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「値上げは敵」に騙されるな。日銀が自らデフレを誘発する愚かさ=児島康孝

よく米国型のインフレは危険、日本型のデフレは悪くないと語るフェイク識者がいますが、誤りです。日銀が自らデフレを招いている事実と合わせて解説します。(『ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』児島康孝)

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なぜ生活は苦しい?インフレとデフレ、どちらがよいかは一目瞭然

米国経済は好調で「真の人手不足」が起きている

FRBによる金融緩和とトランプ大統領の景気対策が、アメリカの中小零細企業や中・低所得層に恩恵をもたらしています。

NYダウは、2万6,000ドル台。FRBの政策金利は、2%前後となりました(一般の「定期預金」の金利も回復)。

NYダウ 日足(SBI証券提供)

アメリカでは雇用が回復し、「真の人手不足」によって中小零細企業の仕事が増えています。

この真の人手不足では、大企業からもアウトソーシング(外注)が出ますから、中小零細企業の仕事が増えるのです。人手が不足していて、かつ売り上げが良いので、外部に仕事を振るという話ですね。

また、雇用や所得の回復で、内需が良くなりますから、直接、消費者向けに販売している中小零細企業も潤います

そして雇用が回復すると、人々は条件が良いところ、自分が好きな仕事に移動を始めます。それが、真の生産性向上になるというわけです。

アメリカは、2016年秋頃から、景気回復に伴う段階的な利上げ局面にあります。景気の上昇が長く持続するように、物価の回復に合わせて、FRBが金利も徐々に引き上げているのです。

アメリカの景気回復を無視するフェイク識者

ところが、日本の識者の中には、こうしたアメリカの景気回復・雇用回復を無視して、日本のデフレを称賛するフェイクニュースを流す人がいます。

インフレ率の回復によって物価が上昇する部分だけを抜き出して、雇用や所得の回復は慮しないのです。

もともとニューヨークの地下鉄では、ほとんど人身事故がありません。2~3週間ほど見ていても、全くなかったですね。暴力事件などがあって、「縄張り」(事件後の立ち入り禁止テープ)が張られているのは、ときどき見かけましたが…。

東京の鉄道では、人身事故がほとんど毎日のようにありますから、追い詰められているのは日本人なのです。

こうした中で「日本のデフレ礼賛論」を流す識者は極めて悪質か、労働市場について全く知らないかです。

ポイントは2つあります。1つは、日本では(事実上)解雇が自由に行われていること。もう1つは、デフレでの雇用の喪失による国民生活の破壊が起きていることです。

「デフレ礼賛論」を流す識者は、解雇や所得の喪失が存在しないという前提に立っています。つまり、現実の日本では、収入が半分、3分の1、あるいはゼロになる国民が実際に続出しているわけですが、フェイク識者は、収入が固定で一定であるか、微減という前提で語っているわけです。

