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7pay大失敗の裏に有能幹部の不可解な左遷? ファミペイと明暗を分けた2つの失策=岩田昭男

「7pay」は9月末にわずか3ヶ月のサービス期間を終える。なぜファミペイとここまで差がついたのか。その裏には有能な幹部の不可解な左遷など数多の失敗がある。(『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』岩田昭男)

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プロフィール:岩田昭男(いわたあきお)
消費生活評論家。1952年生まれ。早稲田大学卒業。月刊誌記者などを経て独立。クレジットカード研究歴30年。電子マネー、デビットカード、共通ポイントなどにも詳しい。著書に「Suica一人勝ちの秘密」「信用力格差社会」「O2Oの衝撃」など。

なぜ?数年前に「ミスターnanaco」とも言える有能幹部を左遷

なぜ財務畑の人間をトップに据えたのか

7payの失敗は、セブン&アイ・ホールディングスという企業グループのガバナンス(内部統制)が機能していなかったことが、そもそもの原因だ。

たとえば、ITやリテールに関しては何も知らない財務畑の人間を運営会社である7payのトップに据えた。グループ内にはセブン銀行という金融・決済の専門企業があるのだから、適切なアドバイスはいくらでもできたはずだ。

ところが、それができずに、「お手並み拝見」というのがグループ内あるいは社内の空気だった。ということは、技術の問題というよりも会社の問題だったということになる。

自前の決済サービスにこだわって大失敗

そのことに詳しく触れる前に、今回の「7pay騒動」の顚末を簡単に振り返っておこう。

セブン&アイ・ホールディングスは、2015年にネット通販「オムニ7」をスタートさせている。自宅だけでなくセブン・イレブンやイトーヨーカドーなどの店頭などでも注文した商品が受け取れるという点がセールスポイントだったが、先行するアマゾンや楽天の牙城を崩すことはできず、消費者の支持も広がらなかった。

そこで同社は、ネット通販ではなくコンビニ・ユーザーにターゲットを絞り、2018年6月、コンビニで使えるクーポンがもらえたり、景品が当たるスマートフォン専用のアプリ「セブンアプリ(セブン・イレブンアプリ)」のサービスを開始する。

QRコード決済(バーコード決済)サービスが話題になり始めたころ、私はこのセブンアプリを利用して、いち早く消費者に最新のQRコード決済サービスを提供するのかと思っていたが、いつまで経ってもそうはしなかった。

セブン・イレブンがQRコード決済サービスを始めるのは、結局、7月1日にファミリーマートの「ファミペイ」と同時に、セブンアプリに載せるかたちで7payをスタートさせてからだった。

実はファミリーマートだけではなくローソンもこの時点で、LINEペイやPayPay、ウィーチャットペイ、アリペイといった主なQRコード決済がすでに使えた。

ところが、セブン・イレブンだけはこれらの決済サービスの導入を拒んでいた

コンビニ「王者」の意地がそうさせたのかどうかはわからないが、とにかく自前の決済サービスにこだわったのは誰の目にも明らかだった。

わずか3ヶ月で終了へ

こうして満を持してサービスを開始したはずの7payだったが、スタート直後に不正アクセスが発覚。利用者のクレジットカードから高額のチャージを行い、セブン・イレブンで商品を購入するという手口の被害を受けた利用者は約900人、被害総額は5,500万円にのぼると予想された(その後、被害にあった利用者は約800人、被害総額は3,800万円に修正されている)。その結果、7payは7月5日には新規登録の停止に追い込まれた。

その後も、セブン・イレブングループの共通IDである「7iD」の脆弱性が指摘され、サービス開始からちょうど1カ月経った8月1日、9月末での7pay廃止を発表するに至った。鳴り物入りで始め、150万人もの会員を集めたQRコード決済サービスをわずか3カ月で終了せざるをえなくなったのは、きわめて異例の事態だ。

そして、この「事件」は、セブングループ全体に大きなダメージを与えるだけではなく、政府が強力に推し進めるキャッシュレス決済に冷や水を浴びせることになった。

セブン&アイ・ホールディングスの責任は重大だ。

Next: 7payを終わらせた2つの失敗/有能な幹部社員を左遷させた不可解



7payを終わらせた2つの失敗

<失敗その1:「二段階認証」を導入しなかった>

7payの最初の失敗は、「二段階認証」を怠ったことだ。QRコード決済では通常、本人確認のためにSMS(ショートメッセージサービス)で数字などをユーザーに送って入力してもらう。これによってなりすましによる不正利用を防ぐ。これが二段階認証で、ファミペイもこの仕組みを取り入れている

ところが7payでは、この基本的ともいえるセキュリティ対策がなされていなかった。

その理由について運営会社の7payは、既存のアプリに決済機能を載せたためだと説明したが、そもそも大本のセブンアプリの安全性に問題(個人情報漏洩の危険性)があるのではないかということが、おそらく社内で取りざたされるようになったのではないか。

<失敗その2:「7iD」全会員のパスワードを強制リセット>

セブン側は7月末に、この問題に対応するためセブンアプリにログインするための「7iD」のパスワードをリセットすることを決定。7iDはグループのイトーヨーカドーやそごう・西武の会員にも使われているため、総数で約1,650万人にも達する。

この膨大な会員が突然パスワードの変更を迫られたことで、イトーヨーカドーなどの店頭では、顧客からの問い合わせが殺到し、従業員が対応に追われたという。これが7payの第二の失敗、躓きである。

