「イスラム国」やシリア反政府勢力を攻撃し、アサド政権を支援するロシア・プーチン大統領。その狙いは原油のドル決済(ペトロダラーシステム)に代表される、戦後の米ドル基軸通貨体制の打倒にある――ロシア在住歴25年の国際関係アナリスト・北野幸伯氏が解説します。
ロシア・プーチンによる米ドル基軸通貨体制への挑戦
シリア問題の行き着く先は?「ありえるシナリオ」を検討する
ロシアによるシリア・イスラム国攻撃の真剣度が増してきました。空爆だけでなく、海軍も攻撃を開始しています。
プーチンらしいやり方です。
米軍は、1年以上もイスラム国を空爆しつづけ、まったく何の効果もありませんでした。むしろイスラム国の支配地域は拡大し、シリアのアサド政権をおびやかすようになってきた。
それでロシアは、「アメリカは、イスラム国をアサド打倒のために利用している」と見ているのです。一方ロシアは、「中東の事実上の同盟者アサドを守る」という目的がはっきりしているので、ガンガンやっています。
さて今回は、「こうすればプーチン、アメリカにとどめを刺せるよね」という方法について。もちろん、私の空想です。
空想ですが、「ありえるシナリオ」でもあります。
私自身は、アメリカの完全没落を願っていません。対中国で日本が困ることになるからです。世界経済もメチャクチャになるでしょうし。
第1段階:プーチンは短期間で「イスラム国」を掃討する
圧倒的残酷さで、「世界共通の脅威」になった「イスラム国」。米軍は「ダラダラ」空爆を1年もつづけ、何の結果も出ていない。「本気で勝つ気あるの?」と疑いたくなるのは、ロシア人だけではないでしょう。
プーチンは、世界共通の敵「イスラム国」を3~4ヶ月で壊滅させ、世界の英雄になります(※この「なります」は、予測ではなく、「なりたいです」という意味です。いまお話ししていることは、私が「プーチンの脳内で起こっている」ことを想像しているのです)。
第2段階:プーチンは、アサド政権を守る
ロシアはイスラム国と同時に、シリアの「反アサド派」を攻撃している。それで、シリア国内から「反アサド勢力」は一掃され、アサド政権が盤石になります(プーチンは盤石にしたい)。
第3段階:プーチンは、シリア、イランとサウジアラビアを和解させる
「中東」というと、「みんなイスラム教徒」というイメージですが、シーア派とスンニ派が争っています。もっと言うとシーア派のイランと、スンニ派のサウジアラビアを中心とする争い。
プーチンは、そのイランとサウジアラビアを和解させます。
「不可能だ!」と思いますね。しかし、最近事情が変わってきているのです。というのは、今年7月、アメリカはイランと和解しました。
イラン核問題の包括的解決を目指し、ウィーンで交渉を続けてきた6カ国(米英仏露中独)とイランは14日、「包括的共同行動計画」で最終合意した。イランのウラン濃縮能力を大幅に制限し、厳しい監視下に置くことで核武装への道を閉ざす一方、対イラン制裁を解除する。2002年にイランの秘密核開発計画が発覚してから13年。粘り強い国際的な外交努力によって、核拡散の可能性を減じる歴史的な合意となった。
これに衝撃を受けたのがサウジとイスラエルです。「アメリカに見捨てられた!」と感じている。それで彼らは、ロシアに接近しはじめている。
なぜアメリカは、イランと和解したのでしょうか?
「シェール革命」で、天然ガス生産でも原油生産でも世界一に浮上したアメリカ。「自国にたっぷり資源がある」ことを理解したアメリカにとって、(資源たっぷりの)中東の重要性が薄れたのです。
それで、ロシアが中東で影響力を拡大できる条件が整っている。「でも、ロシアは中東で影響力を拡大してどうしたいの?」それは次のページで。
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