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米国からの逆風に沈む日本、2019年「アベノミクスの後遺症」との戦いのゴングが鳴る=近藤駿介

日本株急落の原因を米国市場ほか外的要因のみに求めることはできない。2019年の日本は、「異次元の金融緩和」という劇薬による「副作用」を心配する段階を超え、劇薬投与を止めた後も長く「後遺症」に見舞われることを心配しなければならない段階に差し掛かって来ている。(『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』近藤駿介)

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プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。著書に、平成バブル崩壊のメカニズムを分析した『1989年12月29日、日経平均3万8915円』(河出書房新社)など。

2019年の日本経済は「外需」と「内需」の両面から逆風を受ける

日本株急落は米国市場のせいだけじゃない

2018年のクリスマスにトランプ大統領から日本に届けられたプレゼントは、トランプ政権に対する懸念による株価急落だった。24日にNYダウが653ドル下落したことを受けた25日の東京株式市場は1日で1,000円を超える下落となり、1年3ヵ月ぶりの日経平均株価2万円割れだった。

トランプ大統領が大統領選で勝利をおさめてから501営業日のうち103回も史上最高値を更新してきた「トランプ相場」に急ブレーキがかかり、クリスマス休暇直前の4営業日だけでNYダウが1,883ドル、率にして▲8.0%の大幅下落に見舞われたことが日本株下落の直接的な要因となった。

しかし、日経平均株価が2万円割れを起こした原因を全て米国に求めるのは見当違いである。むしろ、日本株の株価下落の原因を、常に米国を中心とした海外に求めるという日本的考え方が日本の株式市場の脆弱性を増す要因になっている。

「震源地」よりも大きく下げる日本株

米国株式市場は10月以降調整色を強め、それまでの上昇分をすべて吐き出しだけでなく12月24日時点での昨年末比騰落率はNYダウ▲11.8%ナスダック総合指数▲10.3%と2桁のマイナスに転じている。

これに対して12月25日時点での騰落率は日経平均株価同▲15.9%東証株価指数(TOPIX)同▲22.1%と、「震源地」であるはずの米国市場を上回る下落となっている。

日本の株式市場が「震源地」である米国市場を上回る下落に見舞われているのは、日本の株式市場の方が脆弱であることの証明である。

2019年、アベノミクスの副作用から「後遺症」へ

日本の株式市場の脆弱性は「アベノミクスの副作用」によって日々高まって来ている。

これまでも2%の物価安定目標を達成する目途も立たない「異次元の金融緩和」に対して、銀行収益の悪化や国債市場の流動性低下、金融市場の価格発見機能の喪失など「副作用」に関する懸念が取り沙汰されてきた。

しかし、2019年の日本は、「異次元の金融緩和」という劇薬による「副作用」を心配する段階を超え、劇薬投与を止めた後も長く「後遺症」に見舞われることを心配しなければならない段階に差し掛かって来ている。

Next: 米国からの追い風が「逆風」に変わる。日本が絶対に避けるべきこととは?



米国からの追い風が「逆風」に変わる

株式市場が低迷するなかで専門家の多くは「ファンダメンタルズは悪くない」「PER(株価収益率)面から株価は割安」という強気のコメントを出し続けている。

重要なことは、これまで日本経済のファンダメンタルズが好調だったのは、堅調な米国経済と株式市場から追い風が吹きこんでいたからである。

しかし、早ければ2019年の1月下旬にも米国からの追い風は逆風に変わる可能性がある。

日米貿易摩擦が火を吹く

米通商代表部(USTR)は12月21日に日米貿易交渉に向けて、通貨安誘導を封じる為替条項をはじめ、農産品や自動車における関税非関税障壁の削減など22項目の交渉目的を発表した。

この非関税障壁や為替条項を含めた米側の交渉目的発表が明らかにしたたことは、日本政府が2018年9月末の日米首脳会談で合意した「日米物品貿易協定(TAG)」について、「モノの貿易」に絞ったものであり「サービス貿易」「為替」などを含む「自由貿易協定(FTA)」とは全く異なるとしてきた説明が詭弁だったことだ。

政府が繰り返してきた「TAGとFTAは全く異なる」という説明は、所詮「ハマチとブリは全く異なる」という低次元の詭弁に過ぎなかったということである。

トランプ政権はこれまで韓国、メキシコ、カナダと貿易協定の見直しを行ってきたが、すべての国に「為替条項」を呑ませている。こうした事実と照らし合わせるまでもなく、日米貿易交渉で「為替条項」を強く要求してくることは間違いない。

