ついに世界全体がコロナ大恐慌に入りました。米国の3月21日までの週になされた新規失業保険申請が、なんと328万3千件と、前週から300万件以上も増加。頑なに「緩やかな景気回復」と説明してきた日本政府も、ここに来て景気後退を認めています。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2020年3月30日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
ウイルス前から景気収縮
新型コロナウイルスの感染拡大が世界経済を止めてしまいました。
2月は中国くらいでしたが、3月になって欧米から日本、インドなどアジア各国にもこれが広がりました。
ここから世界経済は、崖を駆け落ちる形の「急落」を見ることになります。
しかし、その出発点となる「コロナ前」の経済水準がすでに脆弱で、体力がないことがわかりました。オランダ経済分析局のデータによれば、昨年の世界貿易はすでにマイナスとなっていて、その力は足元でさらに弱くなっています。
実質世界輸入の伸びで見ると、2017年に5.2%、18年に3.8%増加した後、19年は0.4%のマイナスとなりました。リーマン危機後、初めての減少です。
これと歩調を合わせるように、先進国の生産は、2017年の3.1%増、18年の2.4%増の後、19年は0.3%減となっています。
足元の勢いを見ても、1月の実質世界輸入は前年比1.4%減ですが、3か月前との比較では1.2%(年率5%弱)の減少となっています。
新型コロナウイルスの感染が広がる前に、すでに世界貿易、生産は収縮を見せ始めていました。つまり、世界が体力を落としているところに、ウイルス感染が広がったことになります。
3月の衝撃指標
そこへ新型コロナウイルスの感染が急拡大し、各国が感染抑制のため、非常事態を宣言し都市を封鎖したり、事業の停止、外出自粛を求める動きが世界規模で広がりました。
一番呑気と言われていた日本でも、首都東京を封鎖する模様です。経済活動が各国で停止するようになりました。
これを反映して、各国のPMI(購買担当者景気指数)が3月は軒並み大幅悪化し、景気の急速な悪化を示唆していました。これらは「マインド調査」ゆえに、現実の経済活動がどの程度影響を受けているか、これだけではわかりません。
そこへ先週末に現実の景気指標が、衝撃的な事実を突きつけました。米国の失業が異常な拡大を見せたことです。
米国の3月21日までの週になされた新規失業保険申請が、なんと328万3千件と、前週から300万件以上も増加しました。
最初は何らかのミスで桁を間違えたのかと思いました。なにしろ前週は28万2千件で、これでも前週から7万件も増えて注目されていました。それが300万件以上も一気に増えました。
こんな数字は見たことありません。82年に付けた69万件余がこれまでの最高でした。
Next: 米国でも営業停止、レイオフがどんどん広がっていて、感染拡大が止まら――
米国で「失業ラッシュ」が始まった
今週末4月3日に発表される「3月分の米雇用統計」自体は、3月14日までの週に調査され、この異常な数字は入りません。しかし4月分では、異常な雇用減少、失業率の急騰が予想されます。
米国でも営業停止、レイオフがどんどん広がっていて、感染拡大が止まらないと、経済の再開も展望できない状況にあります。
このため、FRBのパウエル議長もついに景気後退入りを認め、4-6月は大幅なマイナス成長を予想しました。
コンファレンスボード(日本の経団連に近い)は、ウイルス感染の拡大が4月半ばに止まり、5月に経済が再開されても、今年の米国経済はマイナス1.5%成長に落ち込み、失業率は8%に達すると予想。感染が9月までずれ込めば、GDPはマイナス6%に、失業率は15%に高止まりすると予想しました。
セントルイス連銀のブラード総裁は、失業率が30%に達すると、大恐慌以来の危機的な状況を予想しました。
日欧も大幅マイナス成長へ
日本でも3月の「月例経済報告」が、これまでの「緩やかな拡大」の文言を削除、コロナウイルスの影響で景気は厳しい状況にある、との認識に変わりました。
実質的に景気後退を認めた形になります。
昨年10-12月のマイナス7.1%(年率)に続いて、この1-3月もマイナス5%前後になると見込まれ、2期連続のマイナス成長がほぼ確実となりました。
これは国際的な「景気後退」の条件です。
もっとも、日本経済はすでに2018年秋をピークに、その後景気後退に入っている可能性があり、それが長期化しただけとも言えます。
問題は1-3月にとどまらず、4-6月もウイルス感染の拡大で首都封鎖など、経済活動の停止が広がり、さらにオリンピックの1年延長も決まり、マイナス成長となる可能性が高くなったことです。
7-9月も本来予定されていたオリンピックがなくなる分、景気低迷は続きます。
そうなると、日本のGDPも19年度のほぼゼロ成長のあと、20年度は後半によほどの回復がないと、マイナス5%近くに落ち込む可能性があります。
Next: 人々が動けず、経済活動が再開できないと、経済政策でも「特効薬」は――
世界全体で「GDPマイナス成長」へ
欧州もドイツが大規模な経済対策を打ち出すことに期待はかかりますが、イタリア、スペインが厳しい封鎖のもとに、経済が事実上停止状態にあり、フランス、英国にも感染拡大の影響が広がっています。
人々が動けず、経済活動が再開できないと、経済政策でも「特効薬」はありません。欧州経済も今年は4%以上のマイナス成長に落ち込む可能性があります。
インドなど他のアジア諸国や、オセアニアでも影響が出ていて、経済が制約されるほか、主要先進国が大幅なマイナス成長となれば、輸出も投資も期待できません。
結局、世界の今年のGDPは、IMFやOECDが予想するような2%台の成長維持はとても困難となり、世界全体でも3%から4%のマイナス成長となる懸念が高まっています。
リーマン危機と異なるのは、経済活動を止めてしまう原因が、目に見えないウイルスという敵で、これ撃退するワクチンや抗ウイルス剤の開発に時間がかかりそうなことです。
特に、一部で指摘されるような、変異が進んでいると、薬での対応が追い付きません。
この感染拡大を止めないと、いくらお金をつぎ込んで景気対策をうっても、効果が出ず、財政金融政策手段が枯渇するだけとなります。
大型景気対策も効果は限定的
米国では2.2兆ドルの経済対策が、日本では56兆円規模の対策が、ドイツでも7,500億ユーロの経済対策が予定されています。いずれもGDPの10%以上の規模になります。
しかし、物を作るにも中国から部品が来ず、金をばらまいても店が閉まり、外出できなければ、景気は回復せず、不況下の物価高(スタグフレーション)をもたらすだけです。
今は医療体制の整備と、ヒト・モノ・カネを同時に動かす方策が求められています。
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『マンさんの経済あらかると』(2020年3月30日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。