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不正投票も再集計騒ぎも根絶へ。ブロックチェーンによる選挙革命が始まっている=高島康司

選挙に大変革が起きている。ビックデータやSNSを使った投票誘導が問題視されているが、ブロックチェーンの活用で公正な選挙を守ろうとする動きがあるのだ。(『ヤスの第四次産業革命とブロックチェーン』高島康司)

※本記事は有料メルマガ『ヤスの第四次産業革命とブロックチェーン』2018年11月13日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

現行選挙は穴だらけ?民主主義を守るのはブロックチェーン技術か

ビッグデータとAIによる誘導

いま欧米を中心とした国々では、選挙に大きな変化が起こっている。これがブロックチェーン導入に向けた動きを加速させる背景となっている。まずこの動きを確認する。

ちょうどアメリカの中間選挙が終わったばかりだが、選挙のあり方が大きな問題となっている。政治権力が国民の意思に依存する主権在民の民主主義の政治体制にとって、選挙による投票はもっとも重要な基盤である。そのため、不正がなく、国民の意思が確実に反映される票のシステムでなければならない。

しかしながら、近年のSNSやビッグデータ、そしてAIの発展は著しく、既存の比較的に素朴な選挙制度の根幹が脅かされる状況になっている。

SNSから得られる個人情報をもとに個人のライフスタイルや関心から個人の政治的な傾向を解析し、SNSに特定の候補者に投票するように誘導するメッセージを大量にリンクする。そのようにして、投票行動を変更することができるようになっている。

たとえば、今回の米中間選挙では、共和党は1億8,000万人の有権者の個人情報を入手し、それらの個人が共和党に投票するように誘導する選挙キャンペーンが多くのSNSで展開された。もちろん、こうしたテクノロジーを導入できた陣営とそうではない陣営とでは、選挙結果に極端な差が出てきてしまうのは当然だ。米中間選挙では民主党も同様のシステムを導入している。また、応援している特定の政治党派を勝利させるために、企業が莫大な資金を投じて投票行動の誘導を行うことは、ほとんど常態化している。

感情に訴えるキャンペーンと投票率の上昇

そして、こうした選挙の手法で実施されるのが、有権者の感情に訴える激しいキャンペーンである。フェイクニュースなどを通じて対立候補や対立政党への激しい憎しみを煽り、反対側が勝った場合の危機感を感情に強くアピールして、投票を強く促すのである。

こうしたキャンペーンが、有権者の個人情報から抽出されたひとりひとりの個別な関心や政治志向にカスタマイズされて、SNS上で展開される。必然的にこれは強い感情的な反応を引き起こし、多くの有権者は相手を強く憎悪するようになる。

一方、このような手法の結果、投票率は飛躍的に上昇する。対立する陣営の憎しみに駆られた有権者は、危機感から投票所に殺到するので、投票率は必然的に上昇するのだ。これは、今回の中間選挙で見られた現象である。今後、欧米の国々の多くの選挙で見られるようになるはずだ。

困難に直面する投票システム

しかしながら、こうした新しい政治的なトレンドに既存の投票システムが対応できなくなっている。今回の米中間選挙はその典型だが、投票所には長蛇の列ができ、投票するのに4時間から5時間もかかる光景が普通に見られた。

さらに、投票用紙や投票用コンピューターを用いた既存の方法にも問題が出てきた。感情的に激高した政治勢力による不正投票や、投票用コンピューターの不正操作、さらに外部の勢力による得票数のコントロールなども横行するようになっている。米国家安全保障省によると、2016年の大統領選挙では、ロシアによって21州の投票システムがハッキングされ、イリノイ州では50万票のデーターベースが不正に操作されたとしている。ホワイトハウスが任命したモラー特別検察官は、ハッキング容疑で26名のロシア人を起訴した。

また2017年には、国家安全保証省は、投票システムで使われるコンピューターは、原子力発電所やライフラインのインフラと同等のレベルの攻撃に合う危険性が高いとして、最高度のセキュリティーを維持する必要性を主張している。

さらに、ハッキングの危険性がない投票用紙による投票も安全とは言い切れない。死亡者の名義を使った投票や、同一人物が何度も投票する不正は後をたたない。

特に、選挙が感情的な激高の対象となってからは、こうした不正行為は頻発するばかりだ。そのため、選挙結果が僅差となった場合、得票を再集計する必要性に迫られることも多くなっている。

こうした、選挙が感情的に激高したイベントとなり、不正行為も横行しやすくなった状況で、安全度の高い投票システムとして注目されているのが、ブロックチェーンによる投票システムだ。

