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トランプ、実は戦争回避に全力。中国・北朝鮮・イランとの衝突はすべてシナリオ通り=江守哲

米国がかなり苦しくなってきたようです。来年の大統領選挙をにらみつつ、人事も動かしてきました。いずれにしても、トランプは戦争回避を前提に動いています。(江守哲の「ニュースの哲人」〜日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ

本記事は『江守哲の「ニュースの哲人」〜日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』2019年9月13日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

日本と中国の横やりに激怒?トランプはすべて1対1で解決したい

ボルトン補佐官「電撃解任」の裏側

米国がかなり苦しくなってきたようです。来年の大統領選挙をにらみつつ、人事も動かしてきました。

トランプ大統領は、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)を更迭しました。トランプ大統領は「ボルトン氏の多くの提案について意見が異なった」とし、「彼の任務はホワイトハウスで不要になった」としました(編注:トランプ大統領は18日、解任したボルトン氏の後任として、国務省のロバート・オブライエン人質問題担当特使を指名しています)。

トランプ大統領は9日にボルトン氏に更迭を通告したといいます。トランプ大統領と強硬派のボルトン氏は、北朝鮮やイランとの対話やアフガニスタンからの米軍撤退などをめぐって意見対立が表面化していたことはよく知られていました。

ボルトン氏は、ブッシュ(子)政権で国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)、国連大使を歴任しました。世界的にも強硬派で知られていました。トランプ政権下ではマクマスター前補佐官の辞任に伴い、18年4月に補佐官に就任しました。しかし、私はこのときに「なぜここでボルトン氏なのか」と思いました。トランプ政権の裏側にある実際の外交政策とは相いれないことを知っていたからです。

一時的に強硬派を取り込むことで、対内的・対外的に圧力をかけようとしたのかもしれません。しかし、ボルトン氏の基本的な考えを変えることはできませんでした。結果的に、トランプ大統領は切るしか選択肢がなくなったということでしょう。

もともと、ボルトン氏とポンペオ国務長官の確執が深刻化していました。ポンペオ氏はトランプ大統領のお気に入りです。CIA長官時代に国務長官をさておいて、裏で何度も北朝鮮を訪問し、首脳会談の結び付けた実績がきわめて高く評価されています。したがって、扱いが全く違います。

2人はこれまでも摩擦が指摘されることがありましたが、すでに「全面的な対立」に発展していました。こうなると、どちらを取るかという選択になりますが、トランプ大統領からみれば、最初から答えは決まっていました。

北朝鮮やイランに対する圧力を重視する点で2人の立場はもともと近かったとされています。それでも衝突していたのは、トランプ大統領への直言も辞さないボルトン氏に対し、大統領とより近い関係を築いて懐柔しようとするポンペオ氏の手法の違いがあったようです。

確かに、直近のボルトン氏の動きを見ると、政策決定の場にはいないことがあったようです。8月16日に政権幹部がアフガニスタン和平への対応を話し合った際に、出席者のリストには当初ボルトン氏の名前はなかったといいます。その理由は、「和平案に反対し、中身をリークする」ことが懸念されたというものです。

このような姿勢は、トランプ大統領からすれば「許せない」ということになるでしょう。

トランプは戦争回避を前提に動いている

いずれにしても、トランプ大統領は戦争回避を前提に動いています。

これは対イラン北朝鮮などでも同じです。これまでも当メルマガで指摘してきた通りで、その姿勢は最近になってますます明確になってきています。そうなれば、ボルトン氏の存在は邪魔でしかありません。

また、戦争回避の動きの背景には、やはり戦費の問題は大きいといえます。これだけ財政赤字が拡大している中、これ以上の戦費拡大は危険と判断しているといえます。

また、そもそも、米国が昔のように世界の警察の役割を担い、あらゆる地域に首を突っ込んで、その国の国民から批判されるのにもかなり疲れたというのもあるでしょう。

時代は変わったということです。いまは交渉で外交の解決をする時代になったということです。その意味では、これまでとは違う観点から「地政学的リスク」を考えていく必要があるということです。

とはいえ、やはり米国が世界の中心であることに変わりありません

Next: 北朝鮮情勢に変化の兆し。ミサイルも会談決裂もシナリオ通り?



