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コロナはユニクロに追い風? 親会社4割減益予想もオシャレ不要の世界で天下を取る=栫井駿介

ユニクロを運営するファーストリテイリング<9983>は、2020年8月期の営業利益予想を従来から40%下方修正しました。新型コロナウイルスの影響で客足が遠のき、緊急事態宣言の発出により休業となる店舗も出ています。このまま外出自粛が続いたらユニクロ、そしてアパレル業界はどうなってしまうのでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

3月売上は3割減少。コロナはどこまで続くか?

4月9日、ファストリが2020年8月期業績予想の下方修正を発表しました。7都府県に緊急事態宣言が出された2日後です。

3月の既存店売上高は27.8%減少し、緊急事態宣言の発出により休業を余儀なくされる店舗も出てきました。緊急事態宣言は16日に全国に拡大されましたから、一層の状況悪化が懸念されます。

最大の問題はこれが「いつまで続くか」ということです。同社の業績予想の前提では「6月以降に状況が徐々に正常化」ということですが、世界の様子を見るとそう簡単には収まりそうにありません。

緊急事態宣言が解除されたとしても、ウイルス自体がなくなるわけではないので、再び感染拡大と自粛を繰り返し、多くの人が一度感染することで抗体を持つか、有効なワクチンが開発されるまで事態は解決する気配がありません。

ファストリも、下期(3~8月)だけを切り取ると赤字予想となっています。状況が変わらない限り、このまま当面赤字が続くことを想定した方が良さそうです。

鉄壁な財務と輝きを放つ「GU」の存在

ただし、ファストリはかなり「マシ」な方です。

これまで好調な業績を続けてきた結果、保有する現金は1.2兆円にものぼります。有利子負債が約6,000億円ですから、まだまだ持ちこたえる体力があるのです。

おまけに、ここにきて頼りになるのが格安ブランド「GU」の存在です。3月の既存店売上高はマイナス9%にとどまり、力強さを示しています。

GUの存在は、これからのアパレル業界を考える上で大きなヒントになりそうです。人々は外出を控えますから、デートで使うようなオシャレな服は不要になります。在宅勤務が増えると、スーツの需要も激減するでしょう。

私は4年以上在宅勤務(自宅兼事務所)を続けているのですが、仕事で外に出ないと本当に服装に気を使わなくなります。ZOOMで会議なんかしていると、上半身だけ整えて下はパジャマという有様です。

このような状態が一般的になってくると、人々が服に求めるのは「いかに楽に着られるか」ということになります。私自身、普段着る服の8割はユニクロになってしまいました。ユニクロが掲げる「Life Wear」の戦略にまんまとはまっているのです。

部屋着としてユニクロが高いと思うなら、GUに行けば良いのです。新型コロナウイルスの影響下でもGUの売上が大きくは下がっていない一つの要因だと考えます。部屋着なら細かいことは気にしませんから、店舗が閉まっていてもオンラインで買えば良いのです。

長期的に見ても、この流れは止まらないと思います。人は一度ラクすることを覚えたら、もう面倒なことには戻れません。私ももうスーツは着たくありませんし、ユニクロ以外のお店に行くことも億劫(おっくう)になっています。

クールビズなどの影響もあり、服のカジュアル化は進む傾向にありましたが、外出自粛で今後ますます加速することになるでしょう。新型コロナウイルスはあらゆる業種で時代の変化を加速させることになるのです。

Next: 一方で、苦境に立たされるのがいわゆる「オシャレ」なアパレルです――



「オシャレ」なアパレルは消える!? 店舗数は2年で半分に…

一方で、苦境に立たされるのがいわゆる「オシャレ」なアパレルです。

「23区」「自由区」「Jプレス」「ポールスミス」などのブランドを展開するオンワードホールディングス<8016>は、2020年2月期に520億円の最終赤字を計上し、同時に約700店の閉鎖を発表しました。前期にも約700店を閉鎖しているので、約3,000店あった店舗数は一気に半分に減ることになります。

オンワードは、百貨店を中心に出店してきました。普及価格帯より少し上のブランドという位置づけです。

しかし今、この価格帯の需要がまさに「蒸発」してしまっているのです。需要があるのは、ごく一部の高級ブランドと、あとはユニクロやしまむらなどの低価格品に二極化しています。

