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中国は沈むのか?昇るのか?米国vs多極主義陣営の戦いが示す未来=北野幸伯

多くの日本企業や欧米の金融機関が中国から逃げ出す一方、人民元がIMFのSDR構成通貨入りを果たすなど、「沈む中国」と「昇る中国」2つの動きが同時進行しています。どちらが本当の中国なのでしょうか?『ロシア政治経済ジャーナル』を発行する国際関係アナリストの北野幸伯氏が解説します。

「沈む中国」と「昇る中国」2つの動きが同時進行する理由

「昇る中国」はまぼろし?人民元のSDR構成通貨入り

最近最大のニュースといえば、これでしょう。

(ブルームバーグ):国際通貨基金(IMF)は中国の人民元を特別引き出し権(SDR)の構成通貨に加えることを正式決定した。これまで欧米・日本が支配してきた世界の経済システムに中国が仲間入りすることにお墨付きを与えた格好。

188カ国が加盟するIMFは30日に理事会を開き、人民元は「自由に使用可能である」という基準を満たしていると判断。ドルとユーロ、ポンド、円に加わってSDRを構成することを認めると声明で発表した。ラガルド専務理事は11月13日、IMFのスタッフが提案したSDR構成通貨への人民元の採用を支持したことを明らかにしていた。

出典: IMF:人民元のSDR構成通貨採用を承認-国際通貨の仲間入り(1) – Bloomberg 12月1日(火)3時33分配信

これは、「人民元」が立派な「国際通貨」になったことを意味しています(少なくとも「名目上」は)。そして、中国は「覇権に一歩近づいた」とも言えるでしょう。

ところで、当メルマガは、「中国は沈みつつあるタイタニックだ」という話をしています。まず「日本の大企業が逃げ出している例」として、

を挙げました。
ある理由で中国から逃げ出した日本の大企業一覧 – まぐまぐニュース!

また、「米の金融機関が中国から逃げ出している例」として、

ことを挙げました。
人民元が主要通貨になっても、「国際金融資本」は中国を見捨てる – まぐまぐニュース!

これらは、「中国が沈んでいること」を示しています。一方で、「人民元がSDRの構成通貨に採用された」のは、明らかに中国が浮上している例です。「沈む中国」「昇る中国」どっちが真実なのでしょうか?

ドル基軸体制への挑戦~冷戦終結後、欧州がアメリカに反逆

現状を理解するため、過去にさかのぼってみましょう。

1991年12月、ソ連が崩壊した。このことは欧州にとって、2つのことを意味していました。

  1. 東の脅威(ソ連)が消滅した
  2. もはやアメリカの保護は必要ない

そして、欧州のエリート達は、大きな野望を抱きます。

欧州がもう一度世界の覇権を握ろう!

方法は2つありました。

  1. EUをどんどん東に拡大しよう
  2. ユーロをつくり、ドルから基軸通貨の地位を奪おう

基軸通貨」とは、別の言葉で「世界通貨」です。

アメリカは、当時から世界一の「財政赤字国」「貿易赤字国」「対外債務国」だった。しかし「世界通貨の発行権を持つ」アメリカは、いくら借金しても「刷るだけ」で返済できる。

欧州は、アメリカから、この「特権」を奪おうとしたのです。

欧州エリートは、上の戦略に従って、EUをどんどん東に拡大。そして1999年「ユーロ」が誕生します。この時点で、ユーロは、まだドルの敵ではありませんでした。「欧州の地域通貨」に過ぎなかった。

ところが、2000年9月24日、「裏世界史的大事件」が起こります。イラクのフセイン大統領(当時)が、「原油の決済通貨をドルからユーロに変える!」と宣言したのです。そして、同年11月、実際かえてしまいました。

それまで、石油取引は「ドル」でしかできなかった。フセインは、この体制に「穴」を空けた。フセインがその後どうなったか、皆さんご存知です。

ことを理由に攻撃され、処刑されました。

ところで、フセインの後ろには、「黒幕」がいました。フランスのシラク大統領(当時)です。戦いは第2幕に移っていきました。

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フランス、ドイツ、ロシア、中国~「多極主義陣営」の形成

フランスのシラク大統領(当時)は、同じ野望をもつシュレイダー首相(当時)と共に、イラクのフセインを守ろうとしました。

具体的には、02~03年にかけて、「イラク戦争」に反対したのです。これに同調したのが、プーチン・ロシアと、中国でした。フランス、ロシア、中国には、

  1. 国連安保理で「拒否権」を持つ「常任理事国」である
  2. イラクに石油利権を持つ

という共通点がありました。

彼らは国連安保理で一体化し、アメリカの戦争に「お墨つき」を与えなかったのです。アメリカは「ドル体制を守るため」に、国連安保理を無視してイラク攻撃を開始しました(03年3月20日)。

