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リブラを潰して中国版リブラ発行へ。仮想通貨で世界を牛耳りたい習近平の思惑=矢口新

中国の全国人民代表大会は10月27日、仮想通貨に関する新法を可決。暗号資産発行の準備を整えた。リブラを潰してデジタル人民元が覇権を握るのだろうか。(『相場はあなたの夢をかなえる —有料版—』矢口新)

※本記事は、矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる —有料版—』2019年10月29日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。配信済みバックナンバーもすぐ読めます。

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

潰されたリブラ。中国の仮想通貨は「口座を持たぬ人々」を救うか

中国版「リブラ」発足へ

中国の全国人民代表大会(=国会)は10月27日、仮想通貨に関する新法を可決した。暗号資産の発行に向けた準備となる。

新法の発効は2020年1月1日で、「暗号資産ビジネスの発展を支え、サイバー空間と情報の安全性を確保する」のが狙い。新法は、暗号資産の研究や、暗号資産への科学・技術の応用を国が奨励、支援すると明記している。

中国人民銀行は2014年に、紙幣流通コストの削減と通貨供給量の管理強化を狙って、独自のデジタル通貨発行に向けた調査チームを立ち上げていた。

中国のデジタル通貨はフェイスブックが導入を計画する暗号資産「リブラ」に似た特徴を備え、主要な決済プラットフォームで扱えるようになると述べた。

G20がこぞって「リブラ」に警戒

10月18日に閉幕したG20財務相・中央銀行総裁会議で、議長国・日本は、フェイスブックの「リブラ」に主要国が厳しく対処すべきだとの論調をとりまとめた

そのことを受けて、米議会の公聴会でフェイスブックのザッカーバーグ社長は「もし、フェイスブックがリブラを始めないなら、中国など他の誰かが始めるだろう」と述べたが、それが現実のものとなる見込みとなった。

G20には中国も参加しているが、結果的にライバル潰しを成功させたことになる。

ザッカーバーグ社長は仮想通貨をベースとした決済ネットワークの構築計画を推し進めると誓ったが、米中政府を含めたG20に単独で立ち向かうことになる。
※参考:Facebook, Zuckerberg Dig In for Long Haul on Cryptocurrency – WSJ(2019年10月23日配信)

中国製デジタル通貨は、基軸通貨「米ドル」への挑戦になる

通貨の本質は流動性だ。中国の仮想通貨は「主要な決済プラットフォームで扱えるようになる」見込みで、米ドルの基軸通貨としての地位に挑戦することになる。

現在の通貨に兌換通貨(金などと固定レートで交換可能な通貨)はなく、どの通貨も、対他通貨でも、対金銀でも、他のすべてのモノやサービスに対しても、変動する

その意味では、基軸通貨というものはないのだが、米ドルが価値基準の中心として、実質的な基軸通貨の地位を築いてきた。

つまり、各国の経済規模から個々の商品まで米ドル表示で価値が比較判断され、そのことを正当化できるだけの流動性が最も高いのだ。

Next: 徐々に力を失っている米ドル。仮想通貨が社会的弱者の光になる?



徐々に力を失っている米ドル

米ドルの流動性が最も高い背景は、以下のように実需に裏付けられているからだ。また、こうした実需は「使い勝手の良さ」に通じるので、テロやギャングの闇市場でも米ドルの人気が一番高くなると言える。

1. 世界最大の経済国、貿易国
2. 世界最大の金融市場(債券市場、株式市場、商品市場、デリバティブ市場)
3. 世界最大のパワー(政治力、軍事力など)

そして、一度確立した「流動性最高」の地位は、その使い勝手の良さゆえに、常に新たな流動性を呼び込むことになる。

その地位が脅かされるのは、上記3点のうち少なくとも1つでも他国が米国を上回った時だけのはずだった。あるいは、米国自らが米ドルの使い勝手を悪くする場合だけだったのだ。

実際に、トランプ大統領による経済制裁や貿易戦争で、米ドルの流動性は徐々に失われてきている。制裁でドル口座を封鎖すれば、ドルを使いたくても使えないからだ。

結果的に、中国とロシアが急接近し、人民元とルーブルによる中露貿易は2013年の7%未満から、2017年には18%以上に拡大した。

また、ロシアの5,000億ドルの外貨準備における米ドルの比率は18年初めの46%から、19年初めには23%に半減した。代わりにユーロの比率を22%から32%へ、中国の人民元を3%から14%に増やし、金や日本円も増やした。

