一度はとん挫した2度目の米朝会談はいよいよ11月に開催される見通しです。非核化も急速に動いています。昨年まで開戦寸前だった両国に何が起きたのでしょうか?(江守哲の「ニュースの哲人」〜日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ)
本記事は『江守哲の「ニュースの哲人」〜日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』2018年10月12日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。
政治イベントの演出に余念がないトランプ。日本はどう立ち回る?
第2回米朝会談は11月開催へ
米国の動きがかなり先鋭化してきています。特に対中政策は相当厳しくやっていく方針です。
対北朝鮮政策において習近平国家主席が協力してくれなかったことに対する怒りは、やはり相当なものがありそうです。もっとも、韓国が動いてくれているので、いまは助かっています。
さて、一度はとん挫した米朝の会談は、いよいよ11月に開催される見通しです。
金正恩朝鮮労働党委員長は訪朝したポンペオ米国務長官と7日に会談し、第2回米朝首脳会談準備のための実務協議を早期に行うことで合意しました。もともと開催することは決まっていたのですが、手順やメンツをこだわる北朝鮮側の意向で、動きはあまり早くありません。
しかし、繰り返している通り、すでにゴールは決まっています。とはいえ、そこにはゆっくりと進んでいきます。
まだまだネタとして使わなければなりませんので、すぐに非核化完了ということにはしません。できないのではなく、そうしないだけです。これが国際情勢の裏側です。すべてがこのような塩梅です。
非核化が急速に進む?
さて、今回の会談で金委員長は結果を高く評価し、満足の意を表明しました。そして、「近く第2回首脳会談に関連した立派な計画が用意されると確信している」と強調しました。
また、第2回目の米朝首脳会談を契機に「全世界の関心事となっている問題の解決や、前回の会談で提示された目標達成で、必ず大きな進展が実現する」という「意志と確信」を表明し、非核化や米朝関係改善への意欲を示しました。
よく考えると、1年前にこのような発言が北朝鮮から出てくるとは、誰も想像できなかったでしょう。だからこそ、国際情勢は見ていて面白いのです。
会談で金委員長は「非核化問題の解決のための方策や、双方の憂慮事項」について詳細に説明し、両者は「建設的な意見」を交換しています。
これらは、米当局による核関連施設の廃棄現場視察など非核化の具体的なプロセスと、朝鮮戦争(1950〜53年)の終戦宣言や対北朝鮮制裁緩和といった「米国側の相応の措置」を指しているとみられています。
何度も言いますが、とにかく北朝鮮にはプライドがありますので、それを傷つけないようにやっていくことが重要です。このプライドも全く価値がないのですが、上手く取り込むためには、そう見せかけておけばよいので、米国側も簡単でしょう。まさに「赤子をひねる」という感じでしょう。
しかし、そう見せてはいけません。あたかも気を使っているように見せることが重要です。対中政策とは全く逆ですが、これは立場の違いです。
Next: 想定以上に早く進む非核化、米朝は本当の意味で手を結んだ…?
想定以上に早く進む非核化
ポンペオ米国務長官が言明するように、北朝鮮は核・ミサイル実験場に国際査察官を受け入れる用意があります。
ようやくそこまで明確に発言するステージまで進んできました。これは想定以上に早い印象です。もう少し後になるのではないかと考えていましたが、米中間選挙をにらんだ成果作りの面もあります。まぁ、小手先の演出にすぎませんが。
すでに米朝で基本的な部分は合意がされています。しかし、見せ方が問題です。ですので、小出しに査察官の受け入れなどを徐々にやるわけです。
今回の会談で、かなり前に進んだ印象になります。これも9月の南北首脳会談での韓国の文在寅大統領の地ならしのおかげです。
もっとも、いつ・どのようなスケジュールで進めていくかは、緊密に話し合われています。もちろん、韓国の後ろには米国がついています。文大統領が米国の意図を汲んだうえで、さらに金委員長のプライドを傷つけないように進めているわけです。
昨年までは「米朝戦争」開戦寸前だった
昨年までは、本当に米朝は敵対していました。これは本当です。そして、場合によっては一戦交える直前まで行っていました。かなり緊迫していたのです。
しかし、米国にはお金がありません。できれば戦争はしたくない。そこに登場したのが文大統領でした。このような救世主が突如現れたことは、米国にとっては信じがたい存在だったといえます。
北朝鮮をまだ信用しきれない米国
それにしても、このタイミングで北朝鮮が東倉里のミサイルエンジン実験場とミサイル発射台を「関係国の」専門家の立ち会いの下で「永久に廃棄」するとしたことは極めて大きいですね。
ただし、今の時点ではあくまで「関係国の」専門家が行うというものです。米国は関与できません。
問題は、これが米国がいつ・どのような形で関与できるようになるのかが、大きなポイントになります。シナリオは決まっていますが、一応みておきたいポイントです。
一方、韓国の文大統領は、金委員長が近くロシアを訪問する見通しだとしていました。中国の習近平国家主席が北朝鮮を訪問する見込みともしています。
北朝鮮はいまだにロシアと中国と手が切れていません。これができないと、米国は真の意味で許さないでしょう。
ちなみに、金委員長はすでにロシアを訪問した可能性があります。米中関係を見ていれば、金委員長もうかうかしていられないというところなのでしょうが、どちらに就いた方が良いという安易な発想だと、結局は米国にやられるだけです。
これは十分に理解しているわけですが、過去のこともありますので、まだ疑心暗鬼になっているわけです。
もっとも、金委員長の生い立ちを考えると、方向性は決まってしまっています。日本と北朝鮮の関係も、もはや揺るぎないものになっているといえます。
Next: 第2回米朝会談の開催地は日本? 米中間選挙ほかビッグイベントが続く…
第2回米朝会談の開催地は日本?
