マネーボイス メニュー

トランプか、トランプ以外か。米大統領選に波乱が起きると米国株は転がり落ちる=近藤駿介

2020年最大の注目イベントは東京五輪…ではなく米大統領選です。トランプが再選を果たせるかどうか。世界の金融市場はこの1点を中心に回っていくことになります。(近藤駿介)

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガ『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』を好評配信中。著書に、平成バブル崩壊のメカニズムを分析した『1989年12月29日、日経平均3万8915円』(河出書房新社)など。

トランプ再選が危ぶまれるだけで株価墜落? 金融市場は転換期へ

東京五輪よりも「米大統領選」に注目

いよいよ2020年が始まりました。日本にとっては東京オリンピックイヤーとなる記念すべき年ですが、世界的に見れば米国大統領選挙が最大のイベントです。

当然のことながら世界の金融市場は、東京オリンピックというローカルなイベントではなく、2020年最大のイベントである米国大統領選挙を中心に回っていくことになります。

この2020年最大のイベントである米国大統領選挙での最大の焦点は、トランプ大統領が再選を果たせるか、という点になります。

様々な批判を受けるトランプ大統領ですが、支持率は岩盤支持層とも呼ばれる支持基盤を背景に、就任以降おおむね40%前後で安定しています。しかし、再選を果たしたオバマ大統領の50%、ブッシュ(子)大統領の60%、クリントン大統領の51%と比較すると支持率が低く、再選確実といえる状況にはありません。

そんなトランプ大統領の最大の強みは、史上最長の景気回復を続けている米国経済です。

米国経済は絶好調

リーマン・ショック後の2009年6月に始まった米国の景気拡大期間はすでに10年7カ月、127カ月に達しています。

トランプ大統領が就任した2017年1月時点で米国の景気拡大期間は7年7カ月、91カ月と史上3番目の長さ達しており、FRBが利上げに転じ始める中で景気回復を続けることは難しいとも思われていました。

そうした中でも、トランプ大統領は景気拡大期間を過去最高の127カ月まで延ばしてきました

必ずしも多くの国民から支持されているわけではないトランプ大統領が再選を果たせるかは、この景気拡大を続けられるかにかかっているといえます。

71回、15回、23回、1回…合計110回。これは、トランプ大統領が就任した2017年1月20日から2020年1月3日までに、NYダウが史上最高値を更新した各年の回数とその合計です。トランプ大統領が大統領に就任してから744営業日ですから、110回史上最高値を更新したということは、実に7日に1回のペースでNYダウは史上最高値を更新している計算になります。

人気の高かったオバマ前大統領は、就任時期がリーマン・ショック後の2009年1月だったこともありますが、2期8年の任期中の2014営業日でNYダウが史上最高値を更新したのが122日に過ぎませんでした。

こうした事実からもトランプ大統領就任後の米国株式市場の好調さは目に付くところです。

Next: トランプか、トランプ以外か。金融市場が注目するのはその1点



米国経済がトランプ再選のカギを握る

こうした現実からいえることは、金融市場の注目は大統領選挙の焦点は誰が次期大統領になるかではなく、「トランプ大統領が再選されるか」にだけ向けられているということです。

たとえ多くの国民から尊敬を集め、分断された社会を1つにまとめ上げるような米国大統領に相応しい人格者が出てきたとしても、その人物がトランプ大統領でない限り、金融市場は一旦リスクオフに向かうことはほぼ確実だと考えておくべきでしょう。

今月から始まるであろう弾劾裁判の行方も、年明けとともに緊張感が高まったイラン問題も、投資家はすべてトランプ大統領の再選の障害になるかどうかという観点から見ていくべきだと思われます。

トランプ大統領の再選のカギは米国経済であり、景気拡大の象徴である株式市場の動向です。特に株価の上昇を大きな成果としてアピールしてきたトランプ大統領にとって、株価の大幅調整は何としても避けたいところでしょう。

米利下げ、もう打ち止め?

こうした中、米国の中央銀行であるFRBは、昨年3回にわたって実施してきた「予防的利下げ」の打ち止めを宣言しています。

これによって、昨年株式市場の追い風になってきた利下げ期待は、今年は期待しにくい状況になっています。むしろ、昨年FRBが「予防的利下げ」を3回も行ったのは、大統領選挙の年である2020年には金融政策を動かしたくないと考えていたからだと考えるべきでしょう。

トランプ大統領が勝利した前回の2016年の大統領選挙の際、FRBは選挙戦が本格化する前の2015年12月に9年半ぶりの利上げに動きましたが、次の利上げは大統領選挙後の2016年12月まで先送りし、大統領選挙期間中には金融政策を変更しませんでした。