フェイク識者の話は、雇用が安定している公務員や研究員の場合には当てはまりますが、ほとんどの国民にとっては全く的外れということです。

Next: なぜ生活は苦しい? インフレとデフレ、どちらがよいのかは一目瞭然



インフレとデフレ、どちらがよいのかは一目瞭然

月収20万円で毎年パンの値段が30円ずつ上がるという状況と、月収10万円に減ったが、パンの値段は変わらないという状況。いったいどちらが良いのか、ということです。

もちろん値上がり自体は、生活を圧迫する誰でも嫌なものです。しかし、昔の経済が好調だった頃の日本でも、物価は上昇していました。

このフェイク識者の話は、物価の上昇が心理的に歓迎されないことに付け込んで、生活そのものを破壊するデフレを肯定するという、たちの悪い話です。

こうしたフェイクニュースをみかけたら、経済が好調だった頃の日本がどうだったのか、思い出してみましょう。

ところが、日本経済が好調だった頃や、物価の上昇、定期預金に金利がつくことをまったく知らない世代が増えてきているのが実情です。

以前の感覚からすると、金利や物価上昇がないなんてウソでしょ? という、おかしな世界に日本は陥ったままということです。

日銀は金融緩和を「していない」

では、なぜ日本でデフレが続くのか? これは、日銀が実は金融引き締めを行っているからです。

「世の中、みんな“日銀の大規模金融緩和”と言っている。新聞もテレビでもやってたよ」というのもごもっともです。

しかし、日銀は、もっとも重要な政策金利(短期金利)の設定で、金利を高め(=引き締め、デフレ誘導型)にしているのです。

つまり、株を買ったり、量的緩和はしていますが、肝心の短期金利は高めなのです。

短期金利の設定はエアコンの温度調整のようなもので、経済や景気、国民生活に大きく影響します。

物価上昇率に比べて短期金利が2%ぐらい低ければ、金融緩和となります。雇用喪失などが起きた後なので、これぐらいしっかり金融緩和をする必要があるのです。

FRBやECBはこれをやったので、景気が上昇し、インフレ率も戻ってきています。

Next: デフレが続くのは当たりまえ? 日銀はむしろ金融引き締めを行っている…



日銀はむしろ「金融引き締め」を行っている

日本は物価上昇率が低いので、金融緩和を行うには、短期金利をマイナス1%ぐらいにしなければ効果がありません

昔の生活実感で言うと、「インフレ率よりも、普通預金の金利が低い」というのが普通でした。以前の日本では、普通預金をしているとインフレ率に「負け」て、資産が目減りするのが普通だったのです。物価が徐々に上がり、物の値段が高くなっていくため、時間の経過とともに実質的に買える分が減ってしまうということです。いまなら100円で買えるが、普通預金にして来年に買おうとすると、その時には103円になっているという話ですね。

これは、現在のデフレの異常さに慣れれば「103円がおかしい」と思えてしまいます。しかし、通常の経済状態でインフレ率が3%であれば、これが普通であり、以前の好調な日本でもそうだったのです。

しかし今は、普通預金でも資産が目減りしないという、相対的には金利が高い状態です。これは、インフレ率と普通預金の金利がともにゼロ近辺であるための「トリック」のようなもので、普通預金の金利水準は高くなっているのです。

つまり、いまの日本は金融緩和ではなく、金融引き締め状態ということです。

ですから、「日銀が金融緩和をしても効果がなく、デフレが続いている」というわけではありません。「日銀が(相対的に金利を高めにして)金融引き締めを行っているので、デフレが続いている」という、逆説的に言えばあたりまえの話なのです。

金融緩和か引き締めか、日銀の動きを見抜くポイント

日銀の金融政策は、金融緩和なのか、金融引き締めなのか。実は、それがすぐにわかる方法があります。

それは、企業の内部留保と、日銀の当座預金残高を見ることです。

企業の内部留保は、様々な形で存在するとは言うものの、実際には普通預金でそのまま積み上げている場合も結構あります。100億円ぐらい普通預金にしてあるということも、ままあるのです。

この内部留保の増減は、普通預金の実質的な金利水準を反映します。つまり、いまは普通預金が有利な金融商品なので、企業は内部留保にしているのです。

経済的には、目先、合理的な行動です。たとえ儲かっても普通預金が目減りする状況であれば、企業はお金を設備投資にまわしたり、雇用にまわします。はやく使わないと、そのままでは実質的に減ってしまうからです。

大企業の内部留保拡大が批判されるが…

大企業の内部留保が批判されていますが、根本的な原因は日銀の金融政策というわけです。

ですから、日銀が真の意味で金融緩和を行えば、内部留保は溶け出します。一方、金融引き締めを行えば、高金利によって内部留保が「氷河」のようにどんどん増えるということです。

つまり、内部留保が増えているということは、普通預金の金利が高い=短期金利が高いということ。もし内部留保が減るのなら、普通預金の金利が低い(金融緩和が行われている)ということです。

Next: 日銀がわざわざデフレが続くような政策を取っている



日銀がわざわざデフレが続くような政策を取っている

これは同様に、日銀の当座預金残高にもあてはまります。銀行が日銀の当座預金にお金を積むのは、金利が高いからです。

日銀が、金利を高めにして金融引き締めを行えば、当座預金残高はどんどん増えます。逆に、金利を低めにして金融緩和を行えば、日銀の当座預金残高は減ってくるはずです。金融緩和のもとで、当座預金を積むと実質的に目減りしてしまうからです。

このように「日銀の金融政策が本当はどうなのか」は、企業の内部留保の推移と、日銀当座預金残高の推移をみれば、わかるということです。

金融緩和を行えば、これらは、不利(=目減りする)となりますから、減ってきます。これらが、増えているということは、実は日銀は金融緩和を行っていないということです。

日銀は、わざわざデフレが続くような金利水準(短期金利を高め)に設定しているというわけです。金融緩和と量的緩和は違うということです。

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ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』(2018年9月26日号)より抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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