この時、「アメリカ一極主義」に対抗する勢力、すなわち「多極主義陣営」が形成されました。核になったのは、フランス、ドイツ、ロシア、中国です。

戦いの舞台は、イラクから旧ソ連圏へ

「アッ」という間にイラク政権を打倒したアメリカ。イラク原油の決済通貨を「ユーロからドル」へ戻し、一安心(しかし、イラク戦争は、その後も長期にわたってつづいた)。

次に狙いをつけたのが、ロシアと旧ソ連圏でした。アメリカとロシアは03年から、

などなどで、対立を繰り返します。

ロシアは05年、中国との(事実上の)「反米同盟結成」を決意。上海協力機構を「反米の砦化」することで、「アメリカ一極主義」に対抗していきます。

さて、アメリカとロシアの対立はその後もつづき、結局08年8月「ロシア-グルジア戦争」が起こりました。グルジアは当時、親米傀儡のサアカシビリ大統領。この戦争の結果、グルジアは、「アプハジア」「南オセチア」を失いました。

ロシアは、この2つの自治体の独立を承認したのです。

「多極主義陣営」の大戦略は「ドル体制崩壊」にあり

さて、1999年のユーロ誕生からはじまった戦い。「多極主義陣営」は、

  1. アメリカ、強さの源泉は、「ドル基軸通貨体制」にある
  2. ドル基軸通貨体制」をぶち壊せば、アメリカは没落する

ことを「常識」として共有していました(います)。それで、「意図的」にドルへの攻撃を行ってきたのです。アメリカは、イラク原油の決済通貨をドルに戻すことに成功しました。

しかし、「ドル離れ」の動きは、止まるどころか、ますます加速していったのです。例をあげましょう。

これが「リーマン・ショック」直前に世界で起こっていたことです。

「アメリカ不動産バブル崩壊」
→「サブプライ問題顕在化」
→「リーマンショック」
→「100年に1度の大不況」

というのも、もちろん事実でしょう。しかし、一方で、「多極主義陣営からの攻撃で、ドル体制が不安定になっていたこと」も危機の大きな原因なのです。

そして、中国が「人民元の国際化」を進めていく(IMFのSDR構成通貨になるのもその一環)。これは覇権を目指す中国として、当然のことなのです。

沈むアメリカ、昇る中国

さて、08年8月の「ロシア-グルジア戦争」は、短期で終わりました。理由は、翌9月に「リーマンショック」が起こり、「100年に1度の大不況」がはじまったこと。米ロは和解し、いわゆる「再起動の時代」がやってきます。

さて、この「100年に1度の大不況」。ロシアでは「歴史的大事件」と解釈されています。なぜか?

アメリカ一極時代が終焉した」から。

では、09年から、世界は「何時代」に突入したのでしょうか?ロシアでは、「多極時代になった」と言われます。しかし、現実には「米中二極時代」でしょう。

しかも、二極のうちアメリカは沈んでいき、中国は昇っていく。実際、不況が最悪だった09年10年、中国は9%台の成長をつづけた。まさに「一人勝ち状態」でした。(正確にはインドと二人勝ち)。アメリカの影響力は、ますます衰え、中国の影響力は、ますます拡大していく。

Next: 人民元のSDR構成通貨化を止められなかったアメリカ


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人民元のSDR構成通貨化を止められなかったアメリカ

さて、過去を振り返り、ある程度流れが理解できたでしょう。

私たちは、「常に一体化している」という意味で、「欧米」と言います。しかし、冷戦終結後、欧州はアメリカに反抗的でした。むしろ、「反米多極主義陣営」をフランスが率いていた時期すらある。

そして、私たちは、「米英」という言葉を使います。「アメリカとイギリスは、いつも一緒」という意味で。ところが、この用語すら、いまでは「不適切」になっている。

たとえば2013年8月、オバマは、「シリアを攻撃する!」と宣言しました。イギリスのキャメロン首相はこの決定を支持した。しかし、イギリス議会はこの戦争に反対したのです。

フランスも反対に回り、オバマは孤立。シリア戦争を「ドタキャン」せざるを得ない状況に追い込まれました。

2015年3月、「AIIB事件」が起こりました。イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、イスラエル、オーストラリア、韓国など「親米国家群」がアメリカを裏切り、中国主導「AIIB」への参加を決めた。アメリカは、欧州やイスラエル、オーストラリア、韓国の裏切りを止めることができませんでした。

そして、今回「人民元をSDR構成通貨にする」件。アメリカは、やはり止めることができなかったのです。

ちなみに、主要な「国際金融機関」は2つあります。

1つは、国際通貨基金(IMF)。もう1つは、世界銀行

そして、IMFのトップは、いつも「欧州人」。

世界銀行のトップは、いつも「アメリカ人」。

今回のIMFの決定は、アメリカ一極支配をぶち壊したい欧州が主導。アメリカは、「同意せざるを得ない立場」におかれてしまったのでしょう。

2つの動きが同時に進行している

このように、中国の影響力が強まる動きが起こっています。そして、

欧州が、中国パワーの拡大を後押ししています。

しかし、一方で、「中国経済は、沈みゆくタイタニック」というのもまた事実。「昇る中国」と「沈む中国」。この2つが同時に起こっている。これは、「国家ライフサイクル」で言う、「成長期後期」の特徴なのです。

【関連】「イラクの米国離れ」~なんとアメリカとの安全保障条約を破棄へ

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ロシア政治経済ジャーナル』(2015年12月2日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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