家具業界で言えば、「中の上」を相手にしていた大塚家具がニトリに取って代わられたことが象徴的です。大塚家具は風前の灯ですが、同じことがアパレル業界でも起こっているのです。

そこへこの新型コロナウイルスです。多くのアパレル会社はもともと余裕がありませんから、多くの企業が破綻の危機にさらされるでしょう。もし何とか乗り切ったとしても、社会の変化は加速し茨の道しか残されていません。

オンワードは、新型コロナウイルス以前から余裕のあるうちにEC化のためのリストラを進めていたことが、ある意味幸運だったかもしれません。変化への準備ができていない会社にはもう後が残されていないのです。

ディズニー映画「ウォーリー(WALL・E)」に描かれた近未来は近い?

私が持っている近未来のイメージが、ディズニー映画の「ウォーリー(WALL・E)」の世界です。ここで人間は宇宙船の中で一人ひとりが動くベッドのようなものに乗り、同じ服を着て、寝たまま食べ物を貪ります。
※参考:Google画像検索「ディズニー ウォーリー 人間」

目の前に表示された画面で映画を観て楽しみ、そのまま眠りにつきます。これはスマートフォンやタブレットそのものです。新型コロナウイルスによる外出自粛で、この未来が現実になっていると感じるのです。

もしかしたら、このまま人々は1日中iPhoneでNetflixを見ながら、AmazonとUberEATSで食料を調達し、ユニクロやGUの画一的な服を着て1日を過ごすようになるようなことも想像できます。

決して理想的な未来ではないかもしれません。しかし、そこに人間の本質が隠れていると思います。投資家としては、これを参考に次の投資チャンスはないかと夢想してみたりすると面白いものです。

Next: ファストリが下方修正を発表した翌日、株価は2.6%「上昇」しました――



日経平均株価は「ユニクロ指数」

ファストリが下方修正を発表した翌日、株価は2.6%「上昇」しました。下期が赤字になると発表したとは思えない反応です。

日経平均株価 日足(SBI証券提供)

これが「悪材料出尽くし」なのか「将来への期待」なのかはわかりません。単純に相場全体の雰囲気に流されただけとも考えられます。株価の動きとはそれほど読めないものです。

ただし、同社の株価が特異な状況にあります。その最大の要因が「日経平均株価」です。

日経平均株価は、必ずしも相場全体を示す指標ではありません。採用銘柄の株価を単純平均するため、単価の高い「値がさ株」の影響を受けます。

ファストリの株価は現時点で約5万円と、平均(2,000円弱)から大きく乖離しています。その結果、ファストリは日経平均の約10%を占め、日経平均は「ユニクロ指数」とも言える状態となっているのです。

それだけなら株価への直接的な影響はないのですが、ここへ「日銀のETF購入」が絡み、話がややこしくなってきます。日銀は日経平均ETFをたくさん買っていましたから、間接的にファストリ株を大量に買う羽目になってしまったのです。

日銀買いの弊害と株価下落リスク

すでに同社の20%は日銀が保有していると言われます。日銀は主に株価が下がった時に購入します。したがって、投資家の間に「下がっても日銀が買う」という奇妙な安心感が醸成されているのです。

そのせいか、ファストリのPERは常に30~40倍で高止まりしてきました。

出典:バフェット・コード

そのせいで、私たちバリュー投資家にとってはまったく買い場がない状況が続いています。いわば、買い場を日銀に奪われているのです。

日銀は、新型コロナ・ショックを受けてETFの買入額を年間6兆円から12兆円に倍増させました。今回の株価上昇も、投資家による日銀への期待と無関係ではないかもしれません。

ただし、2018年7月以降、日銀は日経平均ETFの購入割合を全体の5割から1割に引き下げています。すなわち、それ以降ファーストリテイリングに偏って買っているということは必ずしもなくなっているのです。

もし、投資家が惰性で株を買っているとしたら、急落時に思ったように日銀が入らずパニックを引き起こす可能性があります。買い手がいなくなれば、株価はこれまでのコンセンサスを超えて一気に下がることになるでしょう。

ただでさえ割高な株価ですから、この点は忘れてはいけないリスクとなります。

もっとも、そうなったときは、私たちバリュー投資家にとっては大きなチャンスです。良い銘柄なのは間違いありませんから、株価が落ちてくるのを虎視眈々と待っていたいと思います。


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image by:LegoCamera / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年4月22日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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