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バフェットは投資先のどこを見る? 潰れる会社の見分け方と避けるべき2つの業種=栫井駿介

潰れる会社を掴まないために、投資先を選ぶ際に真っ先に見るべきポイントはどこでしょうか? 今回は、つばめ投資顧問代表・証券アナリストとして活躍し、マネーボイスの人気著者でもある栫井駿介氏の人気連載『誰でもバフェット投資術 ~ バイ・アンド・ホールドで人生100年時代の資産を築く』第2回をお届け。銘柄選択の極意について、バフェットが意識的に避けている業種とともに解説します。

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

過去から学べる?人気連載『誰でもバフェット投資術』銘柄選択編

銘柄選択編1「潰れない会社を選ぶ」

一つの銘柄を長期にわたって持ち続けるバフェット流の投資を行うなら、投資する会社は厳選しなければなりません。

国内には約3,600社の上場企業があります。世界単位で見ると約4万5,000社です。個人投資家の資金は限られていますから、投資できる銘柄はこのうちほんのわずかです。したがって、個別株投資における作業の大部分は、投資すべきでない会社を切り捨てることです。

私も日々多くの銘柄を分析しますが、分析した銘柄のほとんどは「投資しない」という決断を下すことになります。時間の無駄にも思える作業ですが、本当に投資すべき一滴の企業を絞り出すためには不可欠です。

「いい会社」の判定に唯一の正解はありませんが、買ってはいけない会社を見つけることは難しくありません。簡単に言えば、潰れそうな会社を選んではいけないということです。売らないことを前提とする長期投資においては、これだけは何としても避けなければなりません。

何よりも見るべきは「キャッシュフロー」

潰れる可能性があるのは、どんな会社でしょうか。実例を交えて解説します。

会社の安全性を図る指標として一般的に注目されるのが、自己資本比率です。業種にもよりますが「30%以上あれば安全」などという言い方をされます。

自己資本が財務の健全性を測る上で重要なのは間違いありません。一方で、自己資本比率が30%以上あるからと言って、危険ではないとは限りません

例えば、昨今経営危機が取り沙汰されている大塚家具<8186>は、少し前まで無借金経営で、直近の自己資本比率も60%を超えています。一見健全そのものですが、以下の記事でも書いている通り経営危機を迎えています。

【関連】ニトリにとどめを刺された「大塚家具」、久美子社長が犯した2つの戦略ミスとは=栫井駿介

大塚家具が経営危機に陥っているのは、現金が底を尽きそうだからに他なりません。いくら自己資本が残っていても、現金がなくなってしまったらその会社は破綻してしまいます。逆に言えば、債務超過に陥っても現金さえ残っていればすぐに破綻することはありません。

【図】大塚家具現金残高推移

企業の安全性を見る上で最も重要なのは、自己資本比率ではなく現金の流れです。それを確認するためには、「キャッシュフロー計算書」を見る必要があります。

キャッシュフロー計算書の概要は、有価証券報告書の冒頭で過去5年分を確認することができます。下記は大塚家具の2017年12月期の有価証券報告書の抜粋です。

直近2年間で営業キャッシュフローがマイナスになっていることがわかります。これはかなり危険な状況です。営業キャッシュフローがマイナスということは、営業を続けるだけで現金が減っていってしまうということです。

家計で考えればわかりやすいでしょう。毎月の収支が赤字となっていて、貯金をどんどん取り崩しているのです。ひと月だけなら何か特別な支出があったかもしれませんが、毎月となると収入が足りないか、支出が多すぎるということになります。

Next: キャッシュフローが良くないとき、企業内でどんなことが起きているのか



資金が尽きる前の会社の行動

やがて資金が尽きてしまったら、その会社は破綻します。破綻を逃れるためには、(1)収入を増やす、(2)支出を減らす、(3)資産を売却して現金化する、(4)お金を借りる、の4つの選択肢しかありません。

(1)は自分の力ではどうしようもない部分があります。それができたらとっくにやっているでしょう。

(2)は簡単に言えばリストラです。人員削減などにより日々発生する費用を削減します。収入が増えなくても、コストの削減で一時的には現金の流出を止めることができるでしょう。その間に収入を増加させる策を練らなければなりません。

(3)の段階に入ると、いよいよ雲行きが怪しくなります。持ち合い株式の売却や、事業の切り売りをすることで、目先の現金確保を急いでいるのです。営業活動によるキャッシュフローが赤字で、投資活動によるキャッシュフローが黒字になっている場合はこのような危険な兆候と言えます。(大塚家具は直近でこの状況に陥っています。)

(4)は、銀行借入や増資により資金を調達することを意味します。銀行との太いパイプがある会社なら、当面の危機は借入金でまかなうことができるでしょう。しかし、経営の雲行きが怪しい場合、銀行もなかなかお金を貸してくれません。

