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世界的な株高、本当の背景~これは「緩和バンザイ」相場ではない=米CFA協会認定証券アナリスト・馬渕治好

今年夏の株価大幅調整をみごと的中させたメルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』発行者で米CFA協会認定証券アナリストの馬渕治好さんは、いつも弱気一辺倒というわけではありません。

馬渕さんの投資スタンスはすでに強気。ただし、前週末からの世界市場の明るさは「緩和期待」というよりは、予想を上回る日米の企業収益を反映したものと考えているそうです。現在の市場は緩和の有無ばかりに気を取られすぎて、本当に大事なことを見逃しているのではないかと言います。

緩和期待ではなく、予想より良好な日米企業収益に注目すべき時

一気に高まった「緩和期待」

先週(10/19~23)の市場動向については、特に株式市場において、週末に向けて株価の上昇が目立ちました。この背景として、欧州における金融緩和期待が強まったことを挙げる向きが多いです。

緩和期待が強まった背景は、10/22(木)のECB(欧州中央銀行)理事会では、予想通り何らの金融政策の変更もありませんでしたが、理事会後の記者会見で、ドラギ総裁は「(12月の次回理事会で)我々は必要に応じて行動を起こす用意がある」「12月の理事会で金融政策の緩和度合いを精査する必要がある」と語りました。

これが、12月に追加緩和を打ち出す、具体的には現在の量的緩和の期限が「少なくとも2016年9月まで」とされているので、それを延長するだろう、との期待を招きました。

こうした欧州発の金融緩和期待が、先週の世界市場を動かした要因の1つであることは事実です。それを確かめるため、ここで先週の世界市場の騰落率ランキングをみてみましょう。

とくに強かった欧州諸国株

まず世界の主要な株価指数の騰落率ランキング(現地通貨ベース)をみると、先週株価が下落した国は、7か国しかありませんでした。それを下落率が高かった順に挙げると、ベネズエラ、コロンビア、ロシア、ポーランド、イスラエル、タイ、パキスタンでした。すなわち、ほぼ全面的な世界株高だったと言えます。

一方、株価上昇率のベスト10は、上昇率の高い順に、ドイツ、フランス、ギリシャ、オランダ、アイルランド、スウェーデン、オーストリア、ノルウエー、フィンランド、ナスダック総合と、欧州諸国株がほとんどを占めました。

これはやはりECBの緩和期待が効いたと考えざるを得ません。ただ、米国のナスダック総合が上昇率10位であり、日経平均も11位につけているなど、日米の株価も堅調に推移したと言えます。

外貨の対円相場の上昇率ランキングをみると、上昇率ベスト10はほとんどがアフリカ諸国通貨など、通常世界の投資家が投資対象に余りしないような通貨ばかりです(ベスト20辺りまで範囲を広げても、主要な通貨はほとんど入ってきません)。

一方、上昇率ワースト10に含まれる主要通貨は、ハンガリーフォリント(下落率2位)、南アランド(4位)、ポーランドズロチ(5位)、ルーマニアラウ(6位)、ノルウエークローネ(7位)、セルビアディナール(9位)、アイスランドクローナ(10位)と、南アランド以外は欧州通貨が多くランクインしており、それ以降も、スウェーデンクローナ(11位)、チェココルナ(12位)、ユーロ(13位)と、欧州通貨が続きます。

これも、欧州の追加緩和見通しが、欧州通貨を全般に押し下げたと考えられます。

Next: 「緩和期待」だけではない、世界的株高の背景とは?


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「緩和期待」だけではない、世界的株高の背景

しかしECBの追加緩和見通し(さらには、これで米国は年内利上げできないとか、日銀が今月追加緩和するとか)を持ちだして、それで世界株価の上昇や他の市場動向を全て説明するのは当たっていないと考えます。

というのは、通貨市場においては、ECBの追加緩和観測の高まりで、ユーロなどの欧州通貨が、対米ドルでも対円でも売られるのは理解できるのですが、それだけであれば米ドルの対円相場は無風のはずです。

しかし実際には、米ドル高・円安が進みました。その解釈としては、欧州での追加緩和期待の他に、米ドルを押し上げかつ世界の株価を押し上げた、何か大きい要因があると考えるべきです。

実はそうした大きい要因として、このところ発表されている日米の企業収益が予想よりは良かった、という点を指摘したいと思います。

まず米国については、7~9月期は前年比で減益だとの、悲観的な予想が広がりました。それに対して、たとえば先週決算および収益見通しを発表した、マクドナルド、イーベイ、ダウ・ケミカル、テキサスインスツルメンツ、アマゾン、マイクロソフトなどの収益が予想より良いとして、そうした企業の株価が上がり、それは米国株式市況全般を大いに引き上げました。

米国の企業収益が予想よりは良く、米国株価が上昇したとなれば、米ドルが対円で上昇するのは自然なことです。

また日本でも、中国景気悪化の悪影響が、日本の企業収益を悪化させる、という事前の空気が広がっていました。ところが安川電機など、中国の悪影響が大きく表れると懸念されていた企業が過去最高益を更新したため、事前に引き下げていた期待より実態は良い、中国の日本への悪影響を懸念し過ぎたとして、同社以外の輸出関連企業の株価も上昇しました。