それはともかく、今回のポンペオ訪朝で、11月に第2回米朝首脳会談の実現が現実的になってきました。
今後も大きな政治イベントが続きます。11月6日には米中間選挙もあります。これをこなした後に、米朝首脳会談が実施されます。トランプ大統領も中間選挙後になると言明しています。
開催地はシンガポールではなく、もしかすると日本になるかもしれません。その場合には、過去のすべてが暴露される可能性もあるでしょう。警備の問題もありますので、どこで行うかはわかりませんが、そうなった場合には、これは大変なことになります。
そもそも、北朝鮮のトップが拉致問題が解決されていない中で日本に入れて良いのか、という問題もあります。しかし、安倍首相がこれを画策しているとの話もあります。
ちなみに、第1回目の米朝首脳会談をシンガポールで開催することを提案したのは安倍首相とされています。これからこの話題はかなり面白いことになりそうです。
もちろん、拉致被害者に関する話もかなり出てくるでしょう。そうなれば、これまで隠されていたことが明るみになります。
すべては演出? 日朝間で拉致被害の問題は解決済み
当メルマガでは繰り返しお伝えしていますが、日朝間で拉致被害の問題は解決済みです。この事実だけは出てきません。これはきわめてタッチーな話だからです。これまで日本で理解されてきた日朝関係のすべてが崩れてしまいます。
ですので、できるだけ拉致被害の問題を取り上げ、北朝鮮との悪い関係を演出しているわけです。
このことは米国も完全に理解しています。つまり、トランプ大統領も役者のひとりとして参加しているわけです。
もちろん、他国はこのことを知りません。ですので、国連でのトランプ大統領の演説での北朝鮮に対する発言も、厳しいものにならざるを得ないわけです。
まさに「役者」です。いや、国際情勢に絡んでいるひとたち、政治家たちはすべて役者です。これができなければ、追放されるだけです。
日本の民主党政権ではこれができるわけがありませんでした。だからこそ、円高になったわけです。
Next: 米中間の対立がより激しく鮮明に
米中間の対立がより激しく鮮明に
アメリカ国務長官のマイク・ポンペオ氏は8日に北京を訪れ、中国の王毅国務委員兼外相と会談しました。
王氏は「米国は対中貿易摩擦をエスカレートさせ、台湾などの問題でも中国の権益を損なう行動を取り、中国の内外政策を根拠なく非難している」と対米批判を展開しました。
また、「誤った言動を直ちにやめるよう求める」と強い調子で迫りました。中国側は習近平国家主席との会談も設定せず、ポンペオ氏を冷遇したことで、米中間で激化している対立が鮮明となりました。
これは米国側からすれば予定通りです。中国側がいかに苦しい状況かを確認することができたので、大変な成果だったといえます。
王氏の発言に滲み出る「中国の弱さ」
中国は世界覇権を目指しています。だからこそ、米国にやり込められているわけです。中国側もそれを十分に理解しています。また、そうなるのは簡単ではないこともわかっています。
また、王氏はポンペオ氏に対し、「あなたが朝鮮半島などの地域問題について中国と意見交換したいことは分かっている」とし、「この種の協力には、支えとなる健全で安定的な両国関係が必要だ」として、米国の今後の対中姿勢によっては北朝鮮問題で協力しない可能性さえ示唆しました。なんと上目線でしょうか。驚きですね。
一方で王氏は「協力が双方の唯一の正しい選択だ」ともし、全面対決は望まない考えを強調しています。貿易摩擦に関しても、「中国は米国と協議を通じて問題解決したいと今なお望んでいる」としています。
ようは、中国はすでに弱い立場にあることを理解しながらも、北朝鮮ネタを利用して、少しでも関税問題や対中政策を緩和して欲しいわけです。
王氏の発言に、中国の弱さが明確に出ています。
Next: 米国はさらに上から目線で中国を追い込む。肝となる北朝鮮問題は…?