日本が絶対に避けるべきこと

為替介入を行っていない日本との交渉で「為替条項」の標的になるのが、円安・株高を支えて来た「異次元の金融緩和」である。

円安・株高以外に成果がない「異次元の金融緩和」が日米貿易交渉の標的になるのは日本経済にとって痛手である。「異次元の金融緩和」は実際には日本経済にほとんど貢献していないが、「異次元の金融緩和」に対するトランプ政権からの圧力は日本にとって「応えるのも地獄、拒否するも地獄」といえるものである。

日本として絶対に避けなければならないことは、中央銀行である日銀が米国トランプ政権からの圧力によって金融政策を変更したと見做されることである。現在疑義を持たれている政府からの独立性どころか、他国、米国からの独立性も疑われてしまいかねない事態は、日本経済の将来に大きな禍根を残すことになるからである。

2%の物価安定目標の達成時期を事実上無期限延期するなかでも黒田日銀総裁は「異次元の金融緩和」を粘り強く続ける意思を示し続けて来ており、政策変更をする際には説得力のある説明が求められることになる。

仮に政策変更をする際に黒田日銀総裁が説得力のある説明をできないのであれば、日銀総裁の首を挿げ替える必要が出て来る(もちろん黒田総裁の前任の白川総裁の時のように自発的辞任という形をとることになるが)。

しかし、黒田総裁の辞任は「異次元の金融緩和」の限界を認め、放棄することであるから金融市場に大きな影響を与えることを覚悟しなければならない。

Next: 日米交渉は「応じるも地獄、拒否するも地獄」。2019年の日本はどうなる?



貿易不均衡に対して「数」での調整を迫られる

一方、トランプ政権が「異次元の金融緩和」を通貨安政策だと見做して交渉の標的にした場合、それを拒否する代償もかなり大きくならざるを得ない。

貿易不均衡を解消する手段は、関税や数量規制など直接手段によって「数」を調整するか、「為替」という間接手段によって調整するかのどちらかしかない。

この2つの選択肢のうちの「為替」という間接手段での調整を拒否した場合、米国は日本を「為替操作国」と認定したうえで、「数」という直接手段を受け入れるよう迫ってくるはずである。

それは自動車を中心とした輸出産業に大きな打撃を与えるだけでなく、さらなる産業の空洞化を招きかねないものである。

交渉開始は1月下旬からか

ライトハイザーUSTR代表が米中貿易交渉の責任者を兼ねていることから、日米貿易交渉のスタートは米中貿易交渉期限である3月1日以降だと思われてきた。

しかし、USTRが12月21日に交渉目的を発表したことで、早ければ1月下旬から交渉が始まる可能性が出て来た。

それは、2019年早々にも日本はこうした「応じるも地獄、拒否するも地獄」という状況に追い込まれる可能性があるということでもある。

2019年は「外需・内需」の両面から逆風が吹く

統計上「いざなみ景気」(2002年2月から2008年2月までの73か月間)を超えて戦後最長の景気回復が確実視される日本経済にとって、日米貿易交渉という「外圧」は大きなリスクだといえる。

さらに、10月からは2%の消費増税が控えている。

2019年の日本経済は「外需」と「内需」の両面から逆風を受けることになる。

Next: 消費増税という自爆テロ。2019年は「アベノミクスの後遺症」との戦いになる



海外投資家が投げ売りする日本

ただでさえ、日本の株式市場で7割前後の売買シェアを持つ海外投資家は、2018年12月第2週までに日本株を約5.3兆円売り越している。

日本株を大量に売り越している海外投資家が、「外需」と「内需」の両面でリスクに直面することが確実な情勢の日本株の積極的な買い手に転じることに期待できるだろうか

2018年に海外投資家の5.3兆円に及ぶ売りを吸収して来たのは、「異次元の金融緩和」のもとで年間6兆円を目途にETF(上場投資信託)を購入してきた日銀である。

その日銀がトランプ政権からの圧力によって金融政策の変更あるいは修正を迫られた場合、誰が海外投資家の売りを吸収するのだろうか

残念ながら現時点ではその担い手の顔は浮かんでこない。

「アベノミクスの後遺症」との戦いのゴングが鳴る

「外圧」によって日銀の動きが封じられる可能性が高い中で、消費増税という自爆テロによる逆風を、安倍政権は100兆円を突破した積極予算で跳ね返すことができるのだろうか。

2019年は「アベノミクスの後遺症」との戦いのゴングが鳴る年となりそうだ。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2018年12月27日)
※記事タイトル、本文見出し、太字はMONEY VOICE編集部による

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