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マネー増発に支えられる2,000兆円の潜在不良債権、世界の上場企業の現状=吉田繁治

世界の上場企業には、2,000兆円の潜在不良債権が隠されているというニュースがありました。この増発されたマネーは、世界経済にどんな影響を与えるのでしょう。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)

※本記事は有料メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』2019年8月15日号の一部抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

世界経済の減速の指標が見え始めている

世界の上場企業の、問題ある負債は2,100兆円

2008年のリーマン危機のあと、負債の大きさの問題を抱えるのは、中国だけではない。

日経新聞の野口記者が、「世界のゾンビ企業が倍増し、上場5,300社になった」というコラムを、朝刊トップに書いています(8月11日)。営業キャッシュフローでは、借金の金利が払えない上場企業数です。

これらの企業の有利子負債の合計、20兆ドル(2,100兆円)、支払利息が7,500億ドル(82兆円:平均金利は約4%)という。

世界的な低金利と金融緩和の10年で、負債は2008年に対して55%増えています。増えた負債に対して、営業キャッシュフロー(現金の利益)での利払いができなくなっている企業数です。

まだ不良債権とはされていないので、銀行からは、不足する利払いの「追い貸し」が行われているでしょう。銀行の帳簿上では利払いがあったようにして、その分を貸し付ける行為です。総負債の2,000兆円は、潜在不良債権です。

地域別には、以下です。上場企業が提出義務を負う有価証券報告書等から集計されたものです。非上場の企業のP/L、B/S、キャッシュフロー計算書は、銀行の融資案件の内部資料でしか分らない。このため、不良債権の発現は、いつも遅れます。

<有利子負債の利払いが営業利益を上回る企業数>

合計上場企業数は、2万6,000社(金融業を除く)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
欧州  1,439社(企業数構成比27.4%:ユーロのゼロ金利にかかわらずイタリア、スペイン、ギリシアに多い)
米国   923社(同32.1%)
インド  617社(同26.3%:不良債権の多さが、すでに問題になっている)
中国   431社(同10.8%:実際にはもっと多い:推計30%以上)
台湾   327社(同19.1%)
日本   109社(同3.3%:ゼロ金利策のため世界比較では最も少ない)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
出典:ゾンビ企業、世界で5300社 規律緩み10年で2倍‐日本経済新聞(2019年8月11日公開)

上場2万6,000社の支出は、投資とM&Aの投資キャッシュフロー、配当・自社株買いを含むと6兆ドル(630兆円)。それらの2万6,000の企業が事業で稼いだ営業キャッシュフローを1兆ドル(105兆円)上回っているという(2018年)。

2018年から、(1)トランプ関税、(2)世界的なサプライチェーンの分断、(3)英国のEU離脱と、その波及を理由にして、2018年、19年、20年の世界のGDPは、低下に向かっています。

メディアと金融市場は、今もトランプがしかけた対中貿易戦争の早期終結を想定しています。このため、GDPの低下予想はまだ低い。

トランプの政策の目的は、2020年の再選に収斂します。対中強硬策が、国民の支持を得るからです。このため経済の論理からは計ることができない。

米国のGDPを下げるからとして、株価が先行して下がっても、矛を収める気配は見えません

2019年のGDP見通し

IMFは、世界の2019年のGDP(約8,000兆円)の増加を3.2%としています(2019年4月発表)。この見通しも、IMFの世界経済への役割を意識した「甘い」ものでしょう。IMFは米国が支配しています。

米国の投資家でも、2019年の米国経済の低下を予想しているのは34%(3人に1人)です(バンカメ・メリルリンチの調査)。IMF同様、まだ楽観的です。

中国やインドでの自動車販売の急減など、世界の成長の減速を示す具体的な指標が出始めています。19年7月のインドは、自動車販売29.9%減。中国は、19年1月から7月の7か月で、前年比13.5%減です。これらの実態データには、偽りはない。

2017年までは年間15%くらい増えていました。トレンドに対しては、中国では3割減です。

代表的な消費財の自動車の販売台数が前年比で13.5%も減っているのに、中国のGDPが6%台の成長(実質+6.2%:19年4月~6月:国家統計局発表)というのは、普通「ありえないこと」です。自動車の販売は、小売り需要の中の28%と食品の15%、石油製品の13%、衣類の10%よりはるかに大きいからです。

中国は国家統計では、普通の国ではありません。中国の実質GDPの増加は3%以下、悪くすると1%以下でしょう。

Next: この先の世界経済を取り巻く環境とは?



