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トルコ危機より深刻な「テスラ経営危機」、このままでは米ハイテクブームが終わる=藤井まり子

トルコ危機に話題をさらわれた形となった「テスラ経営危機」もかなり深刻です。米ハイテクブームの終焉を招く恐れがあり、裏ではトランプとFRBの攻防が見られます。(『資産形成・マクロ金融deあそぼ♪ − 貞子ちゃんの連れ連れ日記』藤井まり子)

※本記事は有料メルマガ『資産形成・マクロ金融deあそぼ♪ − 貞子ちゃんの連れ連れ日記』2018年8月14日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。当月配信済みのバックナンバーもすぐ読めます。

米利上げ路線に変化の兆し? トランプがトルコ暴落を狙ったワケ

トランプのツイッターが駄目押しした「トルコ・ショック」

今回のトルコ・ショックは、「トルコ通貨危機」にまで発展しても不思議ではありません。

すでにトルコ・ショックは、巡り巡って、イタリア国債の利回りを急騰させています。「トルコ・ショック第二ステージ」と呼ぶべきものが待ち構えているでしょう。その中には、もちろん、後述するように「アメリカのテスラの経営不安」も含まれています。

そして、エルドアン大統領は、アルゼンチンのようにはIMFに救済を求めないでしょう。

かつてのロシアが、1998年8月のロシア通貨危機の時に、アメリカの発言権の強いIMFに救済を求めなかったように、トルコもIMFには救済を求めないと考えます。

というか、アメリカの発言権の強いIMFが20年前のロシアを見捨てたように、2018年のトルコを見捨てるのではないでしょうか。

「1998年8月のロシア通貨危機」を彷彿とさせる

振り返ると、1998年の8月に起きた「ロシア通貨危機」が思い浮かびます。

このロシア通貨危機は、アメリカの著名なヘッジファンド「LTCM(ロングタームキャピタルマネージメント)」を破たんへと追いやりました

「LTCM」は、金融工学専門のノーベル経済学者たちが数人集まって設立したヘッジファンドでした。当時は、「先端の金融工学を駆使する天才たちのヘッジファンド」ということで、多くのアメリカ富裕層から熱狂的に支持され、巨額の資金を集めていました。

その天才たちが運営する「LTMC」は、想定外の「ロシア通貨危機」が巻き起きたことで、あっけなく破たんしていきます。

1998年当時のFRB議長は、アラン・グリーンスパンでした。当時のグリーンスパン議長は「LTCM」の破たんを救済します。さらに、金融政策を緩和へと大転換、危機直前のアメリカ経済を救いました。

政策金利を9月から12月にかけて「わずか4か月で0.75%(0.25%ずつ3回)引き下げ」ていったのです。

そして、このグリーンスパンFRBによる「低金利政策への大転換」は、すでに始まっていたITブームを「壊滅的なITバブル」へと暴走させていきます

トルコ経済は元から破綻寸前だった

トランプのツイッター砲「トルコに対する関税を2倍に引き上げる」は、確信犯なのではないでしょうか。

トルコリラの下落は今に始まったことではありませんでした。ここ3年間以上前から、どんどん下落していました。トルコの独裁者・エルドアン大統領の経済政策がむちゃくちゃだったのです。

トルコでは、リラ安が原因で悪性のインフレが起きているのに、エルドアン大統領は中央銀行に圧力をかけて、中銀に長らく利上げをさせなかったのです。

トランプ大統領のツイッター砲が爆裂しないでも、いつかはトルコ経済は「危機のようなもの」に直面していたかもしれません。

しかしながら、トランプの「8月のツイッター砲」が最後のダメ押しとなり、トルコリラはさらに暴落しました(編注:原稿執筆時点2018年8月14日。現在はトルコ銀行監督当局が事実上の金融引き締めに乗り出したことで、投資家の買い戻しが始まりました。また、中東カタールがトルコへの投資を表明したとの報道から、市場はやや落ち着きを取り戻しています)。

結果としてトルコ・ショックは、「テスラの経営危機」よりもマーケットの注目を一時的にせよ集めました。

Next: ハイテクブーム終焉への序章か。「テスラの経営危機」はかなり深刻



トルコ危機よりも深刻な「テスラの経営難」

さて、テスラのイーロン・マスク氏が先日「(1株当たり)420ドルでテスラを非公開にできないか考えている。資金調達の目途はついている」と唐突にツイートしたことは、「トルコ・ショック」が走るまでは大いにマーケットの衆目を集めていました。

この「資金調達の目途はついている」というのは、マスク氏の「はったり」です。目途なんかまったくついていません。

目下のところ、テスラは、サウジアラビアの王様をはじめ、様々な投資銀行など、MBOの資金提供者「探し」に奔走しているところです。

MBOには総額700億ドルもの膨大な資金が必要なようです。ちなみにソフトバンクの孫氏はテスラには資金提供しないようです。

イーロン・マスク氏は確かに稀に見る天才です。マスク氏には熱烈な支持者があたかも信者のごとく集まってきていました。しかし、若い頃のスティーブ・ジョブズのように、マスク氏もまた夢想家特有の癇癪持ちです。

テスラモーターズにはかねてより(およそ1年前あたりかな?)資金ショートのうわさが絶えませんでした。

そういった「悪い噂」を、マスク氏は「スペースX(火星移住計画)」などの大風呂敷でなんとか誤魔化していました。信じられないことですが、この「スペースX」の大風呂敷で、支持者たちはますますマスク氏を熱烈に支持していきます。

