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日韓対立、説明不足で日本が負ける?経済的には有利だが、歴史問題が絡むと非難殺到=高島康司

日韓対立で日本経済にも実害が出ている。とはいえ、よりダメージを受けるのは韓国経済だ。経済的には日本有利だが、歴史問題が絡むと日本に不利に展開する可能性が高い。(『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』高島康司)

※本記事は有料メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』2019年8月2日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

日本より韓国経済に大打撃。ただし歴史問題が絡むと日本が敗北?

日本には不利な情勢か?

日韓対立に関する国際世論の動向について解説する。歴史問題が絡むと、状況は日本に不利に展開する可能性が高い。

一向に落としどころの見えない日韓の対立だが、次第に日本にとっても実害を及ぼしつつある。韓国は今回の日本の処置に強く反発し、以下のような点で日本にも影響が及んでいる。

<実害その1:日本産ビールの影響>

日本のビール大手各社は韓国内でのテレビCMの放送を見合わせ、小売業界は販売減に直面している。

アサヒグループホールディングス(HD)とキリンHD、サッポロHDの大手3社は、7月上旬から韓国内でのテレビCMを中止している。輸出規制強化を契機に韓国ではビールなどの日本製品の不買運動が拡大。サッポロHD広報室は「反日感情を考慮した」と説明し、CM再開のめどは立っていないという。あるメーカーではビール輸出や出荷の計画に影響が出ている。

<実害その2:ユニクロの影響

また2005年に韓国へ進出し、カジュアル衣料品店「ユニクロ」を180店超展開するファーストリテイリングへの影響も大きい。岡崎健最高財務責任者(CFO)は「足元で売り上げに影響が出ている」と指摘し、今後の動向を注視すると話している。

<実害その3:訪日旅行者への影響

さらに日韓の対立は、拡大を続けてきた訪日旅行者数にも影を落としているようだ。JTBでは16日からの1週間、予約サイトを通じた韓国からのホテル予約数が前週比で1割程度減ったことを明らかにした。また韓国の格安航空会社(LCC)が、熊本、佐賀、大分路線を減便することも公表された。

また韓国の格安航空会社(LCC)のティーウェイ航空は9月から、熊本・大邱間や佐賀・釜山間などの国際定期便を運休することを明らかにした。さらに大韓航空も、再来月から札幌と南部釜山を結ぶ便を運休すると明らかにした。

このためすでに小売業界からは「訪日客が減ると国内消費が冷え込み、間接的な影響が出るかもしれない」(百貨店大手)と懸念する声も上がっている。 

<実害その4:日本製品の不買運動と挙国一致体制

こうしたなか、韓国では日本製品の不買運動が草の根で拡大しており、日本製品の売上にも影響しそうだ。それとともに、日本の輸出規制に対する政府主導の挙国一致体制の準備も進んでいる。

韓国のムン・ジェイン大統領と与野党5党の代表が18日の会談で確認した「非常協力機構」を具体化したもので、与野党が29日に正式合意した。発表によると、各党幹部のほか、政府から経済副首相や外相ら、民間からは労使の団体トップらが参加する。31日の初会合では、輸出管理厳格化に伴う韓国経済への打撃などについて議論する見通しだ。

このように、安倍政権がいわば引き上げを引いたかっこうの輸出規制を巡る日韓の対立は、経済的な実害が顕在化する方向に急速に動いている。

Next: 日本より韓国経済に大打撃。ただし、歴史問題が絡むと日本が負ける?