おそらくパウエルFRB議長もこうした前例に倣って、大統領選挙が終わるまで金融政策を動かさなくて済むように、昨年3回の「予防的利下げ」を実施したのだと思われます。

このように考えると、2020年は、利下げは期待しにくいと見ておくべきでしょう。

そして利下げ期待がない中で史上最高値を更新してきた株式市場を維持していくために重要になってくるのが、米中貿易交渉だと思われます。

Next: 米中貿易交渉は一時休戦? 解決させないままダラダラと続けたいトランプ



株価維持に使われる「米中貿易交渉」

昨年末から米中貿易交渉が報復合戦から「部分合意」に向けて方向転換し始めたのも、米中両国の利害が一致したからに他なりません。

大統領選挙で再選を目指すトランプ大統領にとっては、FRBの利下げ期待が剥げ落ちる中で米国株式市場の強気トレンドを維持するために「米中貿易交渉部分合意」の必要性が強まって来ていました。

中国側にも旧正月である春節(2020年は1月25日)を控えて、豚コレラの影響もあり国民食といわれる豚肉の価格が1年間で倍に高騰している事態に早急に手を打つ必要があり、農産物に関して両者の利害は一致したといえます。それ故に中国側は米国産豚肉と大豆の一部について追加関税を免除し、これに呼応する形で米国側も12月15日に予定されていた追加関税を見送ることにしました。

こうした「米中部分合意」を好感し、株式式市場は12月以降8回も史上最高値を更新してきました。

大統領選挙が本格化する2020年は、トランプ大統領は米中貿易交渉の進展を小出しにして株式市場の期待を繋ぎとめようとすることになりそうです。

しかし、それは米中貿易交渉が解決することとは異なります。解決というゴールに達してしまうと、それ以上市場の期待を繋ぎとめることが難しくなりますので、次なる合意に期待を消さないためにも完全合意はあり得ないと考えておくべきでしょう。

米国経済は成長し続けられるのか?

とはいえ、127カ月という史上最長の景気拡大期にある米国経済を、さらに拡大し続けるということは容易いことではありません

しかも1期目に減税も財政支出もかなり増やしていますし、政策金利はすでに1.50~1.75%まで引き下げられており、利下げによって景気浮揚を図るには利下げ余地があまりにも少なくなってきています。

毎年1月は、年金資金などのアセットアロケーションを組む投資家が新たに動き出す時期に当たります。

リスクの塊のようなトランプ大統領が誕生してから、米国株式市場は様々なトランプリスクが叫ばれる中で40%程度上昇してきています。これによって、市場全体の動きとは異なったリターンを目指すヘッジファンドから、市場全体と同じリターンを目指すファンドへのシフトが強まって来ています。

こうした投資家のインデックス志向の強まりがさらにインデックスを押し上げ、その結果、ヘッジファンドからの資金流出を強めるという循環が見られています。

こうした大きな流れを考えると、2020年の米国株式市場は堅調、あるいは底堅い展開からのスタートになる可能性が高いように思います。

問題は、トランプ大統領再選のシナリオに黄色信号が灯ることがあるかどうかです。

Next: トランプ再選が危ぶまれれば株価は墜落? 2020年は金融市場の転換期に



トランプ再選が危ぶまれれば株価は墜落?

大統領就任以来110回も史上最高値を更新し、40%も株価を押し上げてきた大統領の再選が怪しくなることが、現在の米国株式市場最大のリスクだといえるのです。

誰に負けるのかは関係ありません。次期大統領がトランプ大統領でない可能性が出てきた時点で、金融市場はリスクオフに動くということは念頭に置いておくべきでしょう。

またトランプ大統領が再選を果たしたとしても、それは同時にトランプ大統領が大統領でいられる期間はあと4年しかないという現実と向き合い始めるということでもあり、金融市場にとってはリスクオフに向けてのカウントダウンが始まるということでもあります。

ともあれ、2020年は金融市場にとって転換期になる可能性を秘めており、運用担当者泣かせの年になるように思われます。

【関連】2020年、日経平均4万円へ? 世界経済を襲う7つのリスクと日本株のゆくえ=矢口新

【関連】AIでも5Gでもない。2020年に投資家が注目すべき業界と5銘柄はこれだ=栫井駿介

【関連】コンビニが「食品ロス」年間643万トンの元凶に? おでん無断発注を起こした構造的欠陥=らぽーる・マガジン

【関連】なぜ大戸屋は男性客を裏切った?赤字転落の元凶は値上げ・バイトテロより深刻な戦略ミス=栫井駿介

image by:SNK777 / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年1月6日)
※タイトル・見出し・太字はMONEY VOICE編集部による

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。