歴史上で稀に見る天才が、LTCMの天才たちと同様に、稀代のトリックスターへと変化していった瞬間でした…。

ハイテクブーム終焉への序章か

テスラの経営がすでに悪化していたからこそ、この夏、「空売り筋」はテスラ株を大量に空売りしていたのです。

が、その「空売り筋」に癇癪を起したマスク氏は、「株式の非公開化」という「一か八かの(ほとんど不可能な)賭け」に出てしまったのです。

近日中にも、マスク氏と投資銀行団との間で、「テスラの非公開化」のための膨大な資金が調達可能かどうか、「初めての話し合い」が持たれるようです。

(万が一、そして、その可能性は高いのですが)今週中にも、テスラが銀行団との合意に失敗して「非公開化」が夢物語に終われば、テスラの経営難が露呈し、破綻の危機に直面することになります。

テスラの経営難が露呈すれば、テスラ株は暴落、マーケットは「第二・第三のテスラ探し」を始めることでしょう。アメリカのハイイールド債市場も無事では済まないでしょう。

テスラ経営難の露呈で、イケイケでやってきたアメリカのハイテクブームも、とうとう陰り始めるかもしれません。

Next: ハイテクブームの危機で、パウエルFRBは金融緩和へ大転換?



パウエルFRBの采配に注目が集まる

「アメリカのハイテクブーム」が危機に直面したならば、今後はパウエルFRB議長の采配が注目されることになるでしょう。

今のパウエルFRB議長は、かつての1998年のグリーンスパンFRB議長と同様に、トランプ政権から「金融政策への大転換」へと政策を切り替えるよう「強いプレッシャー」を受けています。

トランプ大統領は大変ずる賢い人物ですから、パウエルFRBが金融緩和政策へと大転換せざるを得ないように、「ツイッター砲」でトルコを追い詰めて、パウエルFRB議長をも追い詰めているのだと思います。

米国経済のリセッション入りなど認めない

いや、もしかしたらひょっとすると、トランプ大統領とパウエルFRB議長はもうすでに「示し合わせている」かもしれません。

「中国との経済覇権をめぐる戦い」にアメリカが勝利するまでは、また「中国製造2025」の野心を中国が捨てるまでは、トランプ政権にしろ、そのまた上のアメリカ上層部にしろ、「アメリカ経済のリセッション入り」は何が何でも回避する必要があります。

アメリカ株式ブームは、中国経済がポシャるまでは、ポシャるわけにはいかないのです。

金融緩和への大転換には「口実」が必要だった

そのためには、パウエルFRBには「イエレン前FRB議長から踏襲した金融引き締め路線」を大転換させる必要があります。

でも、「一私企業であるテスラ救済のためだけに、さらにはアメリカハイテクブームの崩壊を防止するためだけに、FRBが『金融緩和策(=低金利政策)へと大転換』」するというのでは、「FRBの金融政策の正当性」はなかなか証明しにくいわけです。

トランプにとってもパウエルにとっても、テスラ救済のための金融緩和への大転換を「正当化」するのために必要だったのは、「新興国の通貨危機のようなもの」だったのではないでしょうか?

けれども、なかなか新興国で通貨危機は起きなかった。2018年の新興国群は、1990年代に比べるとはるかに実力をつけてきています、新興国通貨危機がなかなか起きなかった…。

こらえきれなくなったトランプ大統領は、最も経常赤字が大きくて最も外貨準備が少なく、しかも経済運営がむちゃくちゃなトルコをあえて「攻撃の対象」にしたのかもしれません。

どこかで「経済危機」が起きればよかった

「攻撃の対象」は、ブラジルでもメキシコでも良かったはずですが、それでは「ショック」は起きそうもありません。8月のトルコだったら危機のようなものは起きるかもしれない。

トランプは確信犯的に最も弱い国を狙ったのではないか。8月にこそ「危機のようなもの」を起したかったのではないのか?

テスラ救済のために、FRBが金融緩和に転じることは「正当化」できないかも知れません。しかし、新興国の混乱や、ユーロ圏の混乱を収拾するための金融緩和ならば、FRBは「金融緩和の正当性」をゲットできるかもしれないのです。

Next: 米利上げ路線の変更もありえる? 注目は8月のジャクソンホールだ



注目は「8月のジャクソンホール講演」

まずは、8月24日のジャクソンホールでのパウエルFRB議長の講演が待たれます。

8月24日のジャクソンホールでの講演で、FRBの「金融緩和政策への大転換」の序説と、その正当性が語られる可能性があります。

パウエルFRB議長は、テスラ経営難でハイテクブームの混乱が続くならば、9月の利上げも12月の利上げも見送ることでしょう。

それまでは、グローバルマーケットの調整局面はなかなか収まらないでしょう。マーケットは乱高下を続けるのではないでしょうか…。

バブル形成への役者は揃った?

2018年8月のグローバルマーケットでは、次の壊滅的なバブル形成への「役者」が揃ったような気がします。

「トルコ通貨危機(のようなもの)」と「テスラの経営危機」です。

まさしく「歴史は繰り返す」とまで言わないまでも、「歴史は韻を踏む」です――

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米中貿易戦争から、日米欧による「中国製造2015の包囲網」形成へ

「ツイッター砲」の対象が、なぜトルコだったのか?なぜ8月でなければならなかったのか?

1998年8月のロシア通貨危機」を彷彿とさせる「トルコ・ショック」

あの中国も、人民元安・金融緩和策・財政刺激策へ乗り出した!

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・トルコ危機よりも深刻な「テスラの経営難」、大型バブル暴走のための役者は揃ったか?(8/14)
・「無風」の8月のマーケット?~今年のジャクソンホールはかなり期待できる(8/7)

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【関連】トルコリラ暴落が世界金融危機の引き金に。日本経済はこの残暑に耐えられるか?=近藤駿介 | マネーボイス

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資産形成・マクロ金融deあそぼ♪ − 貞子ちゃんの連れ連れ日記』(2018年8月14日号)より一部抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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