日本の計算された動き

一方、今回の動きは安倍政権による周到な計算に基づいているので、日本よりも韓国経済に大きい影響をもたらすという評価も多い。

CIAが最大のクライアントであり、共和党政権には一定の影響力のあるシンクタンク、「ストラトフォー」の記事には以下のようにある。

今回の日本の動きは、韓国に最大の影響力を与えるように日本が注意深く計画したものだ。韓国に対する日本の黒字は230億ドルに上る。韓国の輸出は対前年比で13.5%も落ちている。特に半導体輸出の落ち込みは大きい。米中貿易戦争の影響で、25.5%も下落した。7月2日には韓国政府は、今年度の経済成長率を0.2%下方修正し、2.4%とした。日本が韓国をホワイトリストから除外すると、韓国経済への影響は一層深刻なものとなる。

「ストラトフォー」の記事はこのように述べ、日本の処置は韓国経済への影響のほうが大きいとしている。そして、次のように述べ、これが日本の周到な計算であることに注目する。

今回の処置で注目すべきは、これは輸出規制ではなく、輸出審査の厳格化という点である。化学製品3品目や、韓国のホワイトリスト国除外で生じる日本企業への影響力は限定的だ。そして、これは輸出審査の厳格化なので、日本は韓国へのダメージが最大になるように思うように審査期間を調整することができる

このように述べ、今回の輸出規制が日本が韓国から最大限の譲歩を引き出すための周到な計画に基づいている行われているので、日本経済への影響力は最小限に押さえられるだろうとしている。

歴史問題が絡むと日本は負ける

「ストラトフォー」の記事は特に日本の立場を支持するものではない。客観的な情勢から見て、今回の輸出規制が日本の周到な計算に基づいたものであり、経済的には日本に有利に情勢が展開すると見ている。

しかしながら、「ストラトフォー」の述べるように日本にとって楽観できる方向に事態が進展するとは限らない。前回紹介した「ブルームバーグ」や「フォーリンポリシー」の記事にあるように、これを戦前の徴用工を巡る歴史問題が原因であると捉える見方は非常に多い。そして、今回の輸出規制が歴史問題に絡められると、日本は国際世論の批判にさらされ、決して日本に有利に展開しないであろう。

【関連】韓国輸出規制、国際世論は「日本が悪者」。安全保障を言い訳にしていると批判殺到=高島康司

いまのところ、今回の日韓の対立は、香港の民主化要求運動、緊張するイラン情勢、米中貿易戦争など深刻な問題の陰に隠れた格好になっており、国際的な関心は決して高いわけではない。そのため、日韓対立を徴用工や従軍慰安婦などの歴史問題と絡めて、日本を非難する国際的な論調はいまのところ特に強いわけではない

しかし、日韓対立が長期化すると、これを歴史問題と絡めて国際的な世論を形成する韓国のキャンペーンなどにもより、日本への非難が強まる可能性がある前々回の記事でも紹介したように、アメリカには強力な韓国ロビーが存在する。歴史問題で日本を非難するキャンペーンを過去に何度も成功させている。侮ってはならない。

【関連】韓国輸出規制で日本は負ける?トランプ政権を動かす韓国の強力なロビー活動=高島康司

さらに、IT産業の世界的なサプライチェーンに影響が及ぶと、この問題のきっかけを作った日本への非難はさらに高まることになるはずだ。

Next: 日本の説明は失敗?歴史問題は国際的認識が重要だ



日本の説明失敗と、歴史問題の国際的認識

もちろん、「従軍慰安婦」や「徴用工」の対する日本の主張にもそれなりの根拠があることは間違いない。だが、こうした歴史問題は、どちらの側が正しいか間違いかではなく、国際的に広く共有される認識の枠組みを作った側に、有利に事態は進展する

「従軍慰安婦」を「性奴隷」とし、「徴用工」を「奴隷労働」とし、これを強制した戦前の日本を非難する認識は、国際的に広く共有されている。日本は歴史問題の説明を何度も試みたものの、国際認識を変えることに失敗している

こうした歴史問題に対する日本への厳しい国際的な認識が、日本のメディアで報道されることはめったにない。多くの日本人が拒否反応を示すからであろう。

しかし、今後の事態の変化に対処するためにも、それがどういうものなのか知っておいたほうがよいはずだ。

<フォーリンポリシーの記事>

日本の歴史認識を問題視し、日本の責任を問う記事は非常に多い。今回は、そのなかでもできるだけ包括的な内容の記事を要約的に紹介する。

今回の日韓対立が激化する前に書かれたアメリカの著名な外交雑誌『フォーリンポリシー』の記事である。決して気分のよい内容ではないが、これが欧米の主要メディアの基本的認識なのだと思う。