トルコパキスタンなどは人民元建ての貿易に同意した。

ポルトガルはユーロ圏で初となる人民元建て国債を発行した。

日本もまたフィリピンと、円・ペソを直接交換できる市場を創設する予定だ。

仮想通貨「リブラ」は社会的弱者の光になりうる

現在の世界人口は未成年を含めて76億人だが、17億人の成人が金融システムの外にいるという。つまり、預金口座もなければ、ローンを組むこともできない。

既存の通貨・金融システムは、そうしたシステムからこぼれた人たちを見ることはない。

今、世界で映画の興行記録を更新している『ジョーカー』という作品は、そうしたいわば「透明人間」が主人公だ。超要約すれば、社会から無いものとして扱われている主人公が、傍若無人なウォールストリートに勤める若者や、勝ち誇ったテレビのMCを銃殺し、それを「匿名の若者たち」がヒーロー扱いする映画だ。

それが大ヒットしている。17億人の成人が「ジョーカー」を自分たちのヒーローと見ている可能性もあるのだ。

フェイスブックがリブラに託したものは、現実の通貨・金融システムからこぼれた人たちに仮想の通貨・金融システムを提供するものだった。

フェイスブックとて、その人たちに信用供与することはできないだろうが、送金手段なら提供できる。

フェイスブックのユーザー基盤24億人に加え、最大17億人のリブラの潜在的なユーザー、そこにビザやマスターカードといった決済企業の大手が参加すれば、リブラは米ドルに代わる本当の基軸通貨になれる可能性があった

Next: 中国の仮想通貨は「透明人間」を救うか? 有望すぎて潰されたリブラ



中国の仮想通貨は「透明人間」たちを救わない

では、中国の仮想通貨で「透明人間」たちは救われるだろうか? 

私はそうは思わない

中国は一党独裁国家だ。つまり、階級制度で成り立っている国家だ。このことは、中国の仮想通貨では透明人間が増えることを示唆しこそすれ、減ることは決してないのではないか?

中国の信用システムについては、以下をご覧いただきたい。
※参考:中国の社会信用システムの真実 – DG Lab Haus(2019年3月30日配信)

有望すぎて潰されたリブラ

仮に20億人が1,000ドル相当ずつのリブラを買うとすれば、リブラの準備金は2兆ドルとなる。これをフェースブック子会社の「カリブラ」が運用することになるのだろうが、突如として世界最大のファンドとなる。

仮に相応に多くの人が消費の多くをリブラで行うようなことになると、カリブラは世界のどの中央銀行よりも大きな存在となる。可能性としては、世界のどの国よりも予算の大きな仮想国家が誕生する。

リブラは超大企業をバックにし、当初賛同した他の27社もほとんどが申し分のない企業で、なかでもビザやマスターカードなどの決済企業の賛同は、その信用力と実現性とを約束するものだった。

ところが、得体の知れない会社が作った多くの仮想通貨が認知され(課税され)、上場するものもある中で、当局はリブラだけには厳しかった

フェイスブックだからということもあるかも知れないが、リブラそのものが民衆から支持され、政府が発行する通貨以上の通貨になれる要素を持っていたからだとも言えるのではないか?

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【関連】仮想通貨リブラ、世界の基軸通貨化に現実味。フェイスブックが米ドルを駆逐する=高島康司

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・中国版「リブラ」発足へ(10/29)
・グッドとバッドのトップ10に同時に選ばれた2都市(10/28)
・暴力的になる世界(10/28)
・Q&A:銘柄を6カ月も保有するのはなぜ?(10/24)
・誰がマイナス利回りの国債を買っているか?(10/23)
・時間は費用の最終的指標(10/21)
・結果と他人の評価(10/21)
・世界株高、主要な背景(10/17)
・住民の意思を顧みない上級政府(10/16)
・仮想通貨リブラ、生まれてすぐにこわれて消えた(10/15)
・FRBが示唆する「銀行受難の時代」(10/15)
・トルコのシリア侵攻が投げかける問題(10/10)
・FRBが資金供給再開へ(10/9)
・シリア北東国境からの米軍撤退は誰の勝利?(10/8)
・資源国の憂鬱「原油と地政学的リスク」(10/7)
・ノルウェーGPFGの石油株売却をどう見る?(10/7)
・借り手が本当に儲かる時代に(10/3)
・マイナス金利の歴史(10/2)
・GPIFが外債投資を拡大するというが(10/1)
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※本記事は、矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる —有料版—』2019年10月29日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。配信済みバックナンバーもすぐ読めます。

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相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』(2019年10月29日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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