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明らかに調整局面入りした米国市場、FOMC「利上げ」路線に変化はあるか?=近藤駿介

17日のNYダウは前週末比507ドルと大幅下落、終値は2万3,592ドルと3月下旬につけた今年最安値に迫りました。いよいよ注目されるのは今週のFOMCと利上げの行方です。(『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』近藤駿介)

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プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。著書に、平成バブル崩壊のメカニズムを分析した『1989年12月29日、日経平均3万8915円』(河出書房新社)など。

想定通りに「利上げ」実施か。先送りなら世界に混乱をもたらす…

主要3指数がそろって「調整局面入り」

クリスマスと年末が迫り、株式市場の動きも慌ただしくなってきた。

7日の大幅下落を受けて始まった株式市場は、一旦落ち着きを取り戻す様な動きを見せたものの、週末には再び500ドル近い急落を見せるなど不安定な動きを見せている。トランプ政権がスタートした2017年のNY株式市場は、高まるトランプ政権に対する批判とは反対に株価は安定的に上昇し、Historical Volatility(以下ボラティリティ)は低位安定する展開であった。2016年の平均が11.8%であったNYダウのボラティリティは2017年には平均6.5%まで大幅に低下した。

しかし、2018年に入るとボラティリティは急上昇し、先週末までの平均は14.8%となっている。また、先週末時点のボラティリティは22.4%と、2018年の平均を大きく上回っている。こうしたボラティリティが高い状況は10月末から2か月近く続いている

ボラティリティの上昇と共に株式市場は上昇トレンドから外れ、NYダウS&P500の上昇率は昨年末比でマイナス、ナスダックも昨年末比+0.1%と上昇分をすべて吐き出した。そして、主要3指数はすべて高値から10%以上下落し、いわゆる「調整局面入り」する結果となった。主要3指数が揃って「調整局面入り」するのは2016年3月以来の出来事だ。

リスクに慣れてしまった米国市場

2018年に入り株式市場の動向が大きく変化したのは、2017年の相次いだ懸念材料をエネルギーに変える形で株価が上昇し続けたことで、リスクに対する警戒準備が薄れていったからだと思われる。大きな価格変動に見舞われた2018年の2〜4月を除くと、NY株式市場は堅調に推移し、10月には史上最高値を更新していた。

こうした堅調な株価上昇によって、投資家の多くは株価上昇の裏で起きている投資環境の変化に鈍感になっていった。2017年中、長期金利とドル指数は共に低下傾向を示していた。つまり「長期金利低下、ドル安」という米国経済にとって追い風が吹いていた。

しかし、2018年に入るあたりからこうした流れは「長期金利上昇、ドル高」に変化して来ていた。本来ならばこうした投資環境の変化に投資家は敏感に反応するはずなのだが、トランプ政権誕生以降指摘された様々な政治、外交リスクをものともせずに上昇してきた「トランプ相場」を目の当たりにしてきた多くの投資家の眼に、債券と為替市場の流れの変化も乗り越えられるリスクにしか映らなかったとしても仕方のないことだといえる。

Next: 10月から不安定になった米国市場、明らかに「調整局面」に入った



無視できなかった米中対立リスク

2017年のトランプ大統領は、レーガン政権以来の「トランプ減税」に多くのエネルギーを費やしてきた。つまり、米国内、米国経済に向けられたトランプ大統領のエネルギーを株式市場は好感してきた。

ところがトランプ大統領のエネルギーは2018年に入り貿易交渉、そして米中貿易戦争へと「国外」に向けられてきた。これに伴って、2017年時点では北朝鮮という限られた国との対立が、同盟国であるはずのEUや隣国であるカナダとメキシコ、そして最大の貿易取引相手である中国と対立が広がり、深刻さを増したことで株式市場にとって無視しえない懸念となってしまった。

投資環境が「長期金利上昇、ドル高」に転じていた中でのこうした懸念の高まりが、株式市場を不安定な動きに転じさせたと思われる。

米国市場に広がる動揺

株式市場に米中貿易戦争に対する懸念が高まっていくことを認識していたのか、トランプ大統領は株式市場の動きが不安定になると米中貿易交渉が上手く進んでいるかのような情報を提供することで株式市場の動揺を抑え込む手法を取ってきた。

10月に入り株式市場が不安定な動きを見せると、11月末のG20で米中首脳会談を開催することを発表するなどして、米中の話し合いが進んでいるかのような情報をだすことで、株価の安定を図ろうとしていた。

