各国政府はコロナ恐慌に対して財政金融両面から大規模な需要刺激策を打ち出しつつあり、一部にはその効果から、世界経済のV字回復を期待する見方が出ています。しかし現状においては、少なくとも3つの要素から見て、V字回復は期待薄と見ます。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2020年4月8日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
ついに始まったコロナ恐慌
先週末に米国の雇用が急速に悪化を見せたように、世界経済はコロナウイルスの感染拡大によって、急速に悪化しています。
ジャネット・イエレン前FRB議長は6日、CNBCのインタビューで、米国雇用の急速な悪化は衝撃的だと言い、4-6月の米国GDPは30%を超えるマイナス成長になる、との見方を示しました。まさに「コロナ恐慌」の感があります。
各国政府は財政金融両面から大規模な需要刺激策を打ち出しつつあり、一部にはその効果から、世界経済のV字回復を期待する見方が出ています。
しかし、感染拡大に終止符が打たれ、経済封鎖、移動制限が解かれ、国民の間に不安が消えないと、その刺激効果は表れにくく、「見せ金」にすぎなくなります。
現状においては、少なくとも以下の3つの要素から見て、V字回復は期待薄と見ます。
V字回復は期待できない理由その1:先進国でまだ収束が見えない
まず第1に、先進国での感染拡大に収束が見えません。
ニューヨークでは死者の増加ペースがやや鈍ったとはいえ、米国でのウイルスによる死者は10万人から24万人になるとホワイトハウスは予想しています。現在はまだそれに対して初期段階にあります。
東京では1日の感染者増加が100人を超え、米国に遅れて「感染爆発」の危機が迫っています。
今や欧州と米国がバンデミックのエピセンター(感染の震源地)となり、各地でロック・ダウン (都市封鎖)がなされたものの、いまだに感染のピークも見えてきません。
収束に最も期待が寄せられる特効薬、抗ウイルス剤の開発が途上にあります。ワクチンの開発には1年から1年半かかるというので、今年中には使えません。抗ウイルス剤については、日本でもアビガンの他、4種類の開発が進められていますが、副作用などの臨床試験を経て実用化するには、まだ時間がかかります。既存薬の中で、アビガンや米国のエボラ熱用の薬が有効とされていますが、それぞれに短期間では判明しない副作用が指摘されていて、そのリスクを踏まえた利用に至るには、もう少し時間が必要と言います。
こうした不安が広がる中では、個人自体が外出を自粛せざるを得なくなり、実際、世界の主要都市では「ゴーストタウン」化が進んでいます。世界から危機感が乏しいと、対応のぬるさを批判される日本でも、都市の空洞化が進みつつあります。
この状況が解消されないと、人々の経済活動復活は困難で、この状況が長引くほど、耐えられなくなって経営破綻する企業が増えてきます。
すでに米国ではわずか2週間で失業保険申請を行った人が1千万人にのぼり、人手不足の状況が一転して大量失業の不安に襲われています。日本でもやや遅れて「雇い止め」「内定取り消し」「首切り」が出るようになりました。
今後感染が拡大して、失業、倒産が増えてゆくと、景気の下げ止まりの前に、さらに階段状に低下するリスクが高まります。
先進国ではいずれ感染拡大がピークを打ち、その後感染者数、死者の数が減少して落ち着きを取り戻す局面が来ると見られますが、ドイツのメルケル首相は国民の6割から7割の感染が避けられないと言います。
国民の多くが感染済みで抗体を獲得するまでにはまだかなりの時間がかかります。その間、国民の間に不安が払しょくされない中では、先進国経済で見ても、L字型の景気低迷が続く可能性があります。
Next: 第2に、先進国で感染拡大が収束に向かっても、途上国での感染が――
V字回復は期待できない理由その2:途上国の感染拡大の脅威はこれから
第2に、先進国で感染拡大が収束に向かっても、途上国での感染が長期間拡大、持続する可能性があります。先進国のような大都市型の感染爆発はない代わりに、感染がゆっくり、しかし長期間持続し、都市部から地方にまで広がる懸念があります。
先進国のような医療体制が整わず、衛生状態も良くない地域では、ちょっとした感染が重症化し、深刻な事態に陥るリスクがあります。
先進国で収束が見えてきても、アフリカや中南米など途上国からの感染リスクが長期間残ります。
先進国で抗ウイルス剤が実用化されるか、国民の過半が抗体を獲得すればよいですが、その前段階で収束した場合、途上国からの感染を封印しないと、また感染がぶり返します。
途上国まで含めた感染の収束を見るには、かなりの時間を要し、今年中にこれが実現する保証はありません。
世界のどこかにまだ感染源が存在し、先進国に潜入するリスクがある間は、経済活動の完全な再開は期待できず、従って経済のV字回復も期待できません。
V字回復は期待できない理由その3:感染封じ込めの中国も浮揚せず
第3に、感染が封じ込められたとされる中国の事例を見るにつけても、現実のV字回復は期待できません。
中国では中央政府の強権発動で多くの都市が封鎖され、人の移動が禁じられました。その成果からか、感染者は8万人台で止まり、政府はコロナ戦争に勝利したと宣言しました。
そして3月になって企業は営業を再開し、都市の封鎖も次第に解除され、人の移動も許されるようになりました。これを見て、中国経済のV字回復を唱えるエコノミストも少なくありません。
その点、誤解を招いたのが国家統計局がまとめた3月のPMI景気指数で、これが2月から急反発し、50を超えたことです。製造業は2月の35.7から52.0に、非製造業は2月の29.5から52.3に急上昇しました。
これを見て、多くのエコノミストが、中国の景気落ち込みは2月の1か月だけで、早くも3月には通常の拡大軌道に戻ったと判断しました。PMIだけ見ると、1月から50.0、35.7、52.0と、いかにもV字に見えます。
しかし、厳密にいうと、中国のPMIは前の月に比べて上向きか下向きかを問うもので、2月は1月に比べて、大幅に低下したことを示唆。一方、3月の数字はその大きく後退した2月の水準からわずかに高まったことを示しているにすぎません。
平時であれば52という水準は堅調、と言えますが、今回は事実上経済活動がほぼストップした2月と比べているので、そこからわずかに上昇したと言っても、水準はかなり低いものです。
例えば、1月の水準を100とすると、2月は20くらいに落ち込み、3月は22に回復しても、PMIは前記のようになります。3月はPMIから見ると1月より強く見えますが、実際の経済活動水準は2月よりはましですが、1月から比べると大きく落ち込んだままと言えます。
中国経済は、封鎖された2月に大きく落ち込んだ後、封鎖が解除され、工場が再開された3月も極めて低い水準にあります。
Next: 中国が徐々に生産水準を高めたとしても、欧米など海外主要国の市場が停滞――
また、中国が今後徐々に生産水準を高めたとしても、欧米など海外主要国の市場が停滞したままでは輸出もできず、回復の道筋が閉ざされた形になります。
いち早く感染を封じ込めたと自負する中国経済自体も、足元はL字型になっていて、回復感が乏しい状況にあります。
これが今後の主要国経済の先行指数とも言えます。
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- コロナを巡る米中の思惑と現実は(4/6)
- 働き方改革が裏目に?(4/3)
- 緊急経済対策は、危機版と平時版を分ける必要(4/1)
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『マンさんの経済あらかると』(2020年4月8日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。