また、中国関連ということでは、10/21(水)に発表された9月の外国人訪日客数が、前年比46.7%と引き続き高い伸びであった(中国からの来日客に限ると99.6%増)ことが、市場に安心感を与えた点も無視できません。

このように、日米ともに、あらかじめ低くしてしまったハードル(高めてしまった懸念)に比べ、実態はそれほど悪くはなかった、ということが、株価上昇の主因であったのではないでしょうか。

この他の材料としては、まず為替絡みでは、米財務省の半期為替報告書が、10/19(月)に公表されました。マスコミの取り扱いが少ないように感じられますが、日本については「金融政策や(それが招く円安による)輸出主導の経済成長に、過度に頼ることを避けるべきだ」と記されており、米国が引き続き米ドル高・円安に対する警戒感を持っていることが示されました。

また10/21(水)に発表された、日本の9月の貿易統計では、輸出数量が前年比で36.9%減少しており、円安による輸出数量増のメリットが全くないことが、引き続き明確になっています。

Next: たとえ日銀緩和がなくとも――敬意を払うべき麻生発言


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たとえ日銀緩和がなくとも――敬意を払うべき麻生発言

こうした状況の中、先週(10/18付)の当メールマガジンでは、「敬意を払うべき麻生発言」とのタイトルで、「麻生財務相は、10/16(金)に放映されたNHKのインタビューで、『多分、日銀の方も今すぐさらに金融緩和というのではない』と述べました。また追加緩和について『今、お金は余っており、むしろ需要が足りない』と、追加緩和しても効果がないのでは、と示唆しました」と紹介しました。

麻生財務相は、加えて、10/23(金)の閣議後の会見で、「金融政策でやれる範囲は限られている」と繰り返しています。

こうした種々の動きを合わせて考えると、どう考えても10/30(金)の日銀の金融政策決定会合では追加緩和があるとは見込みにくいのですが、それでも緩和だ緩和だと、叫ぶ向きは後を絶たないようです。

金融政策という面では、中国が10/23(金)の日本時間夜に利下げと預金準備率の引き下げを発表しました。もし市場が、この金融緩和が中国経済を支える効果が大きいと考えているのであれば、原油価格が上がりそうなものですが、実際にはWTI原油先物は、1バレル45ドル台から44ドル台に軟化しています。

つまり、世界市場が、中国の金融緩和を好材料として手放しで好感している、ということではなく、これでも中国経済自体はまだ悪化が止まらないのではないか、との懸念がぬぐえていないことが表れていると言えるでしょう。

この点でも、先週は、「世界緩和バンザイ」相場では全くなかった、と推察されます。

日銀会合後の「失望売り」をチャンスにするか、狼狽するかの分かれ道

今週(10/26~10/30)は、まず10/27(火)~10/28(水)に、FOMC(米連邦公開市場委員会)が開催されます。今月上旬に発表された雇用統計が弱かったため、今週利上げを強行するには説得力が弱く、連銀としては12月まで待って、雇用統計の数値が回復することをもって、利上げを行なう方針だと見込まれます。

10/30(金)の日銀の金融政策決定会合では、従来から当メールマガジンで主張し続けている通り、追加緩和はないものと見込まれます。

それが極めて短期的には、国内株価や円相場の波乱を起こすことはあるでしょうが、前ページで解説したように、現在の世界市場が緩和期待だけで動いているわけではなく、日米の企業収益が予想よりは良い、という点が大きな要因となっていますので、追加緩和の見送りが、国内株価や円相場の基調を覆す、という展開にはならないでしょう。

今週は、米国の決算発表がまだ残っており、日本では発表が本格化します。そうした企業収益の底固さを慎重に確認しつつ、先週の株価上昇の反動なども交えて一本調子ではないでしょうが、日米等主要国の株価は二進一退の上昇を持続するものと予想しています――


好評配信中の『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』10月25日号では、この続きとして、より詳細な今週のマーケット展望を掲載。米FOMCや日銀会合を控えたいま投資家が押さえておきたいポイントを重点的に取り上げています。

「日銀緩和の有無」だけを煽る専門家に注意を

「量的緩和による株高」は幻想だ(緩和なしでも株高基調は変わらない)

「日銀の追加緩和がなかった」あとの正しい投資行動とは?

一本調子ではないものの、明るい方向を目指す相場

既に米国のベースマネーは対前年で減少しているが、何も起こっていない

今だからこそ知っておきたい、企業収益「サプライズ」の正しい解釈とは?

今年の夏の世界的な株価下落をみごと的中させた馬渕治好氏は、決して弱気一辺倒のアナリストというわけではありません。そんな馬渕氏の「相場は実態に沿った明るい基調へ」との見解には一読の価値があります。

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馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』(2015年10月25日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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