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トランプも新型コロナ不況に打つ手なし。金融政策行き詰まりの危険な帰結=斎藤満

ついに新型コロナウイルスの影響が金融市場を直撃。米国は緊急利下げに踏み切るも効果は薄く、金融政策行き詰まりの危険な帰結が見えてきています。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2020年3月18日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

世界の金利がなくなる日

政策金利をマイナスに設定する日欧に続いて、米国でもFRBが15日、緊急の利下げを行い、政策金利をゼロに引き下げました。

これで主要中銀の政策金利はゼロ以下となりました。

長期金利についても、主要国の中で唯一プラスを維持してきた米国でも、10年国債利回りが一時0.3%台まで低下、長期金利が限りなくゼロに近づいてきました。いよいよ主要国の金融市場から金利が消滅することになります(編注:原稿執筆時点3月18日。その後、米国の長期金利は反転上昇して1.2%まで急伸しています)。

そんな中で世界的に新型コロナウイルス感染が広がり、WHO(世界保健機関)も遅ればせながら「パンデミック(世界規模の感染)」を認めました。

G20は、すべての手段を講じて世界経済の維持安定を図ることを決議しています。

日銀も今週末の決定会合を前倒しで16日に開催し、ETFや社債などの買い入れ増額や企業金融の支援を打ち出しましたが、市場の不安は止まりません。

金融緩和策の限界

これは中央銀行にとって、金利政策の限界を意味し、金融緩和策の限界を露呈するものです。

金融当局者はそれをかたくなに否定し、量的緩和やマイナス金利策など、非伝統的な策まで含めれば、まだ打つ手はいくらでもある、と豪語しています。

しかし、それらが多くの副作用をもたらしているのも事実で、実際ECB(欧州中銀)は株が急落する中で開かれた12日の理事会では、金利引き下げを見送らざるを得ませんでした。

これは金融政策の行き詰まりにとどまらず、資本の論理が破綻したことも示唆しています。

資本が生み出す金利というリターンがなくなったわけで、資本家や彼らとつるんできた為政者は、事態の打開を図る必要があります。

1930年代の大恐慌に対して、欧米は戦争という破壊行為に出ました。資本も破壊されましたが、経済の行き詰まりもこれで破壊されました。

現在も一部には戦争をしたい勢力が中東や朝鮮半島で暗躍したようですが、トランプ・キッシンジャー・チームは戦争を回避し、代わって中国との冷戦、欧州とのデカップリングを進めようとしています。

その一方で、金融緩和に頼れない分、財政政策にシフトしようとしています。

Next: トランプ政権は今回の新型コロナウイルス感染に伴い、株が急落する事態を――



日米が財政シフト

トランプ政権は今回の新型コロナウイルス感染に伴い、株が急落する事態を重く見て、FRBに引き続き利下げ圧力をかける一方で、数千億ドル規模の財政政策を打つ意向を示しました。

給与減税が柱で、あとは被害の大きい空運や中小企業支援を柱とするものでした。

しかし議会とのすり合わせがうまくゆかず、ここまでは欧州からの入国制限や中小企業向け融資支援などにとどまっています。

しかし、秋の大統領選挙を考えれば、株価の下落を放置できず、景気に足を引っ張られないよう、最後にはまとまった規模で財政出動する可能性は高いと見られます。

リスク・プレミアムが金利押上げ

そこで注目されるのが、金利の反応です。

ニューヨーク市場はすでに株式市場が壊れてしまい、連日のようにダウが1,000ドル単位の上げ下げを繰り返しています。

その陰に隠れて目立ちませんが、実は長期金利の動きもかなり荒っぽくなっています。トランプ大統領がコロナ対策として給与減税を柱とした財政政策の意向を示しただけで、10年国債の利回りは0.5%前後から0.8%台に急騰しました(編注:原稿執筆時点3月17日。その後、米国の長期金利はさらに急伸して1.2%台となっています。)

これだけ変動幅が大きくなると、株式投資家ばかりか、債券投資家にもケガ人が出ます。相場変動が大きくなり、リスクに耐えられない投資家が株や債券を売って市場から退出すれば、相場はさらに下落(金利は上昇)します。

債券相場が不安定になると、今日の世界では市場が一段と不安定になる面があります。

長年、大規模な金融緩和が続き、超低金利が続いたため、新興国から先進国に至るまで、各国で債務が異常に膨張しています。中国では総債務残高がGDPの3倍を超え、米国では企業が株価を押し上げるために社債を大量発行し、自社株買いを進め、さらに低格付け企業へのレバレッジド・ローンが急増しました。

また昨年まで米国では多くの中小業者が債券発行で資金調達してシェールオイルの採掘を進め、米国はついに世界一の産油国にのし上がりました。シェールオイルの増産が大きく貢献しています。

半面、多くのシェール企業は信用度が低く、その資金調達が不安定なジャンクボンドに依存しています。

Next: そこで金利が上昇すると、真っ先に売られるのは、リスクの大きい――



ハイイールド債の危機

そこで金利が上昇すると、真っ先に売られるのは、リスクの大きいハイイールド債(特にジャンク・ボンド)です。

これまで少しでも高い金利を求める投資家が、あえてリスクに目をつぶってハイリスクのハイイールド債を購入して、その価格が信用力以上に吊り上がって((金利は下がって)いました。信用不安が出れば、真っ先にこれらの債券が売られます。

その点、サウジとロシアの原油価格戦争に巻き込まれた米国のシェール企業が打撃を受け、収益の悪化に直面しています。シェール企業が発行するジャンクボンドは、原油価格急落で、その返済不安が高まり、デフォルト・リスクが意識されるようになりました。

これが同様にリスクの高い証券、CLO市場からの資金逆流を呼ぶ可能性があります。

米国では本来投資不適格とみられる低格付け企業向けの貸出(レバレッジド・ローン)が急増し、これを証券化したローン担保証券であるCLOの残高が6,000億ドルを超えて急増しています。

日本の機関投資家の中にも、これを多く保有するところがあります。

これらは企業の返済が不安視されると、債券が売られやすくなり、信用不安に弱い商品です。ジャンクボンドが売られると、それがCLOからの資金逆流、相場の急落を引き起こし、挙句の果てに金融債務危機のトリガーとなって第2のサブプライム危機を誘発するリスクを秘めています。

米国市場がコロナウイルスの感染不安でこれまでになく不安定になっているだけに、ちょっとした要因で金利が大きく動く可能性があり、それだけ投資家がナーバスになっています。

財政拡大策は景気浮揚に必要ではありますが、これが金利を大きく動かすようだと、債券市場でのリスク商品が相場の急落を見せ、金融市場全体を不安に陥れる懸念があります。

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2020年3月配信分
  • 金融政策行き詰まりの危険な帰結(3/18)
  • 金融政策行き詰まりの危険な帰結(3/16)
  • 政府の面子優先で景気後退確定的(3/13)
  • 市場に手足を縛られたFRB(3/11)
  • コロナの影響、カギを握る米国が動き始めた(3/9)
  • トランプ再選の真の敵はコロナウイルスか(3/6)
  • 2月以降の指標パニックに備える(3/4)
  • 判断を誤った新型コロナウイルス対策(3/2)

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マンさんの経済あらかると』(2020年3月18日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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