ナチスドイツとイタリアと連合して戦争を戦うことになる大日本帝国は、1910年に朝鮮を併合した。そして100万を越える奴隷労働を強いた。この数には性奴隷を強要された女性は含まれていない。リー・チャン・シックは、大変な環境で厳しい労働を強いられた。報酬は支払われていない。彼は他の2人とともに2005年に日本製鋼と住友金属を訴えた。2018年、韓国の大法院でリーは勝利した。

リーのような人々の苦しみは歴史的事実である。それなのに日本はこの問題の解決は韓国政府の責任だとして、日本大使の召還を命じたり、韓国の日本への輸入を規制しようとしたり、日本における韓国政府の資産を差し押さえたり、韓国からの観光客にビザを要求したりしている。河野外相は三権分立の民主主義の原則に反して、ムン・ジェイン大統領に大法院の判決に介入するように要求している。

日本は、1965年に締結した日韓基本条約という国際条約に韓国は違反していると主張している。この条約で日本は韓国に対し3億ドルを支払い、5億ドルの借款を与えることで、戦争犯罪を補償したと主張している。

しかし、これに納得する韓国人は少ない。この条約は元日本軍の将校で、民主的な政権をクーデターで転覆した独裁政権のパク・チョン・ヒ大統領によって締結されたものだからだ。この条約への国民の抗議を抑制するために、パク・チョン・ヒは1965年に戒厳令を敷いた。

また、日本の主張が相当に偏向していることも事実だ。日韓基本条約で個人の賠償請求権が放棄されているのかどうかは疑わしい。日韓基本条約の交渉では、日本は朝鮮併合の違法性は認めていないのだ。

日本が朝鮮併合の違法性を認めていないということは、この期間に日本が犯した犯罪も認めていないということだ。事実、日韓基本条約で日本が支払った金は、補償金ではなく、韓国独立への祝金であると当時の椎名外相は説明していた。

たとえ日本と韓国が日韓基本条約によって、祝金の支払いで補償の義務が消滅したと納得していても、これは国際法上の原則に違反する行為なのだ。国際法の一般原則からして、いかなる政府も条約によって国民の基本的人権を踏みにじることはできないのだ。ウィーン条約では国際法の一般原則に違反する条約は無効であるとしている。日本と韓国はこのウィーン条約を締結している。

日本のpが朝鮮半島併合期に行った奴隷労働は、あきらかにウィーン条約が定める国際法の一般原則に違反している。ウィーン条約では市民への拷問と虐殺とともに、奴隷労働を禁止している。大日本帝国は1925年にこの条約を締結している。ということでは、たとえ1965年の日韓基本条約で被害への補償が放棄されていたとしても、これはウィーン条約違反である。

この見方は特に新しいものではない。1996年、国連の人権委員会は、日本政府は性奴隷の補償を行うべきだと勧告した。1965年の日韓基本条約で個人補償の問題は解決済みだと主張する日本政府に対し、ウィーン条約の原則を適用してこれを退けた。どのような条約によっても、基本的人権の侵害を無効とすることはできないという。

日本製鋼は韓国人徴用工に対して補償すべきだとした韓国大法院の判決も同じ原則に基づいている。日本の立場を支持するものは、国民の基本的な人権が無効にできることを証明しなければならない。さらに、過ちを否定した状況で過ちを解決しなければならない。

日本にとって手っ取り早い解決法は、これは個人と企業間の問題なので、政府は関与しないとすることである。また日本政府が関与したとしても、生存している徴用工の数は少ないので、支払う補償金は1億ドル程度に過ぎない。これは生存しているホロコーストの犠牲者にドイツが支払った700億ドルと比べると、非常に小さな額だ。これで日本は戦前とは異なる国になったことを日本の旧植民地だった国々にアピールできるのだ。

だがその反対に日本は、戦前の日本製鋼が強いた奴隷労働が21世紀の日本にとって重要であるかのように、ヒステリックに反応している。日本はまだ大日本帝国の過去に縛られているのだ。

