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経験則が通用しない12月利上げ~市場の混乱はこうして引き起こされる

日銀の黒田総裁や多くのエコノミストは、米国の利上げについて「米国経済がそれだけ好調である証左で日本経済にもプラス」「数回の利上げまでは株高が維持される」と前向きに評価しています。しかし、今回の過剰流動性相場における利上げでは、これまでとは違う「負の影響」が強く出そうです。(『マンさんの経済あらかると』)

過剰流動性相場での「利上げ」に、過去の経験則は通用しない

楽観論の前提は間違っている

一旦は12月利上げを容認したように見えるFRBのブレイナード理事。イエレン議長の懸命な説得で渋々利上げを容認したようですが、11月6日の講演原稿の中で本音が出ました。

今米国が利上げに出れば、世界経済に甚大な影響を与え、それが米国にも跳ね返る。ゼロ金利の米国は、これに対処する余地が限られる。利上げを見込んだドル高が米国経済を圧迫している。

これに対して、日銀の黒田総裁や多くのエコノミストは、米国の利上げを前向きに評価しています。

つまり、米国経済がそれだけ好調だという証左で、日本経済にもプラスだ(黒田総裁)、米国の利上げ当初は、景気の拡大を反映して株価は上昇を続けるのが一般的で、今回も数回の利上げまでは株高が維持される、といった楽観論が見られます。

しかし、今回米国が利上げに踏み切る場合、これまでとは違う「負の影響」が強く出そうです。上記楽観論の前提がそもそも違うからです。

すなわち、FRBは、米国景気が過熱気味で、これを放置すればインフレになるから利上げをするわけではなく、別の意図をもって利上げに出ようとしている節があります。

現に、米国でインフレを懸念する声はほとんどありません。

米国が利上げを急ぐ「本当の理由」

ではなぜFRBは利上げを急ぐのか。これで利益を得る人々がいるためで、恐らくはユダヤ系金融資本、新保守派(いわゆるネオコン)などです。FRBの背後ではこの国際金融資本が大きな影響力を行使しています。

彼らは利上げで以下のような利益を期待していると見られます。

まず、国際金融資本配下の金融機関や民間株式会社でもあるFRBの利益になります。金融機関は、付利金利の引き上げも含めて、運用利回りが上昇して利益を増やします。FRBもほぼゼロコストのドル紙幣を印刷し、金利のついた資産で運用しているぶん利益が増え、その株主である金融資本の利益になります。しかもFRBは金利という政策の「武器」を取り戻せます

またブレイナード理事が懸念する新興国への影響については、むしろこれを好都合とし、戦略的にこれを使いたいグループがいます。ネオコンなどです。特に、米国の支配力低下、中国の覇権拡大を警戒する彼らは、利上げ戦略を使って中国経済を陥れ、かつてソ連が経済の疲弊から崩壊した状況を中国で再現しようとしています。

これは利上げ以外にもすでに行われています。

例えば、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)は中国包囲網、中国隔離策の一環として利用され、また人民元をIMFのSDR構成通貨に取り込みつつ、資本の自由化、金利自由化で中国金融市場を揺さぶり、米系資本の参入余地を高めることを狙っている節が見えます。

Next: 市場の混乱をむしろ歓迎?過剰流動性相場における利上げの意味とは


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市場の混乱をむしろ歓迎?

さらにユダヤ系のグループは、世界経済の混乱を利用し、そこから彼ら本位の新しい経済秩序を構築したいと考えています。

これは中東の混乱の末に、ユダヤの秩序を構築したいイスラエルの右派グループなどの行動に同様の現象が伺えます。新しい秩序を作るうえで、一旦は混乱が必要と考えます。利上げによる新興市場などの混乱は彼らには必要な過程です。

過剰流動性相場における「利上げ」の意味

利上げの影響が従来と異なるのは、昨今の世界経済が、世界規模の金融緩和を前提に成り立つ流動性相場、高度負債経済にあることです。

株式市場は業績相場ではなく、明らかに金融相場、流動性相場です。米国の景気指標が悪化すると、利上げ遅延、緩和継続期待で株価が上昇するパターンが象徴しています。米国の利上げはこの前提を崩します。

また、中国の総債務はGDPに対して300%前後に高まり、新興市場ではこれまで主要国の緩和マネーを活用して成長し、債務を拡大してきました。債務の拡大が可能な間は成長が維持できますが、債務を増やせなくなると、成長は止まります。バブル崩壊後の日本では民間債務の圧縮のもとで長期景気後退が起こりました。

欧州でもリーマン後の民間債務圧縮で経済危機が起こり、これを政府が肩代わりして債務を拡大した結果、今度はソブリン危機に陥りました。日本はソブリン危機には至らずとも、赤字の拡大で財政の機動的な対応ができなくなりました。米国の利上げは、これら債務の拡大を困難にする形で、世界経済を圧迫します。

日本にも多大な影響

こう見ると、ブレイナード理事の懸念に現実味があります。FRBの利上げによる返り血を浴びる米国自体に、それを吸収するだけの体力がなく、政策的な対処手段が限られます。

さらに、中国経済の混乱は、周辺のアジア諸国に跳ね返り、アジア全般の経済不振を招きます。輸出の半分をアジアに依存する日本は、米国以上に大きな影響を受ける面があります。

そうなると、利上げは日本にもプラスどころではなくなり、株価も下落リスクが高まります。米国の利上げによる副作用を日銀やECBがカバーするうえでは、ドル高が大きな制約になります。これ以上のドル高を煽る日銀の追加緩和はすでに困難になっています。米国にも負担が大きくなりますが、ネオコンを多く抱える共和党は、劣勢挽回、民主党の経済政策批判にも使えます。

過去の経験則は通用せず

12月にFRBが利上げに出るとすれば、近年にない形での利上げになり、過去の影響パターンは参考になりません。

巨大な流動性に支えられた金融資本市場や、新興市場にはかつてない大きな負担がかかりますが、これは現在のFRBにとって、利上げを思いとどまる要素になりにくくなっています。

FRBが予定通り、そして確信犯的に2度、3度と利上げを続ければ、世界経済はそれだけ苦しみます。そこでは金利差からの円安ではなく、リスクオフの円高が重なって日本株が大きく下落するリスクがあります。米国の利上げには細心の注意とリスク管理が必要と考えます。

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マンさんの経済あらかると』(2015年11月9日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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