Next: ブロックチェーンなら不正はできない? 採用には大きなハードルも…



不正行為の防止とブロックチェーン

ブロックチェーンとは、ハッシュ関数で暗号化されたデジタルデータのブロックを、複数のコピーが存在する分散台帳に書き込む技術である。

データが台帳に記録されるためには、マイニングと呼ばれる暗号解読の作業が必要になる。そして、書き込まれたすべてのブロックは相互にチェーンで結ばれているので、任意のデータを変更したり改ざんすると、分散台帳全体が壊れてしまう。

だからブロックチェーンは、データのどのような不正操作も基本的にできない仕組みになっている。既存のシステムでは、データをハッキングなどの不正アクセスから守るために、セキュリティーの高い中央集権的なサーバが必要だったが、ブロックチェーンではこうしたサーバの必要性はない。ブロックチェーンであれば、比較的に安いコストで高度なデータ管理のシステムが構築できる

さらに、プログラムの自動実行機能を内蔵したスマートコントラクトと呼ばれるイーサリアムのブロックチェーンであれば、条件さえ指定すれば契約内容は自動的に実行される。請求書の発行、代金の支払い、製品の発送など、日常的なルーチーンのプロセスを自動化することができる。

このようなブロックチェーンの機能から見ると、投票のシステムは比較的に構築しやすい。有権者が投票した結果を、有権者の名前とともに分散台帳に書き込めばよいだけだ。プログラムの自動実行機能を持つスマートコントラクトのような高度なシステムは必要がない。

左右が対立する感情的に激高した選挙戦を背景として、勝利するためならどの陣営もあらゆる形態の不正を犯す可能性が高くなっているいまの状況では、不正の防止が確実にできるブロックチェーンによる投票システムには期待感も高い。導入が急がれている

ブロックチェーン投票システムの問題点

このように、投票システムにおけるブロックチェーンの導入への期待は高いものの、越えなければならないハードルもいくつか存在している。

<問題点その1:秘密投票の原則の維持>

民主主義の前提である投票は、だれがどの候補者に投票したのか分からない「秘密投票」であることはもっとも重要な原則である。そうしないと、特定の候補者に投票するような脅しや買収も横行することになる。

一方、ブロックチェーンは分散台帳には誰でもアクセスし、内容を見ることができるシステムである。こうした公開性によって、書き込まれたデータの信頼性が確認できる。

このようなブロックチェーンを秘密投票が原則の投票に適用するとき、困難なハードルが出てくる。投票結果をブロックチェーンの分散台帳に書き込む場合、投票者の氏名とその投票結果がデータとしてブロック化され、書き込まれる。そうすることで、投票結果は変更不可能になる。

しかしこの場合、既存の分散台帳の方式だと、誰がどの候補者に投票したのか簡単に分かってしまう。これは、民主主義の根幹になっている秘密投票の原則を崩壊させることにもなりかねない。これは、絶対に避けなければならない。

すると、オープンな分散台帳に書き込むブロックチェーンのシステムを投票に適用するためには、有権者を登録し、その名前を暗号化するための別のシステムが必要になる。暗号で投票結果がブロックチェーンに書き込まれる。また、有権者本人だけに暗号が提供されるなら、その人だけが自分の投票結果が正しくブロックチェーンに記録されたかどうかを確認できる。

このシステムは一見するとよいアイデアに見える。しかし、この投票システムでは、有権者を登録し、それを暗号化するシステムがハッキングされてしまうと、秘密投票の原則は崩れてしまう。誰がどの候補者に投票したのか分かるからだ。

いまのところ、このブロックチェーンを補完するシステムがどのようなものになるのか、未定である。ただ、有力なアイデアとして出ているのが、独自トークンの発行である。有権者が登録し、個人情報が記録されると、証拠に独自のトークンが与えられる。これを持つ有権者は、自分の投票結果だけを参照できるというシステムだ。

Next: 投票システム大変革への道のりは多難。すでに始まっている実験は?



<問題点その2:投開票に時間がかかる>

しかし、ブロックチェーン適用の問題はこれだけではない。書き込み速度の問題がある。

いまビットコインのような仮想通貨では、送金などのデータが分散台帳に書き込まれるためには相当に時間がかかる。数日から、場合によっては数週間もかかることもある。

このようなブロックチェーンを投票に導入すると、深刻な問題が発生する。たとえば、国政レベルの選挙では数千万単位の投票結果がブロックチェーンに書き込まなければならないので、相当に時間がかかってしまう可能性が出てくる。選挙の結果が出てくるのは1カ月先だというのではまったく使えない。

投票にブロックチェーンのシステムを導入するのであれば、投票結果を高速で処理できるように設計された特別なブロックチェーンと分散台帳が必要になる。

すでに稼働しているプロジェクトも

このような問題を抱えた投票用ブロックチェーンのシステムだが、将来の可能性を見据え、すでに稼働している実験的なプロジェクトがいくつか存在する。まずそれを紹介しよう。

