,000円ほど
・2銭銅貨を50枚買った場合 → 230万円ほど
・1銭銅貨を100枚買った場合 → 270万円ほど
(※いずれも未使用品の相場、1銭銅貨と2銭銅貨の初年号は明治6年、したがって本例ではいずれも明治6年銘コインを購入したと仮定します。)
『一緒に歩もう!小富豪への道』(2018年4月9日, 17日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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