世界を揺さぶる「演出」? 北朝鮮情勢に変化の兆し

さて、北朝鮮情勢にも変化がみられる兆候があります。

中国の王毅(おうき)国務委員兼外相は米国に対し、非核化協議の再開に向けて北朝鮮が示した善意に応え、より対話の実現につながるようなアプローチを採用するよう呼び掛けています。

米国は対北朝鮮の交渉に中国が関与することを歓迎していません。むしろ、北朝鮮には「中国とはかかわらないほうが良い」と進言している可能性さえあります。米中通商協議などを見れば、いまの米国の対中政策がいかに本腰を入れたものであるかがわかるでしょう。

一方の北朝鮮は、崔善姫(チェ・ソンヒ)第1外務次官が、今月下旬に米国との非核化協議を再開する意向があると表明するとしています。ただし、米政府が新たなアプローチを提示しない限り、協議は再び物別れに終わるとけん制しています。さらに、この発言の数時間後に短距離飛翔体を発射しています。

まだまだ国際情勢を揺さぶっているとの演出を続けています。無駄な資金は使わないほうが良いと思いますが、資金での出先は別のところにあるのでしょう。はっきりとは申し上げられませんが。

中国が邪魔で邪魔で仕方がない米国

とにかく、米国は中国が邪魔ですので、今後はさらに排除の方向に動くでしょう。トランプ流の「1対1」の交渉が基本です。横やりは入りません。

これは、安倍首相が米イランの間を取り持つ取って、勇んでイランに行った際に、米国の民間の船舶への砲撃ですべてが台無しになったことからもわかるでしょう。

要は、「いらないことをするな!」ということです。中国に対しても、あまりに出しゃばれば、別の制裁を加えてくるでしょう。

アメリカは北朝鮮問題を放置したい

さて、トランプ大統領は、北朝鮮高官が非核化に関する米朝協議を9月下旬に再開する用意があるとしたことについて、「会合を開くことは良いことだ」とし、再開に前向きな姿勢を見せています。

ただし、米朝は非核化の進め方について対立しており、交渉を再開できるかどうかは不透明な情勢です。また、準備期間も短く、いまのところ間に合わない見通しです。

もっとも、この問題をいま片付ける必要は全くありません。大統領選の際に、手柄にできればよいだけですので、来年に入ってからが本番でしょう。選挙戦と同時に行わなければなりませんので、トランプ大統領はかなり忙しくなりそうですが、おそらくやり切るでしょう。

北朝鮮側も様々な手を出してくるでしょうが、これらはすべてシナリオに乗った話です。茶番とまでは言いませんが、将来が決まっている中で、どのように持っていくかを話し合うだけですので、最終的には日本も加わってくる話です。

しかし、いまそれをやれば、世界は驚くだけですし、話が見えてしまいます。したがって、まだまだ手順を踏むことになるでしょう。

Next: 米朝外交のいざこざはすべて演出。米ロが軍事産業で儲かるようにできている



米朝外交のいざこざはすべて演出

2月末にハノイで行われた2回目の米朝首脳会談では、すべての核兵器や核施設の廃棄を迫る米国に対し、国連制裁解除など段階的非核化を求めた北朝鮮が対立し、物別れに終わったことになっています

しかし、この場に何かを決めるとか、話し合うことにはそもそもなっていませんでしたので、両者はただ旅行に来ただけというのが実態です。

6月末の板門店での3回目の首脳会談は電撃的でしたが、これも演出の範囲内です。当時は「2〜3週間以内」の実務協議再開で合意しましたが、そもそもそんなに早くできるわけがありません