2019年、20年の成長要因はない

負債で上がってきた不動産価格の世界的なピークアウトと重なって、2019年、2020年の経済の成長を促す要因は見当たりません。

世界のGDPの成長がIMFの3%台という予想より低下すれば、上記の2万6,000社の潜在不良債権(負債総額では2,000兆円)は膨らみつづけます。銀行の追い貸しが増加するからです。

今回の負債の劣化は、世界的です。日本の資産バブル崩壊(1990年代の10年)、リーマン危機(2008年から2011年)、南欧危機(2011年~12年)のようには国を特定できず、集計も難しい。マネー移動のグローバル化の進展により、危機は世界に分散しているからです。

どうとらえたらいいのか。1929年からの世界恐慌の推移に似ています。これから数年、世界恐慌を再現するというのではない。

中央銀行のマネー増発策は、限定的な幅になった

中央銀行のマネー増発の対策において、違いがあるからです。

しかし、すでにマイナス金利の欧州(ユーロ)と日本には、金融危機のときの通貨増発の余力が乏しい。米国も利下げの余地は、最大でも1%くらいしかない(現在の短期金利は2.01%:10年債は1.67%と逆転している)。

今後の中央銀行の「通貨増発策」は、限定されたものでしょう。リーマン危機のあとのように、20兆ドル(米国、ユーロ、日本、中国の合計:2,100兆円)のような、通貨の緊急増発は難しくなったのです。(換算は、従来の1ドル=110円から、105円に変更しています)

金融危機を通貨の増発、つまり中央銀行からの銀行への貸付増で乗り切っても、不良債権化した負債が大きくなるだけで、いずれは、先送りされたカタストロフが訪れます。負債が増えているからです。

中央銀行のマネー増発は、企業の借り入れによってマネーが補充されて、危機を先送りする効果をもっていますが、危機をなくす機能はないからです。

不良債権というものの性格

不良債権は、借りた企業や金融機関が支払金利より多くの利益を出せるようにならないと解決には向かわない。これが不良債権の本質ですが、MMT論(現代貨幣論)と中央銀行万能論の陰で、忘れられています。

貸付金による資金繰りの助力は一時的です。金利と返済分を借り増した企業が、金利より大きな利益を出せるようにならないときは、銀行の不良債権の増加になるだけだからです。

以上の観点から、大恐慌の推移を振り返ることに意味があるでしょう。

それぞれのイベントに、現代との違いを示していきます。Financial Times紙にも、「大恐慌との類似」を指摘する論が現れはじめました(「データが示す恐怖の夏」:ラナ・フォルーハー氏」。

大手新聞やメディアは、銀行の不良債権を調査して報じることはしません。預金者の不安をあおり、金融を崩壊させる取り付け発生の恐れが生じるからです。危機が事実になったあと、報じます。まだ一部の記事ですが、新聞も金融危機に向かっていることを伝えるように変わってきています。

Next: 第一次世界大戦にみる、マネーの増発が引き起こしたこととは



第一次世界大戦での、マネーの増発

記憶している人は、90歳を超えています。110歳のごく少数の人も当時は幼少期であり、記憶にはない。記録で見るしかない。

第一次世界大戦では政府が国債の増発を行うため、金本位(正確には金準備制)は停止されていました。金準備制なら、通貨の増発は金準備高に縛られて、GDPの100%やそれ以上を使う戦費の調達ができないからです。

19世紀末から20世紀初頭にかけて、英国にならって中央銀行を作ったあとの国では、税金ではマネーが足りない戦争は、通貨の大増発を行うものに変わっていました。

(無限にも思える)通貨増発による戦費のため、戦争が国民の財を集結する「国家総力戦」に変化し、初めての世界大戦になったのが、第一次世界大戦です(1914年~1918年)。

大戦のとき増発されたマネー(財政支出)は、戦争の被害を受けなかった米国で株式と不動産のバブルを引き起こします。新しい産業としては、自動車、家電、電力、鉄道があったのです。国民の間には、投資信託が普及し、高い株価を背景に、資本調達のための株式の分割が盛んになっていました。

ワニや巨大な蛇が出て、蚊も多い湿地帯の温かいフロリダ(日本で言えば沖縄にあたる)では、空前の不動産ブーム(リゾートブーム)が起こっていたのです。フロリダの不動産バブルは1928年、29年に崩壊し、31の銀行を破産させました

金融危機の原因になるのは、過剰なマネーが貸付金になって引き起こす資産バブルだということが分かります。古今東西、普遍の原理でしょう。

ただし、マネーの増発と資産バブルの発生から崩壊には、ほぼ10年の複雑系の負債債券と貸付増加の波及の期間を置くため、経済学は「マネーの過剰な増発が、金融危機とその後の、実体経済の恐慌の原因だった」とはしていないのです。

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image by: Mark Carrel / Shutterstock.com

ビジネス知識源プレミアム:1ヶ月ビジネス書5冊を超える情報価値をe-Mailで』(2019年8月15日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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