実際に12月1日の米中首脳会談で米国が関税引き上げを90日間猶予したことを株式市場は好意的に受け止めた。しかし、その直後に明らかになったのは、90日という猶予期間のスタート日が、米国が追加関税を課すことを決めていた2019年1月1日ではなく、米中首脳会談が行われた12月1日であり、期限は2019年3月31日ではなく3月1日であることが明らかになったことなど、米中首脳会談の進展に対する多くの疑問が出て来たことで、株式市場は過剰な期待を抱き過ぎたことに気付かされたことになった。

こうした状況下で株式市場は、その直後ファーウェイの会長兼CFO孟晩舟逮捕の報道によって、米中貿易戦争の深刻さが90日といった短期間で解決できるような代物でないことを突き付けられる格好となった。

好材料にも反応なし。ついに「調整局面入り」へ

先週には中国が「中国製造2025」の見直しと、米国による関税引き上げの報復措置として米国からの輸入車に課していた40%の関税を15%に戻すことを表明したが、株式市場はこれまでのような反応は示さなかった。それどころか、週末に大幅下落することになった。

これまで中国側からの譲歩を好感してきた株式市場が、こうした報道に反応しなくなってきたことは株式市場が「調整局面入り」したことを示しているといえる。

Next: 想定通りに「利上げ」実施か。先送りなら世界に混乱をもたらす…



想定通りに「利上げ」実施か

株式市場が「調整局面入り」するなかで、今週19日・20日にFOMCが開催される。市場では25bpの利上げを76%ほど織り込んでいる(CME FedWatchベース)。

言い換えれば23.4%が現状維持を見込んでいるわけだが、今週株式市場が急落でもしない限り、利上げは既定路線だと思われる。むしろ、FRBは「漸進的利上げ」を終えるためにも、早くFFレートを2.25〜2.50%に持っていきたいと考えていると思われる。

それは、9月のFOMCで「当局者15人が提出した中立金利の予測は2.5〜3.5%」であることが示されると同時に「緩和的」との文言を削除したことでわかる。

FRBが2.5〜3.5%が中立金利だと見なしている中で、仮に今週のFOMCで利上げを先送りしたとなると、FRBは「緩和的」な金融政策を維持していることになり、9月FOMCでの表明と矛盾が生じてしまうことになる。

こうした矛盾した政策を採用する決断を下すにあたっては、合理的な説明が必要になる。FRBは日銀ではないので、矛盾した政策を詭弁で乗り越えることは難しいし、世界の金融市場に混乱をもたらしかねない

逆に、FFレートを2.25〜2.5%に引き上げてしまえば、その先政策金利の引き上げを見送ったとしても「中立金利の状態を動かす必要がない」の一言で説明が済ませることができる

11月に入ってからのFRB高官の発言は明らかに「ハト派」に振れて来ており、政策金利引き上げの1回目のゴールは近いところにある。つまり、12月の予定通りの利上げは、近い将来「漸進的利上げ政策」にブレーキを掛けたい、少なくともこれまでの「漸進的利上げ政策」の効果を確認したいFRBにとっては必要が儀式だといえる。

2019年以降の「利上げ」方針は…

先週、FOMCの投票権を持つメンバーのなかで最も「ハト派」と目されているブレイナード理事は講演のなかで「漸進的利上げは『短期的』には依然適切だ」という発言をしている。

これまで「短期的」という表現をしてこなかったブレイナード理事がわざわざこの文言を追加したことは、この12月の利上げまでは適切であると見なしているが、その後の利上げは不明という態度を示したものだと思われる。

さらに、FOMCの投票権を持つメンバーで最も「ハト派」であるブレイナード理事が12月の利上げを適切だと発言したということは、彼女よりは「タカ派的」立場にあるその他の投票権メンバーを含めてコンセンサスが取れていると考えるべきだと思われる。

週初によほどの株価下落に見舞われない限り、今週はFOMCの利上げが実施されると考えるべきである(※編注:FOMCは18日・19日に開いた定例会合で、今年4度目となる利上げを発表。2019年の利上げ予測は2回に減少しました)。

Next: 不確実要因が強過ぎる。2019年の投資戦略は今週のFOMC次第



不確実要因が強過ぎる

クリスマス休暇週間に入り、新年を迎えるこの時期、資産運用の分野では新年度のアセットアロケーションを検討する重要な時期にある。

しかし、足元の状況は、金利、貿易戦争等々、アセットアロケーションを決めるのは不確実要因が強過ぎる。少なくともFOMCの結果を確認する前に決定されることはないはずである。

足元の株式市場が不安定な動きを見せているのは、アセットアロケーションを組んで運用する長期投資家が動かないからである。それゆえに短期的な動きを繰り返すディーラーや投機家達によって価格が決められている。

年が変わり長期投資家が市場に戻ってくるまで、こうした状況が続くということは想定しておいた方がよさそうだ。

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元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』(2018年12月17日号)より一部抜粋
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