それをまともに報じて、「やはり米朝問題は難しい」などと報じているマスコミなどは、いろいろな事情があるのでしょう。そろそろわかってもよい頃なのですが。

一方で、米政府は、北朝鮮が海上で物資を積み替える「瀬取り」に関与したとして、台湾・香港の船舶会社3企業と同社幹部ら2人を制裁対象に指定しています。これはこれで、一応やっておくということなのでしょう。看過すれば、世界の目が疑いをかけてきます。ですので、そのような事実があれば、それはそれで制裁をしておくしかないわけです。

このように、北朝鮮ネタは、出てくるたびに騒がれますが、先は見えてきています。ミサイル発射も含め、一喜一憂する必要はないでしょう。

米ロ問題はただの茶番。軍需ビジネスで儲けたいだけ

一方、米ロ問題は少し状況が違います。

ロシアのプーチン大統領は、地上発射型中距離ミサイルの製造に着手する方針を表明しています。一方で、米政府による日本や韓国へのミサイル配備に向けた動きに懸念を表明し、軍拡競争をエスカレートさせないよう米国側に促したものの、米国側から反応はなかったとしています。

しかし、両国には阿吽の呼吸があります。いまや、大国同士の軍事衝突はありません。あくまで「軍需ビジネス」のためにやっているようなものです。

軍需ビジネスは金額が張りますので、大国にとっては重要な資金源です。米ロが先行しているのがわかるでしょう。大国がみずから軍事設備を増強すれば、他国も同じようにそうします。そうすれば、軍事設備がたくさん売れます。非常に面白い構図です。

交渉上手なプーチン大統領

プーチン大統領は、米ロの中距離核戦力(INF)廃棄条約が前月失効したことを踏まえ、これまで同条約で開発や製造が禁止されてきたミサイルについて「無論製造する」としています。しかし、米国が先行してミサイルを配備しない限り、ロシアがミサイル配備に動くことはないとしています。

これも非常に興味深い「演出」です。

さらに「米国防総省のトップが日本や韓国にミサイルを配備する意向を示していることはよくない」とし、「懸念材料だ」としています。また、「日本と米国の安全保障上の協力関係、その他の問題が、日本との平和条約締結を困難にしている」とまでしています。

米ロ問題を日ロの北方領土問題に紐付けるあたり、やはり交渉上手といえます。

一方、トランプ大統領との電話会談で、ロシアが開発する極超音速核兵器の販売を打診したところ、米国は自国で開発するとして拒絶されたとしています。ここまでオープンしていますが、だからこそ、演出が効いてくるわけです。

Next: 進展しない北方領土問題。プーチン大統領にもてあそばれる安倍首相



プーチン大統領にもてあそばれる安倍首相

さて、安倍首相はロシア極東ウラジオストクでプーチン大統領と会談しました。

ロシア側の強硬な姿勢により平和条約締結交渉が行き詰まる中、北方領土問題の決着に向けて道筋を見いだせるかが焦点でした。両氏の首脳会談は通算27回目でしたが、結果的に予想された通り、何もありませんでした

安倍首相もなんとか交渉を進めようと必死でしたが、プーチン大統領が一枚も二枚も上手でした。

両首脳は昨年11月に、平和条約締結後に歯舞群島色丹島を引き渡すと定めた1956年の日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速させることで一致しました。

その後、両国外相を責任者として協議を重ねてきました。しかし、北方領土に関する歴史認識や主権に関して立場の隔たりが埋まらず、当初は大筋合意を想定した前回6月の会談は交渉継続の確認にとどまっています。

この問題はおそらく、なかなか解決しないでしょう。

そもそも、日米の関係がある以上、ロシアがこの問題で折れることはないでしょう。安倍首相は事実上の「2島返還」に舵を切っていますが、それでもすべてを完全に取り込みたいプーチン大統領からすれば、安倍首相の目論見は見え見えです。

安倍首相はプーチン大統領との「信頼関係」を基に、意見交換を通じて局面を打開したい考えのようですが、それは外交では通用しません。結局は、返還されずにロシアに実効支配されることになりそうです。

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2019年9月配信分
  • 「米国の外交の本音を確認する」(9/13)

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image by:Evan El-Amin / Shutterstock.com

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