米国はさらに上から目線で中国を追い込む
ポンペオ氏は「米中には多くの問題で明らかな不一致があるが、米国は中国の発展に反対せず、中国を囲い込む気はない」としています。こちらは本当の意味での上目線です。
一方で米国は、中国大陸と台湾を不可分とする「一つの中国」政策を堅持し、「重要な国際・地域問題で意思疎通と協力を強化したい」としています。
ちなみに、台湾自身は日本の一部になりたい意向です。中国などは眼中にありません。この問題もあまりにタッチーですので、ほとんど語られることはありませんが、これが真の実態です。
いずれにしても、様々な面で米中の対立は続きます。中国が折れることもないでしょうが、どこかで折り合いをつける必要もあります。
その一方で、演出のネタにする必要もあります。このようにして、材料を出し入れしながら、市場や国際社会を揺さぶりつつ、注目を集めるようにするでしょう。
第2回目の米朝首脳会談の開催については、王氏は支持しています。そのうえで、朝鮮半島問題に関して「中国は独特で重要な役割を発揮し続ける」としています。
ここで関与を放棄すると、アジアでの中国の存在感を維持するうえで大きな問題が生じることを理解しているからです。
中国も苦しい立場にあるわけです。
終戦宣言にこだわる北朝鮮
ところで、北朝鮮が終戦宣言にこだわっているのは、米国の軍事攻撃の大義が失われると考えているとの見方があります。米軍の攻撃がなければ、金委員長が最も重視する「体制保証」が実現すると見ているようです。
終結宣言は、国際法上の拘束力を持つ平和協定とは異なり、戦争が終結したことを一方的に宣言する政治的な行為にすぎません。しかし、金委員長はそれにこだわっているように見えます。
いまは軍事的に攻撃することはありません。あらかじめ綿密に関係国と打ち合わせをしたうえで、いろいろなことを決めていきます。
現代社会において、相手が北朝鮮であろうと、軍事攻撃を仕掛けるという選択肢はもはや残っていません。しかし、金委員長には古い考えが染みついているのでしょう。もっと言えば、米国の軍事力に勝てるわけがないことを理解しているがゆえに、徐々に緩和し始めているともいます。
非核化は従来から、国連安全保障理事会の制裁決議などでミサイル開発の中止などとあわせて無条件での実現が大原則です。米国側も非核化が進展するまでは制裁を緩めない姿勢を維持しています。日本側も同じ立場です。
北朝鮮の交渉のやり方は、国際社会から明らかに逸脱しています。そのため、最終的には折れることになります。
結論が決まっていますので、あまり引っ張るのは得策ではないと思いますが、これもネタですので仕方がないですね。
Next: 急速に改善へと向かう米朝関係。対する日本政府の姿勢は?
日本政府の姿勢は?
一方、菅官房長官は7日のNHKの番組で、北朝鮮問題について「米朝首脳会談で非核化をうたった共同声明に署名したのは非常に大きい。行程表をつくって進めていくことが大事だ」として、北朝鮮に非核化に向けた具体的措置を取るよう要求しました。
また、日本人拉致問題に関しては「安倍首相が北朝鮮の金委員長と向き合い、最終的に決めてほしい。そういう段取りをしっかりつくっていきたい」として、日朝首脳会談の実現に全力を挙げる考えを示しました。
しかし、菅官房長官も裏側を知っている一人です。だからこそ、拉致担当大臣を兼務しています。
この問題は、安倍内閣のトップ中のトップしか知らない事項になっているといえます。どのタイミングで、どこまで発表されるのか。個人的には興味津々です。
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・トランプ政権の先鋭化と中国の動き(10/12)
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- 「北朝鮮情勢はシナリオ通り」(9/28)
- 「困ったときの北朝鮮」(9/14)
- 「イラン、トルコ、北朝鮮」、すべてが共通している(8/24)
- 「米国の本気度を甘く見ない」(8/10)
- 「まだまだ不安定さを演出する」(7/27)
- 「米中間選挙までは結論出ず」(7/13)
- 「歴史が動いた」(6/22)
- 「米朝首脳会談の方向性は決まっている」(6/8)
- 「米朝首脳会談の中止の裏側と実態」(5/25)
- 「シナリオ通り、かなり先が見えてきた」(5/11)
- 「米朝首脳会談がクライマックス」(4/27)
- 「米朝合意に向けて着々と進んでいる」(4/13)
- 「トランプ政権誕生の真実」(3/23)
『江守哲の「ニュースの哲人」〜日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』(2018年10月12日号)より一部抜粋
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