出典:東京は第二次大戦中の残虐行為を繰り返し弁護する、奴隷労働に対する日本の法的弁明は支持されているとは言い難い – Foreign Policy(2019年5月29日配信)

以上である。この記事の寄稿者は、ナッサン・パクという韓国系アメリカ人の国際弁護士である。国際金融の専門家だ。

しかし、「従軍慰安婦」と「徴用工」をそれぞれ「性奴隷」と「奴隷労働」とし、安倍政権の日本を、戦前の歴史を反省する意志のない国として非難する論調の記事は非常に多い。

記事によりニュアンスの違いこそあれ、歴史問題ではこれが欧米の主要メディアの一般的な論調である。記事の書き手は日系人もおり、さまざまだ。韓国系とは限らない。

記事によっては戦争犯罪人、岸信介の孫で歴史の責任を認めない安倍晋三が首相であるので、問題がこじれているとする記事も多い。

Next: 日本のキャンペーンは失敗した?経産省の初動ミスと大国意識



残念ながら日本のキャンペーンは失敗した

これは歴史問題に対する欧米主要メディアの標準的な認識である。「日韓基本条約」と「請求権協定」によって補償問題は解決済みとする日本の立場を支持する声は少ないのが現状だ。

ましてや、「従軍慰安婦」や「徴用工」は契約労働であり、強制性は証明できないとする日本の保守層の認識に理解を示す記事はほとんどない。このような状況は、残念ながら自らの歴史認識を説明する日本のキャンペーンは、国際的な影響を与えることができなかったことを意味している。日本の説明は実質的に失敗したといってもよいだろう

このような状況なので、韓国への輸出規制が引き起こした今回の日韓の対立は、長期化すればするほど「徴用工」という歴史問題を反省する意思のない日本の報復として見られ、日本には不利な状況になるはずだ。

安倍政権が主張する韓国の戦略物資の管理のずさんさが引き起こした「安全保障上の懸念」という合理的な理由は、歴史問題の前には吹き飛んでしまう。この問題を早く解決しないと、日本は国際的に孤立する可能性がある。

経産省の初動ミスと大国意識

歴史問題に対する欧米の主要メディアの論調が極めて厳しいものであり、日本を非難する声が強い状況を理解していれば、7月2日の経産省の発表のように、「日本は徴用工問題で韓国に解決への道筋への提示を求めているが、事態が進展しないため事実上の対抗処置に踏み切る」などとは口が裂けても言えなかったはずだ。

輸出規制が歴史問題化しないように細心の注意を払い、韓国の戦略物資のずさんな管理の危険性だけに焦点を当てていたはずだ。後で徴用工問題とは関係がなく、「安全保障上の懸念」が理由だと抗弁してももう遅い。一貫しない態度は二枚舌として見られる

これは明らかに経産省の初動ミスだろう。こうしたミスを犯したのは、日本の歴史問題に対する国際的な認識の厳しさを経産省が理解していなかったからではないだろうか?外部から日本を見るという国際感覚が決定的に欠如していたからだろう。

Next: 正しい・間違いではなく、歴史認識の枠組みを制したほうが勝つ



歴史認識の枠組みを制したほうが勝つ

いまオリンピック開催まで1年となり、日本はお祭り騒ぎの狂騒の雰囲気に入ろうとしている。

この盛り上がりのなかで、ナションリスティックな大国意識が台頭し、外部から厳しい目で自国を見ることは一層難しくなる違いない。そうした気分的に舞い上がった状況で、多くの判断ミスを犯す可能性は高いと思う。

歴史問題は、どちらの側が正しいのかではない。歴史認識の枠組みを制したほうが勝つのである。

その意味では日本は決定的に負けているし、すでに国際的に標準化した歴史認識をこれから覆すことは実質的に不可能に近い。いまの日本は、こうした厳しい現実を客観的に見ることのできない雰囲気になりつつある。これは非常に危険なことだ。

ところで、トランプ政権の介入によって問題が解決する可能性が出てきた。この背後にいるのは、やはり福音派の強力なロビーである可能性がある。これは次回に詳しく書く。

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