致命的な失敗を2つも重ね、それが露呈し、経産省からは、「今のままでは消費税増税対策としての2%ポイント還元策への参加は認められない」と釘を刺されていたことから、「時間切れ」と判断して、7payを「強制終了」させたというのが真相だろう。

消費者第一主義を忘れ、顧客の利益や安全をないがしろにし、自社の都合を優先した結果だ。

有能な幹部社員を左遷させた不可解

このような技術的な問題が今回の騒動の原因の半分くらいを占めているとしても、その大本にあるのはセブングループの社風にある。

それを示す端的な例が、数年前に起きた「ミスターnanaco(と私は呼んでいた)」の左遷だ。

セブン・イレブングループの電子マネーnanaco(ナナコ)の開発に関わり、セキュリティからポイント、カードまで、システム・サービスのすべてを知り尽くしていた幹部が、突然、四谷の本社から地方のイトーヨーカドーに異動になったという噂が流れた。

これを聞いた誰もが驚いた。後日起きたクーデター、セブン&アイ・ホールディングスのカリスマ経営者だった鈴木敏文会長(当時)の退任劇に伴う権力闘争との関連を指摘する声もあったが、真偽のほどは定かではない。

いずれにしても、ミスターnanaco氏のような小売りと金融・決済、ITに精通した人物がいれば今回のようなお粗末な事件は起きなかったはずだ。これからのコンビニ経営にとって不可欠な人材をなぜ経営の中枢から遠ざけたのか、不可解であると同時に、非常に残念だった。

セブン&アイ・ホールディングス全体が、風通しの悪い組織になってしまっていることが、前代未聞ともいえる不祥事を招いた背景にあることはたしかだろう。

Next: nanacoに固執して出遅れたセブン・イレブン、対してファミペイは?



nanacoに固執し出遅れたセブン・イレブン

それに対してファミペイは、ライバルの自滅を尻目に順調に会員数を増やしている。スタートから1カ月でダウンロード数は300万を超えた

QRコード決済に対する考え方においてファミリーマートとセブン・イレブンの違いは際立っていた。セブン・イレブンは2007年にサービスを開始したnanacoをメインに据えて顧客の囲い込みを図っていた

とくに、nanacoの1%ポイント還元は消費者にとって非常に大きな魅力で、他の電子マネーにはまねのできないもので、対抗できるのは楽天カードくらいだった。公共料金の支払いもできるなどからコンビニ客の人気も高く、セブン・イレブンといえばnanacoというイメージができあがっていた。

見方を換えると、セブン・イレブンは電子マネーのnanaco一辺倒といってもよく、QRコード決済に対しては冷ややかな見方をしていた。前述したように、昨年から今年にかけてファミリーマートやローソンは複数のQRコード決済サービスを導入して、ブームの演出に一役買っていたのに対して、セブン・イレブンだけはまったくQRコード決済が使えなかった

7payがスタートした7月1日からはLINEペイやPayPay、メルペイのほかにアリペイ、ウィーチャットペイも使えるようになり、ファミリーマートやローソンに追いつくことができた。つまり、やっとライバルに追いつき、さまざまな決済サービスを提供することができるようになった。

この方針転換を私は歓迎したが、なぜかnanacoの1%ポイント還元を半分の0.5%にして、そのぶんを7payに付け替える(通常ポイント0・5%に期間限定で0・5%を加えて1%にする)というセコイことを始めたので、またセブン・イレブンに対する不信感が頭をもたげてしまった。

そこに7payの一連の不祥事が起きたのである。

PayPayに学んだファミペイ

さて、ファミペイに話を戻すと、ファミペイは非常にオーソドックスなQRコード決済だ。オーソドックスとはどういうことかといえば、PayPayによく似ている、何から何までそっくりだといっていいかもしれない。QRコード決済の認知度を一気に高めたPayPayのスタイルを踏襲したということなのだろう。

決済に紐づけるクレジットカードはファミマTカードで、この紐づけされたクレジットカードを使うことでいろいろなおトクが取れる仕組みになっている。

たとえば、ファミマTカードでチャージすると15%、買い物をすると20%還元される期間限定サービスを行った。高還元率のポイントサービスでスタートダッシュ直後から攻勢をかける戦術は、まさにPayPayを見習ったものだろう。

さらにいえば、ファミリーマートは昨年末から今年の初めにかけての「PayPay祭り」の騒動に学んだのだ。ファミリーマートはソフトバンクやヤフーと一緒になってPayPay祭りの神輿を担いだ。そのときに、QRコード決済にとって何が大事で何をしてはいけないのか、といったことを直接見聞きすることができた。

PayPayも予算が足りなくなって急遽キャンペーンを切り上げざるをえなくなるなど、決して順風満帆だったわけではない。むしろ多くの批判にさらされたといったほうがいい。そういう意味では天国と地獄を見てきており、その貴重な体験をファミペイに活かしている

Next: ファミペイはいずれコンビニ専用から脱皮する?



ファミペイはいずれコンビニ専用から脱皮する?

ファミペイで特筆すべきは、ファミリーマートにとどまらず、その外にもサービスを広げようとしていることだ。ファミリーマート以外の小売店舗でもファミペイが使えるようになれば、コンビニ専用のQRコード決済サービスから脱皮できる。

11月からは、dポイント、楽天スーパーポイント、Tポイントと連携も予定されており、顧客サービスの一段の向上が期待できる。

いまのところファミペイはPayPayの「弟分」といった印象があるが、ファミリーマートの親会社である伊藤忠は、自前の決済手段としてファミペイを大事に育てていきたいと考えている。

それだけに、ファミペイの今後が注目される。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2019年8月11日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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