<シエラレオネの大統領選挙の実験>

今年の3月7日、西アフリカの西部にあるシエラレオネ共和国では、大統領選挙の当日、ブロックチェーンの活用可能性を調査するための実証実験が行われた。ブロックチェーンによる選挙サービスの提供を目指している会社、「アゴラ(Agora)」が、国際的選挙監視の一環として実施した実験で、ブロックチェーンによる投票の集計が可能であることを示した

これは実際の選挙ではなく実証実験にすぎないものの、選挙ではブロックチェーンが使用可能であることを示した。

<ブラジル政府のプロジェクト>

今年の1月、ブラジル政府は将来の選挙にブロックチェーンによる投票システムの導入を検討していることを明らかにした。使われるブロックチェーンは、イーサリアムである。

1億9,000万人の人口を有するブラジルでは、18歳から70歳までの成人には投票義務があり、これに違反すると日本円で約1,100円の罰金が課せられる。しかし、ブラジルの国土は広大なので、分散した人口を投票所に集めるめには、大規模な人口移動が必要になる。これは、大きな混乱の原因にもなる。

これを回避するためにブラジル政府は、有権者登録と投票をオンラインで行い、集計結果をイーサリアムのブロックチェーンに記録する計画だ。分散台帳へは、1日の投票結果をひとつのデータブロックにまとめて記録するという。

どのようにして秘密投票の原則が守られるのかは明らかにされていないが、今後数年のうちの導入を検討しているという。

<ナスダックのプロジェクト>

米株式取引所大手のひとつ、ナスダックは、今年の1月に南アフリカの株主が株主総会で投票するためのシステムをブロックチェーンで構築した。今後、同様の投票システムを拡大するとしている。

Next: 実証実験では成功。最新の選挙とプロックチェーンを繋ぐプロジェクトは?



選挙システムに大変革を起こす?:アゴラ(Agora)

公式サイト:https://www.agora.vote/
紹介ビデオ:https://www.youtube.com/watch?v=rwHCR0bDK3c

投票用に特化した専用のブロックチェーンを構築し、選挙の方法を根本的に変革することを目指したスイスのスタートアップ企業。上記のシエラレオネの大統領選挙と同時に実施された実証実験で、有効性が証明された。

「アゴラ」のシステムでは、独自のブロックチェーンに投票結果が書き込まれるためには、データの正当性を確認する必要がある。これは一般の市民が行うことになっている。確認作業に参加した個人や団体には、イーサリアムに準じたERC20仕様の「VOTE」というトークンが支払われる。

計画されているプロジェクト

こうしたプロジェクトはすでに実現段階にあり、近い将来には本格的な投票システムとして稼働を始める可能性は大きい。このようなもののほかに、これからの稼働を目指しているプロジェクトは多い。そのうちで注目されているものを2つ紹介する。

<ホライズン・ステート(Horizon State)>

公式サイト:https://horizonstate.com
紹介ビデオ:https://www.youtube.com/watch?v=yJtZGWHDDIs

「ホライズン・ステート」は上記の「アゴラ」と同じように、投票システムを独自のブロックチェーンで構築するためのプロジェクトだ。地方や国政の選挙のみならず、株主総会などあらゆるタイプの投票で使用可能なシステムの構築を目指す。

投票には「HST」という独自のトークンが使われ、「HST」が循環するエコシステムの構築も目指す。

<ヴォーツ(Votes)>

公式サイト:https://votesplatform.com
紹介ビデオ:https://www.youtube.com/watch?v=_7B1gFuxwtI

オンラインで世論調査を実施するロシアの企業、「シンポール(Simpoll)」が立ち上げたスタートアップ。すでに「シンポール」のサービスは、「サムスン」や「ボッシュ」などの多国籍企業で導入されている。

「ヴォーツ」はイーサリアムのスマートコントラクトのブロックチェーンをベースにした投票システムである。これは選挙のみならず、世論調査学校や社会試験の成績集計株主総会など、なんらかの投票が必要となるあらゆる場面で使うことができる汎用のシステムを目指す。

以上が、選挙の分野におけるブロックチェーン適用の概要である。次回はさまざまなプロジェクトを一挙に紹介する。

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ヤスの第四次産業革命とブロックチェーン』(2018年11月13日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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昨年から今年にかけて仮想通貨の高騰に私たちは熱狂しました。しかしいま、各国の規制の強化が背景となり、仮想通貨の相場は下落しています。仮想通貨の将来性に否定的な意見が多くなっています。しかしいま、ブロックチェーンのテクノロジーを基礎にした第四次産業革命が起こりつつあります。こうした支店から仮想通貨を見ると、これから有望なコインが見えてきます。毎月、ブロックチェーンが適用される分野を毎回紹介します。

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