(4)の最終手段となるのが、(主に第三者割当)増資による資金調達です。増資は返さなくていいお金ですが、場合によってはそのまま経営権を握られてしまいます。それだけのリスクを引き受けるお金の出し手は、それ相応のリターンを求めるのです。

これらのいずれの手段も尽きてしまったら、会社は破綻してしまいます。会社を見るうえで、現金の流れは常に意識する必要があります。

危ない業種(1):マンションディベロッパー

キャッシュフロー計算書を見るのはハードルが高いという人は、業種からある程度類推することができます

例えば、マンションディベロッパーは、ある時急激に倒産が増える業種です。リーマン・ショックの前後には、多くの会社が市場から姿を消しました。生き残ったとしても、致命的なダメージを負ってしまった企業がほとんどです。

メカニズムを解説すると、以下のようになります。

不動産市況が好調なときは業績を大きく伸ばしますが、市況が落ち込むと途端にマンションが売れなくなってしまいます。ただ売上高が減少するだけなら救いようがあるのですが、問題はそれだけにとどまりません。

これらの会社は、開発のための資金調達を有利子負債で賄っています。調子がいいときは、借入→物件仕入れ→物件販売→返済の流れができるのですが、物件が売れなくなった途端に有利子負債の返済が滞ってしまいます。

さらに、売れ残った物件は当初想定よりも低価格で売らなければなりませんから、多額の在庫評価損が発生します。これにより自己資本も削られ、債務超過になってしまうこともあります。こうなると、銀行からの資金供給も止まり、破綻に追い込まれてしまうのです。

Next: 倒産しやすい、もうひとつの業種とは…



危ない業種(2):航空会社

同じく倒産が多い業種に、航空会社があります。

記憶に新しいところでも、日本航空スカイマークを挙げることができます。日本に限らず、海外のエアラインも度々経営破たんしています。

航空機を購入するためには、1機でも100億円単位の資金が必要となります。その時点で多額の有利子負債に悩まされるのですが、問題はそれだけにとどまりません。

まず、航空機を飛ばすのに大量の燃料を使用します。これは、乗客が多かろうと少なかろうとかかってしまう固定費です。原油価格が高騰すれば、コストは急激に膨れ上がります。

乗客数の変動も非常に大きいビジネスです。かつて9・11テロ事件や新型インフルエンザが流行った際は、航空需要が大きく落ち込みました。単に景気が悪くなった場合でも、多くの企業は遠方への出張を控えるようになるでしょう。

このように、航空会社は負債・コスト・売上のあらゆる面で大きなリスクを抱えているのです。バフェットもしばしば「航空会社へ投資しないこと」を教訓として語っています。

過去の倒産事例を観察すれば見えてくる

もちろん、どの業界に大きなリスクがあるかを知ることは簡単ではありません。そんなときは、集合知を借りましょう。不安の大きな業種は、低いPERにとどまっています。例えば、マンションディベロッパーは常に一桁のPERです。

業種全体で極端に低いPERを見つけたときは、その業界の過去に何があったのかを調べれば大体原因は分かります。問題は不景気の時に露見するものなので、今からだとリーマン・ショックまで遡ればおおよそ見当をつけられるでしょう。

過去に悲惨な状況になっている業種は、よほど個別企業の分析に自信がなければ避けるのが賢明です。

いくつか事例を挙げましたが、これでもほんの一握りにすぎません。危ない企業を見分けるには、過去の倒産事例をよく観察することで、少しずつ感覚を研ぎ澄ますことができるようになります。

まずは、最近起きている倒産や経営危機のニュースに対してアンテナを高くすることが大切です。なぜそのような状況に陥っているのか、財務はどうなっているかなど、自ら頭を働かせることで本質が見えてきます。

Next: 自分が選んだ投資先は大丈夫か?会社の未来を具体的に想像しよう



会社の未来を想像する

いくつかの事例を理解できたら、今度は投資しようとしている企業が同じようなことにならないか、目をつぶって想像してみることです。ビジネスからもたらされる現金の流れを想像することで、どこに危険が潜んでいそうか気がつくことがあります。

自分の頭で想像することは、投資において不可欠です。これは危険の兆候を見破るだけではなく、将来の成長性を見出すためにも役立ってきます。投資の成果を見通す羅針盤は、株価チャートではなく自分の頭の中にあるのです。

もし、会社の将来を想像してみて何も浮かばないのであれば、その会社に対する理解が足りません。その場合は、まだ投資を控えるべきです。この状態で投資しても、投資の実力が付くことはないでしょう。バフェットも次のように言っています。

リスクとは、“自分が何をやっているかよくわからない時”に起こるものです。

逆に言えば、自分の頭で想像できるようになれば、賢明な投資家としての第一歩を踏み出したことになります。会社の未来をいろいろ想像してみて、投資を楽しむことから始めましょう。


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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2018年10月16日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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